その夜、親友コンビのタジマとイサカは「出る」ことで有名なトンネルへ肝試しにやってきていた。
separator
タジマ「さあ、イサカよ、ここで俺たちの「男」が試されるぞ!」
トンネルの入り口まで、目測10メートル。
お調子者のタジマが意気揚々と先導する。
対照的に重苦しい表情で歩を進めるのが、相棒のイサカだ。
イサカ「なんか、すごく雰囲気出てるね・・・」
このトンネルの幅は、20人ほどの人間が横並びで同時に通行できるくらい。
決して狭くはないが、電気がほとんど通っておらず、トンネル内の照明は非常にわびしい。
そんなわけでイサカの言う通り、非常に「雰囲気」が出ていた。
nextpage
タジマ「さあて、到着」
二人が入り口についたとき、洗礼とでもいうかのように、正面からひんやりとした風が吹いてきた。
「うぅーーーーーーー」
トンネルの奥で風がうなっている。まるで不気味な女性の歌声にも聞こえた。
イサカ「いかにもホラースポットに見えるように、このトンネルの管理者が演出でも施してるのかな・・・」
タジマ「お前さんが冗談言うのも珍しいな」
タジマはイサカが恐怖を紛らわそうと、わざと気丈に振舞っているのが分かったが、あえて口には出さなかった。
nextpage
ぺた、ぺた・・・。
トンネルの中盤あたり、無機質な地面の上に二人のサンダルの音が響く。
二人「・・・」
入り口とはまるで違うこの雰囲気にさすがのタジマも黙ってしまったため、長く沈黙が続いた。
そしてその沈黙を破ったのはやっぱりタジマだった。
nextpage
shake
「うおぁっ!!」
申し訳程度の電灯に頼って、タジマの視線をたどるとそこには・・・
壁に沿って、何かがトンネルの奥までずっと続いていた。
それは横並びにびっしりと、壁に描かれた人型だった。
タジマ「な、なんだラクガキか・・・」
趣味の悪いいたずらをする奴がいるもんだ・・・。
ほっとひと安心したタジマがイサカに笑いかけるが、当のイサカもよほど驚いたのか
さっきより顔が青ざめていた。
nextpage
そこからは先へ進むごとにタジマもなんだか居心地が悪くなってきた。
両側の壁一面に描かれた人型をしきりに気にするようになった。
この数、本当に誰かが「描いた」のだろうか・・・。
nextpage
イサカ「ねえ、引き返そう」
唐突な切り出しだった。
だが、この状況が明らかに普通ではないと察し始めていたタジマは勢いよく踵を返し、快く話にノッた。
タジマ「なんか、ごめんな。お前までムリヤリつれてきて・・・」
イサカ「いや、いいんだよ。お互い様だから・・・」
イサカは一瞬口をつぐむ。そして次の瞬間、相棒のタジマでさえいまだ見たことないほどの勢いで喋りだした。
「変に怖がらせると悪いと思ってたけど、この際はっきり言うよ。
「壁にいるアイツら」、ラクガキなんかじゃない!」
nextpage
「全 部 人 の 影 だ よ」
nextpage
言い終わるや、二人はトンネルの入り口めがけて狂ったように走った。
トンネルを出てからも、しばらくはがむしゃらに走り続けた。
作者つぐいら。
トンネル系の怪談です。
さほど長い話ではないので、気軽に楽しんでいただければ幸いです。