THE FOOTAGE─ザ・フッテージ─

短編2
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THE FOOTAGE─ザ・フッテージ─

どうして父は、これを発表しなかったのか?

 屋根裏部屋でVHSを整理していて、その未発表のテープは見つかった。

 生前の父の仕事は、ドキュメンタリーフィルムメーカーであった。マスメディアにフィルムを売って生計を立てるというものである。本来であれば、マスメディアの内部でそのようなものは作られるのであって、わざわざ外部から買い取るということはない。

 しかし、父は別だった。とにかく、過激だったのだ。命を平気で捨てるようなものから、犯罪まがいなことまで。様々なフィルムがマスメディアを通して発表された。

 父を不道徳的人間と非難した人もいた。しかし父は、生計を立てるために過激な映像を撮ることにずっと心を痛めていた。

 そんな日々を続けたためか、父は四十歳という若さでこの世を旅立った。

 今、私の仕事もドキュメンタリーフィルムメーカーだ。父ほどではないが、それなりにやっていけている。

 そんな私にとって、父は憧れだった。作品は全部見た。そう思っていた、その未発表のテープを見つけるまでは。

 私は興奮冷めやらぬままに、そのテープを再生した。

 今年は豊作だった。んで誰が、捧げ物するっちゅう話だ。

囲炉裏鍋を箸で突きながら村人達が何かの話し合いをしていた。

父はその後ろから撮影しているようだ。

 奴さん所のはどうだ。

 駄目だ、駄目だ、こっちは。準備ができてねえ。

 しかしなあ、誰かが捧げなくちゃならねえ。

話し合いは平行線のようだったのだが─。

 おい、あんた。

村人の一人がカメラを指差した。

 遠慮せずに、あんたも食えよ。

その村人は父に囲炉裏鍋を一緒に食べるように提案した。

父は少し躊躇ったように見えたが結局、一緒にその料理を頬張っていた。

父の食いっぷりに、村人達は満足げな表情を浮かべていた。その後も、話し合いは続く。

なんでも、ちゃんと捧げ物をしなくちゃ山から鬼が下ってくるとか。そんなことを危惧しているようだった。しかし、映っていたのはそれだけ。

ただ、それだけ。

これはなんなのか?私にはさっぱり理解できなかった。一応、切りの良いところで映像は途切れた。これは未完なのか?

だから、発表されなかったのか。

VHSを取り出しながらも疑問は募るばかりであった。

そんなときだった。よくよく見てみると、VHSの端に文字が書かれていたのだ。それはこんなこと─。

 CANNIBALISTS ─食人鬼達の村─

父が食べていたものは、きっと…。

だから父は、発表しなかったんだ。

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