中編4
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お墓参り

「由利子はいい子だねぇ。私は由利子とずっと一緒にいたいわぁ」

お墓の前で手を合わせると今でもおばあちゃんの優しい声が聞こえてくるようだ。

山の斜面に沿って多くの墓が並んでいる。急坂を上がって来るのは大変だが今日のような晴天だと眺めがいい。

由利子「(おばあちゃんもここなら安らかに眠れるよね)」

母「いつまでも泣いてないで。あんたはもう大学生なんだから」

父「今日ぐらいはいいじゃないか」

由利子は両親の会話を気にせず手を合わせ続ける。

おばあちゃんはずっと私の味方だった。

何か悪いことをして親に怒られてる時も必ず私をかばってくれた。

今にして思うと叱って教育する親は正しいと思う。

でも、おばあちゃんがいつも味方してくれるので自分もおばあちゃんが困らないように正しい振る舞いをするようになっていった。

父が線香に火をつけようとすると、母がそれを制して先にお花を挿して水をかける。

家族で順番に水をかけて、線香を供える。

この墓地は斜面にあるため一列ずつの段になるように横並びに墓がある。

しかし、隣は草が伸び放題で完全に無縁仏になっている。

由利子「(お寺の人も草刈りぐらいすればいいのに)」

どこか寂しい気持ちを抱きながら由利子は何気なく隣の墓に近づいていった。

草に混ざって自然に生えた花もあり、かすかに風に揺れている。

由利子が花に視線を向けた時だった。

由利子「(なに・・?)」

急に胸騒ぎがする。倦怠感というか悪寒が走るような気持ちの悪い感覚がある。

shake

ギィィィン!

急激な高音が響く。

耳鳴りだ。

こんなに大きな耳鳴りは初めてだった。

由利子「耳が、痛い・・・」

異変はそれだけではなかった。

さっき見た花の奥に変なモノがあった。地面に何かが刺さっている。

ソレは多くの雑草に阻まれて見えなかったが風が強めに吹いた瞬間、はっきり見えた。

shake

人間の腕だ!

刺さっているのではない。

青白い右腕が地面から生えている!

びっくりして心臓がドクンと脈打つ。

由利子「お墓の死体? ち、違う違う、火葬だし、骨でもないし。」

混乱しながら後ろを振り返って両親の方へ行こうとするが体がうまく動かない。

由利子「(噓でしょ?なんで!?)」

金縛りのような状態のまま耳鳴りもひどくなる。

必死にもがいてかろうじて半身だけ体を向ける。

由利子「お母さん!」

必死に呼びかけるが全くこちらに気づいていない。

由利子「(いや、私の声が出てないの・・?)」

海中奥深くの水圧がかかるように体が重く、耳鳴りで回りの音が聞こえない。

さらには辺り一面が紫色になっている。

周囲が変わったのか自分の目がおかしくなったのか、わからない。

視界がおかしくなったせいで、余計にあの右腕が目立つ。

そして、あることに気づいた。

最初に見た時、確かに花の奥側にあったはず。

それが今は花の手前側に右腕が生えている。

shake

近づいてくる!?

あれは絶対に良いものではない。霊感がなくてもわかる。

あれは、絶対にダメだ。

由利子「お、お父さん・・!」

声が届かない。気づいてくれない。

その時、耳元で声が聞こえた。

「由、利、子、・・・・」

 え?

「由、利、子、・・・・今・・・ソッチ・・・行ク・・・」

その瞬間、右腕の指先がウネウネと動くがはっきり見えた。

由利子「(この声、おばあちゃん・・!?)」

どうしておばあちゃんが・・??

呼吸が荒くなる。過呼吸になりそうだ。

気持ちが悪い。

気を失いそうになる。

虚ろな意識の中で、由利子は急に右肩をガッと後ろに引かれた。

shake

由利子「きゃあ!」

見ると、見知らぬ若い男が立っていた。

男「大丈夫ですか?」

その時、由利子は自分が正常に地面の上に立っている感覚が戻った。

朦朧としながら、両手を自身の膝に置いて体を支えて息を切らしていたが、

景色が戻り、体が動くようになっている。

耳鳴りも止んでいた。耳に少しだけ痛みは残っている。

男「倒れそうだったので。」

男は右肩を支えた手をゆっくりと放した。

男「おばあちゃんがこっちに行って助けろって。」

由利子「おばあちゃんが? えっと・・、あ、そうだ!あの腕は?」

いや、“腕”なんていきなり言ったら頭がおかしいと思われる。

頭が整理できない。

由利子は混乱しながら必死に冷静さを取り戻そうとしていた。

男「あれは関わらない方がいい。無視して遠ざかった方がいい」

意外にも察したかのような回答に驚いた。

男「人を待たせているので」

そういうと細い急坂を足早に下って行った。

え、もう行っちゃうの?

何が何だったのかもっと話を聞きたかった。

あの人は霊媒師?

考えが巡っている中で、清楚に見える長い黒髪と裏腹に、由利子は大きく舌打ちをした。

由利子「しまった! 助けてもらったのにお礼、言ってない・・・」

恩人を遠目に見ていると、合流している相手の男子は偶然にも知っている顔だった。

由利子「あ、勇太の友達だったのか。なら、お礼を言うチャンスはあるか」

由利子は無縁仏のお墓の方には一切振り向かず、そのまま家族と共に坂を下さり帰路についた。

あの右腕は一体なんだっただろう・・・?

でも、あの気持ち悪さは、もう思い出したくない。

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