それは夏祭りの夜だった。
とある兄弟が、屋台を見て回っていた。
弟は小さなハッピに身を包み、大いにはしゃいでいる様子だった。
そんな弟が急に奇妙なことを言い出した。
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ヘンなおとがきこえる_。
兄も耳を澄ますと、
「_、
_、
_・・・」
本当だ。
それは音というよりも人の声のようだった。
誰かが同じ言葉をずっとつぶやいているような・・・。
祭りの喧騒の中でも聞こえてくる「つぶやき声」に、二人はすっかり気を取られてしまった。
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「_i、
_i、
_i・・・」
歩くごとに声の輪郭がはっきりしてくる。
発信源に近づいているのだ。
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二人は声に合わせてゆっくり左を向いていく。
そこは人気のない通りへ続く曲がり角。
その通りの奥にぽつんと立っている電柱。
その電柱に吊り下げられた一枚の「お面」。
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のっぺりとした白い顔に、
カッターをスーっと引いたような口。
そして子供がクレヨンで塗ったくったような、
黒一色の雑な目。
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明らかにお面屋にも置いていないようなシロモノだった。
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そんなモノが暗い通りの奥から、二人をぬーっと見つめている。
アレはハッキリと意思を持ってこちらを見つめている。
本能的にそう感じて、二人はしばらく動けなかった。
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「み、
み、
み・・・」
例の声が今までにないほど明瞭にきこえる。
兄は直感した。
あのお面こそが、声の発信源だと。
そして、決してかかわってはいけないものだと。
兄は弟の手を引き、さっさとその場から離れた。
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早足に自宅へ向かう二人。
「_、
_、
_・・・」
気のせいだろうか、またぼそぼそとつぶやく声が聞こえる。
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「_bo、
_bo、
_bo・・・」
気のせいじゃない。
二人の間に戦慄が走る。
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「おぼ、
おぼ、
おぼ_」
アイツが近くにいる___!
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「おぼ、
おぼ、
おぼ_」
さっきとは違うことをつぶやいているようだ。
兄は弟を怖がらせないように、冷静に振舞った。
アイツは何が目的なんだ・・・。
兄「み・・・、おぼ・・・」
兄はつぶやき声の意味を推測する。
兄「___!!」
その意味を理解するや、兄は弟を抱えて駆け出した。
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家まで駆け抜けた道のどこかで、兄は一瞬だけ視界の端に例のお面をとらえた。
お面は表情ひとつ変えずにぼそぼそとつぶやき続けていたという。
作者つぐいら。
み、み、み→見、見、見→「見ている」
おぼ、おぼ、おぼ→覚、覚、覚→「覚えた」
一体、お面は何が目的なのだろう。