中編5
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M

ゆっくりと優雅に回転を続ける天井扇をぼんやり眺めながら、全裸の俺は煙たげにタバコを咥えている。

隣のアキはスケッチブックを膝に乗せて、4B の鉛筆でさっきから俺の横顔を描いている。

最近デッサン教室に通いだしたらしい。

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「どう、これ?」

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ちょっと得意げな顔でアキが描きかけのデッサンを見せる

俺はそれにチラリと視線を動かして「まあまあだな」とぶっきらぼうに呟く。

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「何よ、偉そうに、、、」

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アキは拗ねたように言うと、スケッチブックを布団の上に放り投げた。

表紙には月曜絵画教室と書かれている。

なんでもそこの先生は本業は理容師らしい。

東京の何とか言う有名な芸大を卒業して画家を目指していたのだが全く食えず結局理容師の資格を改めてとり、実家の店舗の一階で床屋を営業し休みの月曜だけ二階で絵画教室をやっているそうだ。

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だから月曜絵画教室ということだ。

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アキはおもむろに上半身を起こすと、ベッド横のサイドテーブルからリモコンを取りスイッチを入れた。

正面の壁に設置された大型のテレビの画面に画像が映り、薄暗い部屋がパッと明るくなる。

俺の胸の上にあるタバコの箱から一本抜きアキは気だるそうに長い黒髪をバサリと肩の後ろにまわして、ライターで火をつける。

そして掛け布団を裸の胸元に引き寄せた。

捻るとポキリと折れそうな細い手首だ。

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「そろそろ始まるよ」

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そう言ってアキはリモコンのチャンネルボタンを押す。

画面が切り替わり記者会見会場が映し出された。

安っぽい長テーブルの向こうには地味な背広姿の男が三人が座っている。

男たちの前にはネームプレートが置いてある。

どこからか若い記者の声が聞こえてくる。

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「昨日の犠牲者を入れてもう5人になります。

その全てが女性で、皆鋭利なナイフで無惨に切り刻まれていたということです。

そして全ての遺体の口には丸められた画用紙が突っ込まれており、そこには絵が描かれていたということなんですが、実際何が描かれていたのですか?」

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真ん中に座る刑事課長が右隣に座る俺を見る。

俺はマイクに顔を近づけると質問に答え始めた。

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「捜査に関わる内容ですから詳しくは述べられませんが、端的に言うと被害者の肖像画です。

普通の画用紙に鉛筆でラフなタッチで描かれておりました

たぶん犯行直後に現場で描いたのでしょう。

普通人の神経ではないですね。

私は絵の方は全くの素人で分からないのですが、単なる素人の絵という感じではありませんでした」

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「犯人の目的は何なのでしょうか?」

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「現段階でははっきりとは分かりませんが、5人の被害者の間に何の関係性もないことから特にこれといった目的とかはなく、異常な性癖からの快楽殺人の類いだと思います

それとも社会の中で満たされない激しい鬱憤を歪んだ形で解消したいのかもしれません」

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「画用紙の右下隅にはM という文字が書かれているそうですが、これについては?」

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「すみませんこれもまだ分かりませんが、犯人のイニシャルもしくは何か事件のヒントになるようなメッセージかもしれません」

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「ねぇこの事件って、あんたの住む隣の県で起こってるんでしょ。

ということはここからも近いということじゃない?

何だか怖いなあ。

だいたいこの犯人相当いかれてるよね。

殺した人の肖像画を残していくなんて信じられないな。

まだ逮捕できないの?」

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アキが俺の顔を見ながら言う。

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「ああ、、、

正直なところ全く手がかりさえ掴めていないんだ」

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「ふーん、、、

まったくね、外出自粛だ何だでみんなストレス溜まっているときに、こんな事件が連発するなんて。

本当ムカつく!」

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アキは腹ただしげに呟くとベッドから降り、ガウンを羽織ると奥の台所の方へ歩く。

そしてガチャガチャと音をたてながら食器を洗い始めた。

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「ねぇ、夜は野菜炒めで良いでしょう?」

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アキの問いかけに俺は「ああ、、、」と生返事をした。

しばらくすると唐突に「やだあ、お塩がない。ごめーん!そこのコンビニでお塩買ってきてくれない?塩コショウでもいいけど」と言う。

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俺は無言でスエットの上下を着てフリースを羽織り、財布片手に寝室を出た。

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コンビニは、アキの住むアパートから歩いて5分ほどのところにある。

俺は目的のものを買いしばらく立ち読みをしてから、コンビニを後にした。

アパートへ帰る道すがらも事件のことで頭が一杯だった。

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─なぜ犯人は被害者の肖像画を現場に残していくのか?

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─肖像画の片隅に書かれたM の意味は?

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考えれば考えるほど頭の中が混乱していく。

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アパートの入り口のドアを開け中に入る。

すると後ろの方から塾帰りだろうか小学生が二人ドタバタと入ってきた。

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「よーし、じゃあ一週間は全部言える?」

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一人が尋ねる。

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「楽勝、楽勝

Monday、tuesday、wednesday、、、」

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もう一人が得意げにしゃべり始めた。

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─月曜、、、、

monday、、、か。

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その瞬間なぜか頭の中の止まっていた歯車がカタリと動いた。

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右手の集合ポストにふと目をやると、アキの部屋である401号の受け口に一枚の紙が差し込まれていた。

俺はそれを抜き取り開く。

それは画用紙だった。

そして、そこに描かれているものを見た時だ。

ぞわりと背中を冷たい何かが突き抜けて行き思わず叫んだ

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「しまった!!」

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俺は入り口横にある非常階段の鉄の扉を乱暴に開けると、ダッシュで登り始めた。

ふと前を見ると青い作業着に青い帽子を被った男が降りてきていて、軽く肩がぶつかる。

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「失礼!」

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俺は一言言って、どんどん登っていき、あっという間に401号のドアの前に立った。

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荒々しくドアを開け、靴も脱がず廊下沿いにある寝室のドアを開け叫ぶ。

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「アキ!」

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だが、遅かった、、、

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俺は全身の力が抜け、ガックリとその場に膝まずいた。

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ベッドの真ん中に、アキらしき細身の女の血だらけの身体が仰向けに横たわっている。

傍らには、さっき俺に見せたスケッチブックがビリビリに破られた状態で置かれていた。

首から上は鋭利な刃物で切断されていて、赤黒い血管や神経繊維や白い骨の覗く切断部から、新鮮な血液がとろとろと吐き出されている。

ついさっきまで言葉を発していたアキの首は、その胸の上に、これみよがしに入口向きに置かれている。

両目と口は何かを必死に訴えるかのように開いていた。

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俺は握りしめていた紙を震える手でもう一度目の前で開いた。

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そこにはアキの最期の顔がラフなタッチで描かれている。

そして画用紙の右下にはM の一文字がサインされていた

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Fin

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Presented by Nekojiro

Concrete
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@あんみつ姫 様
いつも怖いポチ、コメントありがとうございます
そ、そうですか?
あんみつ姫様ならば、こんな安易なミステリーなんか作って、なめんなよ!と、怒られそうだと思ったのですが、、

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@アンソニー 様
いつも怖いポチ、コメントありがとうございます!

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