小学4年生の時、恐ろしい体験をした。
通学路に面した一軒家。
子供たちが入り浸っている空き家があった。
2階建て。屋根は赤いがもう古びて茶色に近い。
A「今日、俺たちも空き家、行ってみようぜ」
学校では有名だったが僕らはまだその空き家に足を踏み入れたことはなかった。
B「えー、一人で行けばいいじゃん」
A「行きたくても一人じゃ行けないからしょうがないだろ」
B「T君も行く?」
Bは僕の方を見る。興味がなかったわけではない。断らなくてもいいかと思った。
結局、3人で学校帰りに行くことになった。
B「でも、ほら、6年とかいたらイヤだから、誰かいるならやめようよ」
空き家へ向かう学校の帰り道、3人で空き家について話していた。
A「Bはなんだかんだ言って行きたくないんだろ。ビビりすぎなんだよ。」
空き家に関しては、中にはテレビがあったり、面白いものがたくさんあるという噂だったので知っている情報を交換しながら歩いて行った。
空き家の前に着いた。
僕「誰もいないみたいだね」
家に入らなくてもわかった。
何故なら玄関前にランドセルが置かれていないからだ。
この空き家の玄関は引き戸が古いせいか建付けが悪くちょっとしか開かない。だからみんなランドセルを置いて、体を横向きにして狭い隙間から中に入るのだ。
この有名なルールもつい先ほど話していたばかりだった。
A「よかったなB、誰もいなくて」
B「・・・しょうがない」
僕らはランドセル置いて、玄関の狭い隙間から体を半身にしながら中に入った。
僕「おじゃましまーす」
玄関に入るとすぐ正面に2階上がる階段がある。右手は居間だった。
みんな靴は脱いでない。それもこの空き家のルールだった。
居間は人が長い間住んでいないと思わせるボロボロの畳。しかしタンスやブラウン管のテレビがそのまま置かれており、人が確かに住んでいたことがよくわかる。
A「なんかドキドキするな。でも思ったよりは面白いものはないな。テレビもつかないし」
B「じゃあもう帰ろうよ」
その時、突然Aが大きな声を上げた
A「あれ!テレビの音が聞こえるぞ!」
B「聞こえないよ。テレビはついてないでしょ。電気が使えないんだから」
(いや、確かに聞こえる。)
でもAが言うテレビではなく、僕はどちらかというとラジオでしゃべっている感じがした。
A「T、聞こえるよな?」
僕はうなずいた。
B「えー・・、なにも聞こえないでしょ。隣の家のテレビなんじゃない。変なこと言わないでよ」
しばらく耳に神経を集中させた。
(聞こえる、でもすぐ近くじゃない。)
僕「上の方から?」
A「ああ、2階だ!」
しかし、Bが慌てて口を挟む。
B「いやいや、2階はだめだよ。2階は上がっちゃダメなルールでしょ」
気にせずにAは居間を出て2階へ続く階段を眺めていた。
A「じゃんけんだな」
B「いやだよ、絶対!」
僕は特にBと仲が良かったので少しかばってあげたかった。
僕「Aと僕でじゃんけんで」
意外とAも異論はなくすんなりじゃんけんしたが、結局、負けたのは僕だった。
B「T君、大丈夫?やめた方がいいよ」
・・・と言われても、じゃんけんで負けた後から行かないとも言えない。
僕はゆっくりと玄関の正面からまっすぐ伸びている階段を1段ずつ上がっていった。
だんだん声がはっきりと聞こえるようになってくる。
だが、なんて言ってるのかがわからない。
聞き取れない。
歌ではなくDJが何かをしゃべり続けているような口調だった。
音楽は流れていない。もしかしてテープレコーダーのようなものか?とも思った。
最後の1段を踏みしめて2階に来た。
左手には古い木の枠の窓ガラス、右手にふすまがあり、和室があるようだった。
僕は閉じられたふすまを見つめる。
(こっちの部屋から聞こえる)
「ああー※▽■@X※ダ@■〇XXェー※・・・」
(なんて言ってるのかさっぱりわからない。日本語じゃないのかな)
ゆっくりとその部屋の前に近づく。
僕はそのふすまに手をかけて、恐る恐る横に引いた。
古い和室のようだった。昔ながらのひも付きの電気がぶら下がっている。
日陰のせいか少し薄暗くてカビ臭い。
さえぎるものがなくなって声は一層大きくなった。
「ぎょぅぅ~※@キ■▼X-※@△X■ぃx―うぇ◇@・・・」
(部屋の中・・すぐ左側かな?)
