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私が大学時代に流行った、
『この電話番号に電話すると、宇宙の声が聞こえる。』
と、言う噂。
何とも在り来りな都市伝説とでも言うのだろうか。
(地方によって、
内容が異なるかも知れません。)
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ある夜、
仲の良い男の先輩の家で、
先輩と私の彼氏との3人で、お酒を飲んでいた。
暫く談笑していたのだが、
『宇宙の声』
の話になった。
3人が、言いたい事を喋り出す。
「本当に聞こえんのかな?」
「いやいや、普通に
" この番号は現在使われておりません "
パターンだろ。」
「でも、本当に聞こえたらどうする?」
と、いつしか笑いのネタになっていた。
そうして、
「つーか、そもそも、
電話番号も知らないしねー。」
と、話を終わらせる感じで私が言った。
すると、待ってましたと言わんばかりに、
先輩が偉ぶって言い出した。
「オレさ、、、知ってんだよね〜」
「はっ?マジで?
じゃあ、かけてみようよ!
でもさ、何で知ってんの?
ウソの番号なんじゃないのー?」
「いや、本当だって。」
「何処から入手したのか、言いたまえ。」
「記憶にございません。」
「あー!?」
「いやぁさ、
なんか知んないけど、知ってんの。
オレ、意味不明だよな?」
私と彼氏は、深く頷いた。
「まぁ、みんな気になってるし、
とりあえずかけてみようよ、宇宙に。」
そうして、
携帯からはダメだと言うらしく、
先輩の家には有難い事に、
家電があったので、
まず先輩が、最初に電話をかけてみた。
2、3度かけたが、繋がらずに
" プツッ " と、電話は切れたらしい。
次に彼氏がかけてみた。
しばらくコールが鳴っていたらしいが、最終的には " プーッ…プーッ… " と電話は切れてしまったようだ。
私は、
「この電話、スピーカーにならないの?」
と先輩に聞いたが、出来るかも知れないけど、やり方が分からんと言う。
そうして、最後に私がかけてみた。
コール音は鳴らない。
暫く無音。
すると、突然、
『アーーーーーーーーー』
と、かなりの大音量で、
機械音的な、
女性の様な、女の子の様な、抑揚も無い声が聞こえ出した。
かなり気味が悪かった。
その声に混ざって、
何か別の小さい音も聞こえる。
それは小さ過ぎて、何を喋っているのかは聞き取れない。
しかし、羅列された文字を、
凄い早口で、ずっと話している様に聞こえた。呪文の様にも感じたが、この声も抑揚が無い。
私は、驚きと不気味さを覚えたが、
やはり電話が繋がった嬉しさが勝り、
「声が聞こえる!」
と、興奮気味に2人に言った。
「えっ?ウソっ? マジで!?」
まず、先輩が受話器を耳にあてた。
暫く無言の後、
「すげー!聞こえる!!」
そうして、彼氏に受話器を渡した。
彼氏も暫く無言だったが、
何も言わずに電話を切ってしまった。
「何で、電話切んのー?
せっかく繋がったのに勿体無いじゃん!」
先輩と私からは、ブーイングの嵐だったが、
彼氏は何も言わなかった。
「まぁ、声が聞けたし良いよね」
と言う事で、彼への非難は収まった。
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そうして私達は、
電話の話題で盛り上がり始めた。
「なんかさ、ちょっと気味悪かったよね、
呪われたりして、笑。」
私が冗談ぽく言うと、
「あぁ、そうだよなー!
あの笑い声には、オレもゾッとしたわ。」
と、先輩も冗談ぽく言った。
( 、、、??)
「え、何? 笑い声って。」
私は先輩に聞いた。
「だって、お前も聞いたろ?
狂った様に笑ってる女の声。かなり気持ち悪かったわ。」
「いやいや、
私、女の笑い声なんて聞いて無いけど。」
「また、そうやってウソつくー!
ありがちな、ビビらせテクニックだろうけど、そんなの怖くないですけど?」
「違う!本当だって!!」
その場がシーンと静まり返った。
「じゃあ、何が聞こえたん?」
先輩が、私に聞いた。
「私は、、、
抑揚の無い機械的な、女の人の声。
息継ぎもしないで、
ずっと、『アーーーーー』って言ってんの。
で、それの他に、小さい声で凄い早口で、
何かをブツブツと言ってる声。
でも先輩は、
女の笑い声が聞こえたんでしょ?
私と先輩って、違う声を聞いたって事!?
じゃあ、、、」
私が聞く前に、彼氏が話し出した。
「オレが聞いたのは、、、
2人とは、また別の声なんだよね。
何かさ、
デパートとかで流れるアナウンスあんだろ?
あんな感じのアナウンスが、
流れてきたんだよ。
繰り返し、繰り返し。
最初は、小さい声でよく聞こえなかったんだけど、3回目くらいにやっと、言ってる事が分かってさ。
それで、電話を切ったんだよね。」
「 、、、え?
何で、電話切ったん?
