私が幼い頃、庭に大きなリンゴの木が一本立っていました。
その木は、見上げるほど大きく、既に老木でしたが、子どもたちにとっては最高の遊び道具となっていました。
春夏秋冬、リンゴの木は、いつも子どもたちと一緒でした。
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ある夏の夜、お布団に入ってから、私はリンゴの木の下に、お人形のタミーちゃんを忘れて来たことに気づきました。
両親に話すと叱られると思った私は、家族に気づかれないようにタミーちゃんを取ってくることにしました。
そっと音を立てずに出窓にあがり、鍵を外し寝間着のまま裸足で外に飛び降りました。
ひんやりと辺りを照らしているのは、三間長屋の裸電球だけです。
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タミーちゃんは、木の根元にお座りをするように立てかけてありました。
大急ぎで、タミーちゃんを掴み、家の出窓に向かって早歩きし始めたその時、石のようなものに躓いた私は、とっさに木の幹につかまりました。
え?
枯草のようなものと固い冷たいものが指に触れ、私は、慌てて手を引っ込めました。
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それから、裸電球が照らす微かな灯りを頼りにおそるおそる手が触れた辺りを探ってみました。
そこには、五寸釘が深々と突き刺さった藁人形が括りつけられておりました。
ひぃ
息を呑み思わず後退りした足元には、丈が30センチほどもある大きな金づちが置かれてありました。
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私は、脱兎のごとくその場を後にし、震える手で出窓によじ登り、転がるように布団に潜り込みました。
枯草と泥だらけになった布団の中でガタガタと震えながら、私は、まんじりともせず朝を迎えました。
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その日の夕餉時、三間長屋に住む中山さんが、血相を変えて飛び込んできました。
長男の浩さんが、リンゴの木から落ち、枯れ枝に下腹部が突き刺さって大けがをしたというのです。
浩さんは、近所では年長で、体格もよく、誤って木から落ちるなど考えられませんでした。
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救急車が到着し搬送するまでの間、近所の大人たちは、あの藁人形と大きな金づちを前に困惑した表情をしておりました。
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数日後、ドドーンという地鳴りとともに、リンゴの木に雷が落ちました。
リンゴの木は真っ二つに切り裂かれ、藁のようにボロボロで見るも無残な姿のまま、
その生涯を終えました。
中山さんご一家は、すぐに引っ越していき、以来二度とお会いしてはおりません。
我が家のリンゴの木にまつわる 怖ろしくも哀しい思い出です。
作者あんみつ姫
ふたば様の掲示板企画から、こちらへアップいたしました。
幼き日の怖ろしくも哀しい思い出です。
一応、実話怪談となっております。
いつか書いてみたいと思っていたお話でした。
今回は、鏡水花様が素敵な画像をこのお話のために提供してくださいました。
感謝申し上げます。
併せて、お楽しみいただけましたら幸いに存じます。
800字少し超えています。
もう少し推敲を重ね、再びアップするかもしれません。
ご笑覧いただけましたら幸いに存じます。