天邪鬼の呪いにかかっちまった。
大学の友人に誘われて山登りに行ったのが間違いだったんだ。
あの日は小雨が降っていて地面が滑りやすかった。
山腹を登っていた俺はつい足を滑らしちまったんだ。
幸い、そばにあった石に手をついたおかげで、服をべちゃべちゃにすることはなかった。
だが、その後がまずかった。
手をついたままだったせいで、その石がぐらついたんだ。
石はそのまま倒れちまった。
石が割れる音が響いて──。
その石だと思っていたのは地蔵みたいな石像だった。
怒声が響いたよ。
「天邪鬼の呪いだ」
そこらで休憩していた知らねえ爺さんがそう叫んだんだ。
─────
で、天邪鬼の呪いってなんなんだよ。
俺は荷物を片付けながらヨウヘイに尋ねた。
「僕も聞いた話なんだけど─。解呪はできないらしいんだよね、ただ─」
「ただ?」
「腕を折る・舌を切る・目を潰す。このどれかから一つを選ばなければいけないらしい」
「やばっ」
「やばいよね」
「でもまあ、俺なら腕を折るしかないかな」
「だよね」
とここで、荷物を仕舞い込んだ俺は「じゃあな」といって席をたった。
「待って」
「ん?」
「この呪いで一番大事なのは、自分自身の選択と「反対の選択」をしていまうんだ。だから、天邪鬼の呪いっていうんだよ」
「へー、つまり、やりたくない選択を選ばなきゃいけないってことか」
「そういうこと。後、この大学にも呪いがかかった奴がいるんだって」
「へー、意外だな」
俺はそう言いながら腕時計を見やった。
「マサキ。この後、用事でもあんの」
「歯医者、歯医者」
「そうなんだ。」
「おう。そういうわけで、もう行くわ」
「うん。じゃあね」
「じゃあな」
─────
俺は選択を迫られた。
どの選択も最悪だった。
ああ、なんで山登りなんかにいったんだ。
なんどでも後悔してやる。
もう、猶予はなかった。
俺はバットを片手に、右腕を机の上に載せた。
バットには「アツト」と名前が書かれている。
バットを握るのなんて小学生ぶりだった。
くそっ。
日の傾きかけた薄暗い部屋の中で悪態だけが響いた。
五秒たったらだ。
五秒数えたら、やる。
俺は覚悟を決めた。
五。
四。
三。
二。
一。
日が落ちたのか、辺りは真っ暗になった。
作者Yu