そう思って開けたふすまから半身を乗り出して左側を見た・・・。
そこには、中学生ぐらいの蒼白な顔色をした男の子が立っていた。
shake
僕「うわぁぁーー!!」
びっくりして声をあげた。
男の子は直立不動でビシっと気を付けの姿勢のまま、顔は斜め上の天井の一点を見つめたまま微動だにしない。
ただ、口だけを異様なほどにバクバクと大きく動かしていた。
「うぃぶぁああ~※◇@△※@キ■-X■ぃy▼X―ぁ◇□@+・・・」
パニックになりながら震える手でふすまを雑にバッと閉めた。
(な?なに?? なんだ今の!? き、気持ち悪い、なんだあれ!!・・)
恐怖で足腰に力が入らない。
四つん這いになったまま、とにかく逃げようとした。
ところが、驚くことが起きる。
(ない?!)
あたりの廊下を見渡す。
そんなに広い家ではない。
それにも関わらず、間違いなく、廊下だけが広がっている。
“階段がない”。
(え?え? 今まであったはず! 上がってきたはず!
なんで!?なんで!?ばかな!ばかな!)
腰が抜けてうまく動けない。
廊下でジタバタしていると、今度ははっきりと歌うような声が聞こえる。
「見ぃぃつけぇーて逃ぃぃぃげぇたぁーーら、みぃぃーーな殺ぉぉぉぉぉ~~しぃぃぃぃぃぃ~~~」
shake
ダァァン!!
ふすまが勢いよく開いた。
僕「ひぃぃ!!」
逃げ場がない。どうしようもない。泣きながら廊下の床板を両手でどんどん叩く。
(か、階段!かいだん!おねがい!おねがい!!)
「目ぇぇぇ玉ぁぁ~~~は2ィィィこぉーー、だぁいじだぁーーいじぃぃ~~~」
視界にふすまから何かが出てくるのが見える。
さっきの気持ち悪い男の子だ!
「おなかとる!とる!とるぅぅぅ!ゼンブとるぅ!手と指が星、足はクラゲ!クラゲ!病気の病気怖い怖い怖い怖いィィィ・・いい!いい! 赤いのいい!赤い方!赤い方!赤い方!」
今度は訳がわからないことを早口で言い始めた。
意味不明の言葉を繰り返している。
僕「いやだ!いやだ!だれか・・!! 階段!階段どこ!?どこ!?」
床板を叩き続けるが何も変化がない。
ただの廊下だ。廊下しかない。
画面蒼白な男の子は直立不動なのにからくり人形のようにゆっくりとこっちに動いてきている。
次の瞬間、自分の体が一瞬ふわりと宙に浮くような感覚があった。
その瞬間だけ気を失ったのか景色が暗くなった気がした。
さらに体が今度は下の方にグイって引っ張られた。
shake
僕「うわぁぁぁ!!」
何が起こったのかもうわからなかった。
自分の体はがっちりと何かにからめてとられて動きがとれなかった。
B「T君!T君!どうしたの!?」
気が付くとBが僕の体をがっちりと掴んでいた。
B「危ないよ!落っこちるよ?」
自分には何がどうなっているのかわからなかった。
改めてよく見ると、
階段の一番上のあたりで僕が落ちそうになっているのをBが抱き留めてくれていたのだ。
僕「逃げろ!逃げろ!逃げろ!」
ただならぬ感じだと察したBも慌てて逃げ始め、2人で烈火の如く階段を勢いよく下りると、一気に玄関を半身ですり抜けて外に出た。
そのままの勢いでランドセルを片手で拾い上げて、外で待っていたAと3人でダッシュで100メートル以上走り抜けた。
もう走れないぐらい走りきると、3人で肩で息をして呼吸を整えた。
僕「お化けが・・・、本当に、、本当なんだ、、もう行かない。絶対に行かない。絶対に行かない・・」
そう言うとAもBも恐怖の顔のまま無言になった。
あれ以来、一度も空き家には行かなかった。
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それから2年ほど経った頃、1つのニュースが流れた。
あの小学校に通う5年生の女児が行方不明になったのだ。
誘拐と噂されていたが、1つ気になったのは女児のランドセルがあの空き家の前で見つかったということだった。
<空き家のルール>
1.玄関の前にランドセルを置いてから入ること
2.家にあがるときに靴を脱がないこと
3.2階へ上がらないこと
4.決して一人では行かないこと
作者pentaro
霊感の強い友人から聞いた話を主観にアレンジして書いてます。