長編9
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宇宙の声

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私が大学時代に流行った、

『この電話番号に電話すると、宇宙の声が聞こえる。』

と、言う噂。

何とも在り来りな都市伝説とでも言うのだろうか。

(地方によって、

内容が異なるかも知れません。)

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ある夜、

仲の良い男の先輩の家で、

先輩と私の彼氏との3人で、お酒を飲んでいた。

暫く談笑していたのだが、

『宇宙の声』

の話になった。

3人が、言いたい事を喋り出す。

「本当に聞こえんのかな?」

「いやいや、普通に

" この番号は現在使われておりません "

パターンだろ。」

「でも、本当に聞こえたらどうする?」

と、いつしか笑いのネタになっていた。

そうして、

「つーか、そもそも、

電話番号も知らないしねー。」

と、話を終わらせる感じで私が言った。

すると、待ってましたと言わんばかりに、

先輩が偉ぶって言い出した。

「オレさ、、、知ってんだよね〜」

「はっ?マジで?

じゃあ、かけてみようよ!

でもさ、何で知ってんの?

ウソの番号なんじゃないのー?」

「いや、本当だって。」

「何処から入手したのか、言いたまえ。」

「記憶にございません。」

「あー!?」

「いやぁさ、

なんか知んないけど、知ってんの。

オレ、意味不明だよな?」

私と彼氏は、深く頷いた。

「まぁ、みんな気になってるし、

とりあえずかけてみようよ、宇宙に。」

そうして、

携帯からはダメだと言うらしく、

先輩の家には有難い事に、

家電があったので、

まず先輩が、最初に電話をかけてみた。

2、3度かけたが、繋がらずに

" プツッ " と、電話は切れたらしい。

次に彼氏がかけてみた。

しばらくコールが鳴っていたらしいが、最終的には " プーッ…プーッ… " と電話は切れてしまったようだ。

私は、

「この電話、スピーカーにならないの?」

と先輩に聞いたが、出来るかも知れないけど、やり方が分からんと言う。

そうして、最後に私がかけてみた。

コール音は鳴らない。

暫く無音。

すると、突然、

『アーーーーーーーーー』

と、かなりの大音量で、

機械音的な、

女性の様な、女の子の様な、抑揚も無い声が聞こえ出した。

かなり気味が悪かった。

その声に混ざって、

何か別の小さい音も聞こえる。

それは小さ過ぎて、何を喋っているのかは聞き取れない。

しかし、羅列された文字を、

凄い早口で、ずっと話している様に聞こえた。呪文の様にも感じたが、この声も抑揚が無い。

私は、驚きと不気味さを覚えたが、

やはり電話が繋がった嬉しさが勝り、

「声が聞こえる!」

と、興奮気味に2人に言った。

「えっ?ウソっ? マジで!?」

まず、先輩が受話器を耳にあてた。

暫く無言の後、

「すげー!聞こえる!!」

そうして、彼氏に受話器を渡した。

彼氏も暫く無言だったが、

何も言わずに電話を切ってしまった。

「何で、電話切んのー?

せっかく繋がったのに勿体無いじゃん!」

先輩と私からは、ブーイングの嵐だったが、

彼氏は何も言わなかった。

「まぁ、声が聞けたし良いよね」

と言う事で、彼への非難は収まった。

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そうして私達は、

電話の話題で盛り上がり始めた。

「なんかさ、ちょっと気味悪かったよね、

呪われたりして、笑。」

私が冗談ぽく言うと、

「あぁ、そうだよなー!

あの笑い声には、オレもゾッとしたわ。」

と、先輩も冗談ぽく言った。

( 、、、??)

「え、何? 笑い声って。」

私は先輩に聞いた。

「だって、お前も聞いたろ?

狂った様に笑ってる女の声。かなり気持ち悪かったわ。」

「いやいや、

私、女の笑い声なんて聞いて無いけど。」

「また、そうやってウソつくー!

ありがちな、ビビらせテクニックだろうけど、そんなの怖くないですけど?」

「違う!本当だって!!」

その場がシーンと静まり返った。

「じゃあ、何が聞こえたん?」

先輩が、私に聞いた。

「私は、、、

抑揚の無い機械的な、女の人の声。

息継ぎもしないで、

ずっと、『アーーーーー』って言ってんの。

で、それの他に、小さい声で凄い早口で、

何かをブツブツと言ってる声。

でも先輩は、

女の笑い声が聞こえたんでしょ?

