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中編4
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シャンプーハット

ある女性の方から聞いたお話です。

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この方を仮にAさんとしますが、今回はこのAさんが幼少期に体験したお話だそうです。

Aさんには2つ上にお姉さんがいて、今でもとても仲が良いそうです。

ただこのお姉さん、小さい頃ちょっと不思議なことを言う子どもだったらしいんですよ。

「あそこに赤ちゃんがいる」とか、「なんであのおばあちゃん、いつもあそこに立ってるんだろう?」とか、Aさんには見えない何かが見えているようでした。

当時Aさんはそんなお姉さんをおかしいとは思ってはおらず、どうして自分には見えないんだろうくらいに考えていたそうです。

むしろAさんにはそんなことよりも疑問に思っていたことがありました。

それはお姉さんが頭を洗う際、いつもシャンプーハットを使っていること。

当時Aさんは小学3年生。自分はもうシャンプーハットを卒業しているのに、2つも上の姉はいまだに使っている。

お姉ちゃんなのにどうしてだろう?

自分より大人に見えていたお姉さんが、自分よりも子どもみたいなことをしている。それがAさんにとって1番の疑問でした。

だからある日、理由を聞いてみたんです。2人でお風呂に入って、並んで頭を洗っている時に。

Aさんはシャンプーを頭の上で泡立てながら、泡が目に入らないようにうっすら開けた横目でお姉さんを見ました。

お姉さんは、壁にかかった鏡をまっすぐ見ながら髪を洗っています。

もちろんシャンプーハットを被って。

「ねえお姉ちゃん?」

「どうしたの?」

お姉さんは鏡から一切視線をそらさず、Aさんに返事をしました。

「なんでお姉ちゃんはお姉ちゃんなのに、そんなの着けてるの?」

「シャンプーハットのこと?」

「うん。それって小さい子が使うやつでしょ?」

「うーん……」

お姉さんは難しい顔をして、少しの間沈黙しました。

うまく言葉が見つからないのか、何度か首をかしげていたそうです。

「なんでだろうなぁ……時々わかんなくなるから、かなぁ」

Aさんにはさっぱり意味がわかりませんでしたが、答えたお姉さん自身も言いたいことが伝えられていないようで、困った顔をしています。

「何がわかんなくなるの?」

「えっと、うーん……」

「ねぇ何が?」

「えっと……」

「ねー、何がわかんないのー?」

Aさんがしつこく尋ねると、お姉さんは突然後ろを振り向いたそうです。

その直後、Aさんがまったく聞いたことのない、低い女の声が背後から聞こえてきました。

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「どっち洗ってるかだよ」

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突然のことにAさんが固まっていると

ベチャッ……

彼女の頭に、冷たく湿ったものが落ちるのを感じました。

「えっ……」

咄嗟に目を瞑る。

少し重くて、カビのような臭いのする何かが、Aさんの頭頂部から額にかけて垂れている。

それが微かに動いて、撫でるように彼女の頭を這っている。

やがて頭を洗っていた彼女の指先に、手の甲に、腕に、その何かが触れる。

冷たい。

まるで無数の細いナメクジが、粘液を広げながら頭と腕を食んでいるかのようだった。

さっきまでお風呂には誰もいなかった。

でも今、確実に誰かが真後ろにいる。

シャンプーがどんどん顔に落ちてきて目も開けられない。

それでもこれが何だかわかる。

長い……髪の毛だ……

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「ねぇ……洗ってよ……」

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「ひっ!」

さっき後ろから聞こえた声が、今度は耳元で囁いた。

全身に鳥肌が立つ。

いやだ……いやだいやだいやだ!

目をぎゅっと瞑り、もはや自分のものかもわからなくなった髪を強く掴んだ。

「もうやめてよ……」

溜め息混じりの聞き慣れた声が聞こえた瞬間、上から熱いシャワーが勢い良く注がれた。

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蛇口を捻る音とともにシャワーは止まり、お姉さんの声が聞こえました。

「もう目、開けてもいいよ」

恐る恐る目蓋を開くと、目の前には優しい顔をしたお姉さんだけが立っていました。

それを見て安心したAさんは、お姉さんに抱きついて大泣きしたそうです。

泣き声を聞いてご両親もお風呂場に駆け込んできたそうですが、2人の説明は要領を得ず、結局Aさんの気のせいだったということにされたそうです。

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それからAさんの身に不可思議なことは起きていないそうですが、この一件以来Aさんもシャンプーハットを使わないと髪を洗えなくなってしまったとのことです。

もしもまた、誰かの髪が自分の頭に垂れてきたら……

そう考えると、確認せずにはいられないでしょうね。

大人になってから当時のことをお姉さんに聞いたらしいんですが、あの時Aさんの後ろには、うなだれて彼女の頭に長い髪を垂らしている裸の女がいたそうなんです。

お姉さんもその女が何なのかはわからない、とのこと。

ただその髪の毛にはヘドロのようなものが絡み付いていて、見るからに普通の死に方をした人間には見えなかったそうです。

ちなみに聞いたところによると、別に怖がっている様子はないのですが、お姉さんもいまだに必要らしいんですよ。

シャンプーハット。

Concrete
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