中編3
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底無し穴

渡辺怜子は俗に言う霊感少女だった。物心がついた頃から中学2年生になった今も、ずっと変わらずこの世の者でないのが見えている。

怜子は昔はそれらに怯え怖がっていたが、何度も何度も見てきたため、今は慣れて全くではないが怖くなくなった。ちょっかいさえかけなければ、彼らは意外と大人しいということが分かってきたのも大きいかもしれない。勿論例外も時にはあったが。

怜子は自分が霊感があるということを誰にも言っていない。言ったところで信じてくれるとは思えないし、仮に信じてくれても理解はしてくれないだろうということが幼い頃から無意識に近い域だが感じていたからだ。その為、唯一の家族の母にも霊感を持っているということは言っていない。

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カチカチカチ…。一人の空間には時計の音だけが響く。窓から見える色は藍色に染まった暗い景色だけである。大好きなミステリーの本を読んでいた怜子が時計を見た。11時だった。

(そろそろお母さんが帰ってくる時間だ…。)

怜子の母の帰りはいつも11時前後ぐらいだ。怜子の予想通り、鍵が回る音がなる。怜子のいる部屋に足音が近づいてくる。母が怜子の前にやって来た。

「ただいま~。」

「おかえり……ひっ!」

本から顔をあげて返事を返そうとした怜子は信じられないものを見てしまった。

母の顔に底の知れない真っ暗な穴が開いている。

(これはお母さんじゃない…!)

怜子は直感的にそう判断した。顔に穴が開いていること以外は何もかも一緒なのだ。声も髪型も何気ない仕草までも…。しかし母ではないと怜子は思ったのだ。母のふりをしている何かが怜子の方へ体を曲げる。

「私の顔をじろじろ見て……何?私の顔、どこかおかしいかしらぁ?」

「う、ううん…。普通だよ。」

「そぉ~?」

何かが背を向ける。後ろ姿も母そのものだ。怜子は酷く狼狽していた。

(何アイツ…。何でお母さんのふりをしているの?私のお母さんはどうしたの…!?)

「お、お母さん。」

怜子は何かに少し震えた声をかける。何かはこの部屋の隣にある台所に行こうとしている所だったらしい。怜子の声で足を止める。やはり顔には穴がある。

「何、怜子?私、お腹すいてるんだけど~。」

「そ、そうだよね…。ごめん、やっぱり何もない。」

「そぉ~。」

何かの姿が台所へ消えた。

(やっぱり…穴があった…。何回見ても…。)

怜子は14年間生きているが、このような事になったのは初めてだった。何をどうすればいいのか分からない。今のところ、あれは怜子に危害を加えてきていない。それがかえって不気味だった。

「怜子~アンタ、宿題ちゃんとしたのぉ?」

何かが夕食を食べ終わったらしい。怜子のところへ戻ってきた。

「ちゃんとしたよ…。」

「あら、偉いわねぇ~。」

何かが手を合わせる。母は褒めるとき、感心したときは手を合わせる癖があった。怜子は何かの手を凝視する。

「じゃあ早く寝るのよ。おやすみなさい~。」

ゴキッ。何かの顔が90度曲がる。顔は底無し穴だ。怜子は恐怖のあまり声がでない。恐怖で目を見開いている怜子を置いて何かが首を曲げたまま向こうの部屋へと歩いていった。

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