私と先輩って、違う声を聞いたって事!?

じゃあ、、、」

私が聞く前に、彼氏が話し出した。

「オレが聞いたのは、、、

2人とは、また別の声なんだよね。

何かさ、

デパートとかで流れるアナウンスあんだろ?

あんな感じのアナウンスが、

流れてきたんだよ。

繰り返し、繰り返し。

最初は、小さい声でよく聞こえなかったんだけど、3回目くらいにやっと、言ってる事が分かってさ。

それで、電話を切ったんだよね。」

「 、、、え?

何で、電話切ったん?

アナウンスは何て言ってたん?」

私は、かなりの恐怖と好奇心で、彼氏に聞いた。

「いや、大丈夫だから。」

意味の分からない返事。

「何が大丈夫なんだよ?」

先輩も、彼氏の態度が気になり始めた。

彼氏は黙っている。

「ねぇ、どうしたん?」

私と先輩で、彼氏を問い詰めた。

暫くして、彼が言った。

「迷子のアナウンスが流れたんだよ。」

「迷子?」

彼氏が頷いた。

「どんな内容だったの?」

「それは言えない、、、。」

「何で?よっぽど怖かったん?」

「いや、

そういうんじゃない、、んだけど、、、」

私と先輩は、彼氏の様子がおかしかったので、それ以上は聞くのを止めた。

そして、別の話題で盛り上がろうとした時、

突然、彼氏が言った。

「《 迷子の女の子がいます 》

って、聞こえてきたんだよ、、、」

彼氏は、話を続けた。

「でさ、

《 服はピンクに赤い模様です 》って、、、。

《お名前は『 フジカワ サキちゃん 』です。

とても泣いています。

お心当たりのある方は、

至急、新しい下半身を持って、お迎えに来てあげて下さい 。

繰り返します、、、

迷子の女の子がいます。

服はピンクに赤いもよ、、》

そこで、オレは電話を切ったんだ。」

私と先輩は、何も話せなかった。

本当は、

( 何?そのアナウンス!?)

と聞きたかったのだけど、声が出なかった。

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暫く沈黙した後、彼氏が話し出した。

『 フジカワ サキ 』

って、オレの従妹なんだよね。

すっごくオレに懐いてて、いつもオレの後にくっ付いてくるんだ。

すぐ泣くんだけど、意地っ張りで。

でも、変な雑草の花束をくれたり、

" サキ、しょうらい、よしおにぃちゃんの

おくさんになる!

おいしいごはんつくってあげるの! "

なんて言ってさ、

オレが風邪ひいた時も、お見舞いに行くって駄々こねたらしくって。

すごく、優しくて可愛い子だったんだ。

オレは妹もいなかったし、サキが妹みたいでさ、すごく可愛かった。

、、、でも、

オレが小学生の時に、

車に轢かれて死んだんだよね。

運の悪い事に、その車がトラックでさ、

まだ幼稚園だったサキは、一瞬で潰されたんだよ。

トラックの下から、少しだけサキの顔が見えた。

上半身はかろうじて、あまり巻き込まれなかったんだけど、即死だった。

その時に、サキはピンクの服を着てて、、、

でも、赤い模様なんて無かった。

それでさ、サキは潰された瞬間に、

一瞬、オレを見たんだよ。

サキと目が合って、、、

あんな表情っつーか、顔は、

オレのその後の人生の中でも、

1度も見た事ない。

脳裏に焼きついて、絶対に離れない顔なんだよ。

その時って、オレがサキを、

家まで送って行ってた時だったんだけど、

この信号を渡れば、もうすぐ家に着くって所でさ、何でか分かんないんだけど、

サキは早く家に帰りたかったんだと思う。

握ってたオレの手を離して、急に走り出したんだ。オレはすぐに追いかけたよ?

大声で、サキ!って叫びながら。

でも、ダメだった、、、

だから、その後も、

オレのせいでサキが死んだんだって、すごい自分を責めて、どうして良いか分からなかった。

でも、それから暫くしてさ、

サキのお母さんがオレに会いに来てくれて、

" サキは、ヨシタカ君の事が、とても大好きだったんだよ。

いつも、いつも、

『よしおにぃちゃんちにあそびにいく、』

って。

あの事故は、

決してヨシタカ君のせいじゃないし、

誰も責めたりなんかしてないよ?

