『酒呑童子の章』
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昔むかし、越後の国の砂子山城主に岩瀬俊綱という人がいました。
俊綱の奥さんはめでたく子を宿しますが、一年経っても生まれない…二年経っても生まれない……三年が経って、ようやく生まれた子の顔はテライケメンで、すでに歯も生えており、言葉も話せたというインド人の仏陀もビックリというハイスペックベイビーでした。
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その子の名を外道丸と言います。
賢くてイケメンで家柄も良くてゴリマッチョという設定全部盛りの外道丸でしたが、性格がドクズでした。
そんな不吉極まりない名前の通り、外道丸は外道だったのです。
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外道丸は国上寺という寺に預けられ、稚児となります。
そこでは鬼イケメンの外道丸にガチ恋した娘たちからのラヴレラァ(ネイティブに)が毎日届き、外道の外道丸は乙女の心のこもりまくった恋文を読まずに容赦なく焼き捨てていました。
何ならその火でイモでも焼いてたんじゃないですかね。(知らんけど)
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受け入れるどころか確かめもされずに炎にくべられた女の情念は煙となり、鬼畜の外道丸を包み込んで外道丸の姿は鬼神へと変貌してしまいます。
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自他ともに認める鬼と化した外道丸は越後の国を離れて流浪し、丹波の国へと行き着きました。
悪いヤツはだいたい子分というZEEBRAも舌を巻く程の勢力に拡大した外道丸は、大江山という山を根城にして悪逆非道の限りを尽くします。
もう、こうなったらいよいよ非道丸です。
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親分がとんでもなく酒が好きなことから、子分たちは親分の外道丸を酒呑童子なんて呼ぶようになりました。
しかし、昼は悪いこと、夜は大宴会という魔王のルーティーンを繰り返していたら、温厚な天皇もさすがにオコです。
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腕っぷしに定評がある源頼光(みなもとのよりみつ)に酒呑童子討伐隊を結成させ、源頼光はならず者のおのぼりさんこと酒呑童子を倒すために出発します。
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まず、源頼光は山伏に変装し、手始めに神頼みして回りました。
すると、八幡大菩薩から鬼が呑むと毒になるという酒の神便鬼毒酒(しんべんきどくしゅ)と、超絶めっちゃ硬い兜の星兜をもらいました。
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重要アイテムを手に入れた勇者ヨリミツは、鼻息荒くラスボスの酒呑童子の下へ向かいます。
しかし、酒呑童子もバカではありません。
討伐隊の情報が入っていた酒呑童子は第一種警戒体制を取っていました。
そりゃそうだ。
山伏姿の頼光ご一行は、酒呑童子に「一晩泊めて~」とお願いしますが、そんな頼光をいぶかしみます。
そこでいくつか問答をして、化けの皮を引っ剥がしてやるつもりでしたが、頼光は何やかや上手いことやって、酒呑童子は頼光を山伏だとすっかり信じ込みました。
やっぱバカでした。
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警戒が十年穿き続けたパンツのゴムくらいユルユルになった酒呑童子は、山伏頼光たちに酒を振る舞ったりして丁重におもてなしし、頼光もお返しにとハチえもん(敬称)から賜った毒酒を飲ませます。
毒が効いたのか、酒呑童子はおねむさんになり、寝所でスヤスヤ眠っていると、頼光は「今でしょ!」とばかりに甲冑に身を固め、寝込みを急襲しました。
頼光が佩刀していた刀で、酒呑童子の首をバッサリと斬り落とすと、本当の意味で寝首を掻かれた酒呑童子の首は頼光に飛びかかり、頭をガブリとします。
しかし、頼光がかぶっていたのはハチえもんの星兜ですから、甘噛みあむあむしてるみたいな感じで、文字通り歯が立たず、ついに力尽きた酒呑童子は事切れてしまいました。
この時に酒呑童子の首を斬り落とした刀が童子切安綱です。
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その刀は国立博物館にありますので、興味がある方は是非ゴートゥーしてください。
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ともあれ、こうして酒呑童子は討たれ、その生涯の幕は降りたのでした。
めでたしめでたし。
作者ろっこめ
この作品の前に投稿したものを書く際に読んでいた民俗学の本から、いろんな言い伝えをまとめて一つの物語に編纂した鬼の伝説を書いてみました。
まぁ、諸説ある中の美味しいトコ取りってヤツです。
民俗学の本を読み漁った残滓みたいなものですが、わたしが書いたとものいうことで、海よりも深い愛の心で読んでいただけたら幸いです。
こんなのでもよかったら他にも書いたものがあるので、ご感想とともに「おい!おかわり!」とかコメントくだされば、次のも投稿させていただきます。