こんな話がある。
あるところに、趣味でイタズラ電話をかけるという、質の悪い男がいた。
その手口はいわゆる「無言電話」というもので、この男による被害はかなりの数に上っていた。
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プルルルルルルル・・・・ガチャッ
「はいもしもし」
男「・・・」
「あのー、どちら様でしょうか」
男「・・・」
「えー・・・と」
男「・・・(ふふっ、ビビってる♪)」
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このようにして、男は電話をかけた相手のうろたえる様子を楽しんでいた。
相手によっては、無言電話とわかるやガチャリと切られる場合もある。
だがこうして困った様子を見せる人は、この男にとっては格好の餌食だった。
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その日も男は適当なダイヤルを入力し、受話器を耳に当てる。
プルルルルル・・・。
コール音に耳を澄ませる。
男「さあて、どんな奴がでるかなぁ」
プルルルルル・・・、
プルルルルル・・・。
_____。
コール音がやんだ。電話が通じたのだ。
男「・・・?」
ここで男は、ひとつ違和感を憶えた。
いつもならここで「ガチャッ」と、相手が受話器を取る小気味の良い音が聞こえてくるはず。
今回はふっと唐突に、受話器も取らずに電話が通じたかのようだった。
?「・・・」
男「・・・」
おかしい。
自分は無言を貫いているので当然だが、この相手方。
「もしもし」と添えることも、「○○です」と名乗ることもしない。
ひた黙っている。もしや同業者?
男「(なんなんだコイツは)」
無論、声には出さず、心の中で悪態をついた。
そこでようやく、相手方から「返答」があった。
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?「な ん な ん だ こ い つ は」
shake
男「!?」
聞き間違えじゃない。確かにそう言った。
男「(え・・・?今、おれの思・・・)」
?「え い ま お れ の お も」
男はうろたえた。
半ばパニックになった。
男「(な・・・なん・・どうや・・て)」
声「な な ん ど う や て」
パニックのあまり、まとまりのなくなった男の思考でさえ、「声」は一字一句正確に復唱してくる。
やや低い女性風の声。
活舌はなめらかだが、声の調子は一定で、人間的な情緒を全く感じない。
いや、間違いなく人間ではない。
沈黙が続いた。
男は完全に恐怖にのまれ、何も考えられなくなっていた。
そうすると「声」からの「オウム返し」もないので、当然である。
どれほど時間が経過しただろう。突如沈黙を破り、「声」が勝手に話し出した。
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声「に ほ ん
○ ○ ち ほ う」
男「・・・?」
声「△ △ け ん
□ □ し
× × ち ょ う」
男「(・・・俺の住所!)」
声「お れ の じ ゅ う し ょ」
男は恐怖さえ忘れて、受話器を本体にたたきつけた。
そしてあてもなく家を飛び出した。その後の男の消息を知る者はいない。
あの「声」の正体を知る者も。
作者つぐいら。
電話にまつわる怪談です。
しばらくは、短編~中編くらいの話を投稿させていただこうと思います。
よろしくお願いいたします。