仕方の無い事だったから。

だから、ヨシタカ君も、自分を責めないで欲しい。

おばさんはね、サキが最後まで、

大好きなヨシタカ君と一緒に居られて良かった、って思うから。

ヨシタカ君、ありがとうね。

何かあったら、おばさんに何でも言ってね。

おばさんも、優しいヨシタカ君の事が、

とても大好きだから。”

そう言われて、

オレは、あの事故の後、

初めて大泣きした。

でも、それから何年も経った時に、

あの日、実は、

サキからの、オレへのプレゼントがあったって事を

知ったんだ。

サキが頑張って作ったサンドイッチ。

それを、、、オレに早く食べてもらいたかったんだと思う。だから急いで、、、。

、、、、、、。

まぁ、、、

そう言う事が、小さい頃にあったんだ。

だから、

あの電話を聞いてパニックになっちゃって。

、、、、、、。」

彼氏は、話しながら泣いていた。

そして、

「あー!!

なんか、もう、訳が分からんっ!!」

そう叫ぶと、

今までの話を消し飛ばすかの様に、一気にビールを飲んだ。

しかし、彼氏は泣いていた。

泣きながら、ビールを飲んでいた。

封印してた過去を、蘇ってしまった過去を、また閉じ込めたかったんだろう。

その後は、

雰囲気を変える様に、かなりのバカ話で盛り上がった。

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その後、彼氏は今までと変わらない。

私自身も、その話は心の奥深くに封印した。

でも私は、ずっと考えていた。

何故に彼氏には、あんなアナウンスが聞こえたのか。

きっと、彼の中の奥底の記憶や、抱き続けてきた感情が、

あの『不可思議な電話 』と言う設定の、

状況下に置かれて、知らず知らずの内に、

思い起こされ、自らが勝手に創り出してしまったんじゃないのかな、

なんて、思ったりもしてみるのだが。

" ピンクに赤い模様の服 " と言うのも、

小学生の彼にしたら、

ピンク色の服を、どんどん赤く染めていく、

その赤い血を、受け止められなかったのかも知れない。

正直、冗談でやった遊びが、

まさかこんな事になるとは思わなかった。

それからも、3人で飲む機会は度々あったけれど、都市伝説的な話はしない。

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1年程経って、彼氏とは別れた。

友達としてたまに連絡していたが、

だんだん疎遠になって行った。

今回、この話を書くにあたり、

彼の了承を得なければならないと思い、

久しぶりに電話をした。

懐かしい声だった。

彼の近況は、敢えて聞かなかった。

向こうからも聞いて来なかった。

この話を持ち出すのも憚られたが、

思い切って、聞いてみた。

「うん、良いよ。」

案外、あっさりOKしてくれた。

「え、でも本当に大丈夫?」

「うん。

それってさ、色んな人が読むんだろ?

だったら、サキって言う人間がいたって事、

多くの人に知ってもらえるじゃん?

サキは小さい時に死んだから、

もしかして、これから出逢う人だった人にも出逢う事が出来なかったからさ。

だから、サキって言う存在を、

1人でも多くの人が知ってくれたら、オレは嬉しく思うから。

だから、良いよ。

あ、でも、オレの事を変に書くなよ?

オレの悪事をバラすな。」

「あー、あんたが浮気した事ね、

あとは、、、」

「あーっ!!

もう思い出さなくていいよ!!」

私は、笑った。

「、、、まぁ、書いて良いからな。」

「うん、ありがと。じゃ、またね。」

「おぅ。」

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サキちゃんの事は、

サキちゃんと言う人間が存在したって事は、

きちんと書いたつもりだ。

『宇宙の声』を聞こうと、電話をしなかったら、

私は今でも、

サキちゃんの存在を知らないままだった。

サキちゃんが、今も、穏やかにいてくれたら嬉しい。

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ただ、

それとは別に、

彼の浮気の事も暴露しといてやった。

何十年か越しの、しつこい仕返しだぁ!

ざまぁみろ 笑。

( 当時も、かなりブチ切れてやったけど。

ヤツは泣いていた… )

私の仕返しを、これを見て、

サキちゃんが笑ってくれていたら、

かなり嬉しい。

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