今回は知らない方が良いかも知れない話です。それはある現象についてのことです。それが起きたことで実害があったのかは人それぞれの部分が大きいため、変な現象についての話のみになります。
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僕は高校生の時テニス部に所属しており遠征がありました。顧問からは「お前たちは高卒にもなれば立派な大人にならねばならぬ。そこで現地までは各自で辿り着くように!」と指示を受けていました。顧問の意図は僕たちが「自立した大人になるため」でした。そこで電車にしろバスにしろ出来るだけ仲間を頼らず、一人でやるようにとも言われていました。
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そして遠征の日の朝、僕は事前に調べた電車に乗り現地まで向かっていました。顧問の意図する通り、僕は一人で行動していました。現地までは片道2時間で一回乗り換えがあります。乗り換えの駅に向かうまでは朝早いこともあり椅子に座れて快適でした。しかし乗り換えでは人が多くなり立たざるを得ませんでした。
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立っている人の間にはゆとりがありましたが、席は全て埋まっている状態でした。しばらく電車に揺られていると目の前に変な人がいました。ジッと僕の方を見ているのです。『気持ち悪いなー』と内心思いながら目をそらして違う方向を見ました。するとその人は僕の顔に合わせてまた見てきました。
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180度体を回して窓の方に目をやったとき、窓ガラスに映る僕の顔を見ているようでした。『なんなんだ、この人は』と苛つきましたが、小心者の僕は心の中で怒るだけでその人に何も言えません。仕方なく場所を移動してもたれられる壁際に体を預けて目を閉じました。3つくらい「〇〇駅〜」とアナウンスされたので流石にもうあいつはいないだろうと、ゆっくり目を開けるとあいつはジッと見てきていました。しかも顔の角度や目線までぴったりと合わせてきたのです。
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『なんでこいつはずっと追ってきてまで見てくるんだ!』と苛つきもあったせいか、そいつの方を逆に睨みつけました。「うわ!」と軽く叫んでしまいました。その男の瞳には僕が鮮明に映っていたからです。光の反射により多少は人間の目も鏡のような役割があるにしろ、はっきりと見えてしまうのは明らかに異常です。さらに気持ち悪かったのが、男の目に映った僕は僕の方を指差していました。
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男はニタリと笑った後、弾むような足取りで別の場所へ去りました。『何かがあったのだろう』『男が満足した理由に自分は関わっているのだろう』『それは何なのか』と考えていました。そう考え込んでいるうちに電車は遠征先の最寄駅に着きました。
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駅から歩いて遠征先である高校へ向かっていると仲間の何人かと合流しました。さっそく電車で起きた変な体験を話しましたが、「別にお前の顔何にも変わってないし大したことないだろ。夢でも見たんだよ」と言われました。自分の顔に異常がないと言われてホッとしました。しかし、仲間と話しているときに異常に気づきました。みんなの目に全く光が無く真っ黒だったのです。僕以外はそう見えてないらしく、普段通り話していました。仮に誰か1人でも僕と同じように見えていたならその人は変だと言うはずです。
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やがて遠征先のある高校に着き練習試合を始めました。他校の人の目もほとんどが黒い目をしていたのですが、相手の顧問の先生だけは普通の目をしていることに気づきました。それに気づいたのは試合が終わった後に相手の先生の元へ「自分のプレーはどうだったか?」と尋ねたときでした。『やっと普通の目を見れた!自分の目がおかしいわけじゃなかったんだ!』と内心嬉しかったのと安堵していました。
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つい先生の瞳を真っ直ぐ見ながら話を聞いてしまいました。その先生からは真っ直ぐ人の目を見て話が聞けるのは良いことだと褒められました。話を聞き終えて「ありがとうございました」と言って、仲間の元へ戻るとみんなの目も普通に見えるようになっていました。
「良かったー」と呟くと「何が良かったんだよ(笑)」と僕と最も仲が良いSが声をかけてきました。Sは親友だから真剣に聞いてくれるし分かってくれるだろうと思い、今までの経緯を話しました。
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話の最後に「今は普通に戻ったから良いんだけどね」と言うと少しSが深刻な顔になりました。「どうしたの?」と訊くと。
「いや、さっきおれ〇〇先生(相手の顧問)のところへ試合後の話聞きに行ったらさ。変なこと聞かれて」
とSが言うので「まさか!?」と声が出てしまいました。
「そう。相手の瞳に映る自分の姿が鮮明に見えることってある?って聞かれたんだ。」
作者やみぼー