社会人になった桂太に小学生からの親友である涼介から電話があった。
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「もしもし桂太か?」
涼介の声はどこか悲しげだった。
「おう久しぶりだな。どうしたなんかあったのか?」
「おれ死のうと思ってるんだ」
真剣な声で言われたので桂太は「やめろ!ダメだ」と引き止めた。
それでも涼介は「いや、おれはもうダメみたいだ。死んで楽になろうと思う」と言った。
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「なんでそう思うようになったんだ?何か原因があるんなら解決できるように協力するから生きてくれよ」と桂太が返すと。
「おれさ。一昨日くらいに大学の友達と心霊スポットに行ったんだけど、帰ってから女に取り憑かれてるみたいでさ。毎日、家の中で物音はするわ天井から髪の毛が降ってくるわ。『死んじゃいなよ』と囁かれるわで嫌になってんだよ」
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桂太は自殺するほどのことではないと思ったので。
「まだ他に何かなかったの?」と聞いた。
「他にはないけど、おれは必要じゃない存在なのかと思い始めた。そう思うようになったきっかけは分からないけど、、、なぜかとてつもなく自分のことが嫌になり死にたくなったんだ。だけど本当は自分が不必要な存在だと信じたくなくて桂太に電話した。」
涼介は電話の向こうで泣きじゃくってるようだった。
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「ありがとう。おれに連絡してくれて嬉しかった。涼介が不必要な存在なわけがない。小学校のあの日、覚えてるか?おれを助けてくれたじゃないか」と桂太は昔話をした。しばらくその話で盛り上がったが涼介は「もうそろそろ死ぬよ」と言った。
「なんでだよ!死ぬなよ!」と桂太は必死に止めた。
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「死ぬ前にやってほしいことがあるんだ」と構わず涼介は言った。桂太は必死に「やめろ!」と言っていたが涼介が話し始めたのでしっかりと涼介の言葉に耳を傾けた。
「白いユリの花を川に流してくれ。どの川でも良い。それが最後の願いだ」と言った。
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桂太は電話を繋げたまま、車に乗り白いユリを買って川に急いだ。その間も「死ぬな!生きろ!」と桂太は必死に呼びかけていた。
しかし、涼介は何も喋らなくなり桂太にとってその沈黙はとても長く感じられた。やがて川についた。するとブツンと小さな音が鳴り涼介との電話が切れた。桂太は電話を何度も掛け直したが繋がらなかった。
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涼介から言われた通り白いユリを川に流した後、その日のうちに車で涼介の家に向かった。涼介は進学を機に県外に行ったので車でも8時間ほどかかる。急いで涼介の家に向かい着いたのは翌日の朝であった。
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ピンポンを鳴らし、大声で「涼介ー!」と呼びかけた。本当に自殺したと思いたくなかったのだ。少しして「誰だよ、朝からうるせぇなぁ」とだるそうな声がして玄関のドアが開いた。当然桂太は驚いた。目の前に死んだはずの涼介がいたのだ。
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「なんだよ。やっぱり生きてるじゃねぇか」と呟いて、一気に全身の力が抜けたように桂太はその場に腰を下ろした。
「あ!桂太じゃん!久しぶり!まぁうちに入れよ」と
涼介は呑気に挨拶をしながら桂太を部屋に入れた。
少し落ち着いてから桂太は「いや、お前から昨日自殺するとか言われてさ」と今までのいきさつを話した。
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「おれ昨日お前に電話かけてないよ」と涼介から言われた。
「いや、でも実際に」と桂太は着信履歴を見せた。
「これ、不明って書いてあるよ」と言われ確認すると確かにそうなっていた。
「あれ?おかしいな、昨日ちゃんと涼介から来てたのに」
「まぁ、そんなことよりさ。久しぶりに会ったんだしどっか行こうぜ」と涼介に誘われ桂太は遊びに出かけることにした。
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(補足)涼介は心霊スポットになんて行っていないと言う。掛かってきた電話番号を調べたが所在地は不明だった。では、なぜあのような電話がかかってきたのか?
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(事実)桂太と涼介の知らない事実がある。〇〇県のある場所に地元では有名な自殺の名所である滝があった。しかし、ある年からそこで自殺する人はいなくなった。かと言って観光スポットになるわけではないが、その滝壺には白いユリの花が多く流れてきている。
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(考察)
本当は死にたくなかった自殺者の霊が犠牲を増やさないために、白いユリの花を流してもらうことにしたのではないか。死ぬなという意思が込められたユリを集めたかったのかも知れない。
わざわざ霊が親友のフリをしたのは自殺を他人事と捉えて欲しくなかったからだろう。
しかし、一つ怖いことがある。もし桂太が涼介(偽者)からの電話を途中で切っていたらどうなっていたのだろう。
作者やみぼー