皆さんに切実な質問があります。
それは、私たちが普段よく使っている「アレ」の名前についてのことです。
もしかしたら、今この話を読んでくださっている方も、まさに「ソレ」を使われているのかもしれません。
形は縦長で、片手に収まる便利な情報端末。
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そう、「スマートフォン」
ですよね?
もしも皆さんがこの名前になんの違和感もないのなら、どうやら私も嫌な夢から目を覚ますことができたようです。
突然こんな話をされて、「?」と思われたことでしょう。思わない人はおりません。
私が今朝、ベッドの上で目を覚ますまでの出来事をお話しいたします。
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昨日の朝(”今朝”ではありません)、私は身支度を整えて、大学へ向かいました。
私の通っている大学では、コロナの影響による長い閉鎖期間が終了し、面接授業が再開されたのです。
大学直行のバスを降りて、キャンパス内を歩いていたところ、
「よっす!」
大学の友人Aが後ろから話しかけてきました。
A「今日から再開だな。俺、基本うちで引きこもってたから正直だるいわ」
Me「だな。でもずっとオンラインていうのもキチィよ」
男子大学生にありがちな「ダルイわキツイわトーク」に花を咲かせながら、講堂へ向かっていました。
A「そういやさ、俺”〇e×a△o”買い換えたんだよ」
Me「え?なんて?」
私はそのワードをうまく聞き取れず、思わずAに聞き返しました。なんとも聞きなれない単語がAの口から出てきたような気がしたのです。
A「いや、だから‘‘ペパホ”だよ。買い換えたの!」
Me「”ぺぱほ”・・・?」
生まれてこの方、聞いたことのない響きです。
”だっちゅーの”の方がまだ聞きなじみがあるくらい。
A「ほら、これだよ」
そう言ってAはポケットから長方形の、黒い光沢を宿した端末を取り出しました。
それはどうみても、私が普段「スマホ」と呼び親しんでいるものでした。
Me「”スマホ”じゃなくて・・・?」
A「ふぇ?”すまほ”?なにそのダッサイ呼び方」
Aはまるでその物体を「ペパホ」と呼ぶのがあたかも正しいというような、きょとんとした表情を見せました。
私はそのとき、Aにおちょくられているのかと思い、あまり良い心地はしませんでした。
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この日は講義の初回のガイダンスの日でした。
私たちが席に着いたとき、成績評価の方法や聴講の注意点などを説明するに際して、講師が次のようなことを言っておりました。
「私語や飲食など、周りに迷惑をかける行為には厳正に対処します。
特に”ペーパーフォン”を持っている学生は、講義中に操作しないよう、常にしまっておくように」
この言葉を受けて何人かの素直な学生は、長方形の端末をポケットやカバンに入れていました。
それはやっぱりどう見ても、私の目には「スマートフォン」にしか見えないものでした。
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Me(なにかおかしい・・・)
時間割をこなしてAとわかれた後、私は自分の「ペーパーフォン」とやらに答えを求めることにしました。
検索エンジンを起動。検索ワードは・・・、
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「スマート・・・フォン」っと・・・。
そしてその検索結果は・・・、
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「該当する項目:0件。該当するキーワードがありません」
え・・・?
その検索結果はこの世に「スマートフォン」なる単語が存在しないことを示すものでした。
Me「いやいやいやいや・・・」
私は冷や汗の滑る手で、ワードを変えて再度検索をかけてみました。
「スマホ」
・・・これもだめでした。
そのあと音声認識にも縋ってみましたが、「よくわからない」という素っ気ない応答が返ってくるだけでした。
自分の知っている、知っているハズのたった一つの単語が置き換わっている。
そしてそのことに、周りのみんなは誰も疑問を感じていない・・・。
たったそれだけのことで、私はまるで異世界に迷い込んでしまったような気分になりました。
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Me「ああ、そうか。俺は今夢を見てるんだ。限りなくリアルで、整合性の取れた夢を・・・」
わざと声に出して、自分に言い聞かせたかったのでしょう。
その言葉とは裏腹に、私は帰宅後、その日の入浴も、夕食も、歯磨きもすべて放棄して、着替えすらせずにベッドにもぐりこんだのです。
「目が覚めたら、すべて元通り・・・」
そう一縷の望みをかけて・・・。
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そして今朝目が覚めて、以上の出来事を報告するために怖話に投稿した次第です。
さあ、皆さんどうでしょう。
皆さんが使っている端末は、確かに「スマートフォン」ですか?
だったらいいのです。
どうやら私が昨日の出来事だと思っていたのは、ただの夢だったということで納得ができますから。
ただひとつ、私の今の服装が、その「夢」の中でベッドに入る前のままなのが、気がかりなのですが・・・。
作者つぐいら。
マイ怖話、ようやっと10作品目。
長かった…。