中編4
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怨霊

学校が終わり、家に帰ろうとしていた佐倉晴紀は下駄箱の中に紙が入っていることに気づいた。

『4時に校舎裏に来てください』

紙の両面を見たが、どこにも差出人の名前は書いていない。晴紀は顔を少し綻ばせる。

(ラブレターだ…!!やっと彼女が出来る!)

何も根拠がないが、その紙をラブレターだと思い込んだ晴紀はすっかり校舎裏で誰か女の子に告白される気でいた。現在の時刻は3時半。まだまだ余裕がある。晴紀はご機嫌に鼻唄を唄いながら校舎裏へ歩いていく。

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4時になった。一体どんな娘が告白してくるのだろうと晴紀はさっきからワクワクと緊張で心臓が、ドクドクうるさく脈打っている。

果たしてその人は現れた。肩まで伸びた黒髪、人形みたいに無機質で綺麗な顔立ち、手に金属バットを持って。晴紀はその人物に見覚えがあった。

(コイツ、俺と同じクラスの………確か神之木創じゃん。いつも一人でいる変な奴…。まさかあの紙の主ってコイツ?えーっ、俺、男と付き合いたくないんだけど!?)

高ぶっていた気持ちが一気に静まる。あのワクワクしていた気持ちが嘘みたいだ。

創はさっきから何も話さず黙っている。晴紀は嫌な予感しかしないが一応用件を聞いてみることにした。

「…何か俺に」

晴紀の問いを最後まで聞かず、突然創が手に持っていた金属バットを晴紀の頭に振り下ろした。当然晴紀は避けきれず直撃を受ける。そのまま地面に倒れ込む。痛みでズキズキする頭を抑え晴紀は体を半分何とか起こす。

「い、いってぇ……な、なんだよ!?がっ!!」

晴紀の言葉には何も答えず、もう一回振り下ろす。晴紀の意識は既に朦朧としてきた。瞬間、今まで味わったことのない痛みで意識が一気に戻る。

「あっが…。」

腕に血が滲んでいる。どこで手に入れたのか分からない鋭利なナイフが突き刺さっていている。創がナイフを無慈悲にも引き抜く。

「ぎゃあああああああああ!!!」

崩壊したダムから流れてくる水のように血がダラダラ溢れだしてくる。痛さのあまりジタバタと手と足が動く。涙がポロポロ流れる。

晴紀は怖かった。神之木創が何故こんな惨い事を自分にしてくるのか分からなかった。まわりに生えている雑草が赤い。何故誰もここに来ないんだ。創が鞄の中からペンチを取り出すのが見える。何をされるのか大体察した晴紀は、弱々しく拒絶の言葉を出す。

「や、やめて…。」

ぐしゅ。創は容赦なく右の親指を潰した。痛みのあまり、声に鳴らない悲鳴が声から絞り出てくる。創はまるでハサミで紙を切るかのように次々と晴紀の手を潰していく。ものの数分で晴紀の両手はもう使えるものでなくなった。

創がいつの間にかライターを手にしていた。カチッと火をつけて先程潰した指だったものに持ってくる。ジジ…と肉の焼ける音、臭いがする。

「ひっ…ああああああ…!!!」

晴紀の体が激しく動く。もう晴紀は何もかも分からなくなっていた。ただ痛みに受け身になっている。

数分ほど炙ったあと、創は弱々しく震えている晴紀をひたすら暴行を加えた。あちこちにアザができ、剥がれ、血が流れる…。晴紀は途中で意識を失ったらしい。殴っても蹴っても突き刺しても、ぐったりとしているだけで何も反応を示さなくなった。

景色はすっかり夜に変わっていた。最後に創は今まで避けていた心臓がある部分をナイフで一突きする。晴紀の反応はない。

地面に倒れている傷だらけの晴紀を、創はどこか期待を持った目で見た。創が離れていく。

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(…許さない……絶対許さない……呪ってやる……呪ってやる!!神之木創…!)

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神之木創は大のオカルト好きだった。だから霊に関する話はたくさん知っているし、いっそのこと霊に会ってみたいとすら思っていた。しかし彼には残念なことに霊感というものは全くなかった。霊を見るどころか気配すら感じることができなかった。

彼は考えた。

(どうすれば霊に会えるのだろう…?)

そんなとき、彼は怨霊について知った。創にとって怨霊の存在は正に青天の霹靂だった。怨霊は別に霊感がなくてもいい。ただ、恨ますだけで出てくるし、見える…。

創は早速怨霊作りに取りかかった。怨霊になる相手は誰でもよかった。痛めつける道具を予めこっそり学校に持ってきておいて、適当に下駄箱にあの紙を入れた。

運悪く怨霊になる人間に選ばれたのは佐倉晴紀だった。彼はあの後、創の目論み通り自分を恨んで死んでくれたらしい。いつも隣で呪いの言葉を言ってくれている。

(ああ…幸せだ。)

刑務所に明るい笑い声が響いた。

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