アナウンスは何て言ってたん?」
私は、かなりの恐怖と好奇心で、彼氏に聞いた。
「いや、大丈夫だから。」
意味の分からない返事。
「何が大丈夫なんだよ?」
先輩も、彼氏の態度が気になり始めた。
彼氏は黙っている。
「ねぇ、どうしたん?」
私と先輩で、彼氏を問い詰めた。
暫くして、彼が言った。
「迷子のアナウンスが流れたんだよ。」
「迷子?」
彼氏が頷いた。
「どんな内容だったの?」
「それは言えない、、、。」
「何で?よっぽど怖かったん?」
「いや、
そういうんじゃない、、んだけど、、、」
私と先輩は、彼氏の様子がおかしかったので、それ以上は聞くのを止めた。
そして、別の話題で盛り上がろうとした時、
突然、彼氏が言った。
「《 迷子の女の子がいます 》
って、聞こえてきたんだよ、、、」
彼氏は、話を続けた。
「でさ、
《 服はピンクに赤い模様です 》って、、、。
《お名前は『 フジカワ サキちゃん 』です。
とても泣いています。
お心当たりのある方は、
至急、新しい下半身を持って、お迎えに来てあげて下さい 。
繰り返します、、、
迷子の女の子がいます。
服はピンクに赤いもよ、、》
そこで、オレは電話を切ったんだ。」
私と先輩は、何も話せなかった。
本当は、
( 何?そのアナウンス!?)
と聞きたかったのだけど、声が出なかった。
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暫く沈黙した後、彼氏が話し出した。
『 フジカワ サキ 』
って、オレの従妹なんだよね。
すっごくオレに懐いてて、いつもオレの後にくっ付いてくるんだ。
すぐ泣くんだけど、意地っ張りで。
でも、変な雑草の花束をくれたり、
" サキ、しょうらい、よしおにぃちゃんの
おくさんになる!
おいしいごはんつくってあげるの! "
なんて言ってさ、
オレが風邪ひいた時も、お見舞いに行くって駄々こねたらしくって。
すごく、優しくて可愛い子だったんだ。
オレは妹もいなかったし、サキが妹みたいでさ、すごく可愛かった。
、、、でも、
オレが小学生の時に、
車に轢かれて死んだんだよね。
運の悪い事に、その車がトラックでさ、
まだ幼稚園だったサキは、一瞬で潰されたんだよ。
トラックの下から、少しだけサキの顔が見えた。
上半身はかろうじて、あまり巻き込まれなかったんだけど、即死だった。
その時に、サキはピンクの服を着てて、、、
でも、赤い模様なんて無かった。
それでさ、サキは潰された瞬間に、
一瞬、オレを見たんだよ。
サキと目が合って、、、
あんな表情っつーか、顔は、
オレのその後の人生の中でも、
1度も見た事ない。
脳裏に焼きついて、絶対に離れない顔なんだよ。
その時って、オレがサキを、
家まで送って行ってた時だったんだけど、
この信号を渡れば、もうすぐ家に着くって所でさ、何でか分かんないんだけど、
サキは早く家に帰りたかったんだと思う。
握ってたオレの手を離して、急に走り出したんだ。オレはすぐに追いかけたよ?
大声で、サキ!って叫びながら。
でも、ダメだった、、、
だから、その後も、
オレのせいでサキが死んだんだって、すごい自分を責めて、どうして良いか分からなかった。
でも、それから暫くしてさ、
サキのお母さんがオレに会いに来てくれて、
" サキは、ヨシタカ君の事が、とても大好きだったんだよ。
いつも、いつも、
『よしおにぃちゃんちにあそびにいく、』
って。
あの事故は、
決してヨシタカ君のせいじゃないし、
誰も責めたりなんかしてないよ?
仕方の無い事だったから。
だから、ヨシタカ君も、自分を責めないで欲しい。
おばさんはね、サキが最後まで、
大好きなヨシタカ君と一緒に居られて良かった、って思うから。
ヨシタカ君、ありがとうね。
何かあったら、おばさんに何でも言ってね。
おばさんも、優しいヨシタカ君の事が、
とても大好きだから。”
そう言われて、
オレは、あの事故の後、
初めて大泣きした。
でも、それから何年も経った時に、
あの日、実は、
サキからの、オレへのプレゼントがあったって事を
知ったんだ。
サキが頑張って作ったサンドイッチ。
それを、、、オレに早く食べてもらいたかったんだと思う。だから急いで、、、。
、、、、、、。
まぁ、、、
そう言う事が、小さい頃にあったんだ。
だから、
あの電話を聞いてパニックになっちゃって。
、、、、、、。」
彼氏は、話しながら泣いていた。
そして、
「あー!!
なんか、もう、訳が分からんっ!!」
そう叫ぶと、
今までの話を消し飛ばすかの様に、一気にビールを飲んだ。
しかし、彼氏は泣いていた。
泣きながら、ビールを飲んでいた。
封印してた過去を、蘇ってしまった過去を、また閉じ込めたかったんだろう。
その後は、
雰囲気を変える様に、かなりのバカ話で盛り上がった。
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その後、彼氏は今までと変わらない。
私自身も、その話は心の奥深くに封印した。
でも私は、ずっと考えていた。
何故に彼氏には、あんなアナウンスが聞こえたのか。
きっと、彼の中の奥底の記憶や、抱き続けてきた感情が、
あの『不可思議な電話 』と言う設定の、
状況下に置かれて、知らず知らずの内に、
思い起こされ、自らが勝手に創り出してしまったんじゃないのかな、
なんて、思ったりもしてみるのだが。
" ピンクに赤い模様の服 " と言うのも、
小学生の彼にしたら、
ピンク色の服を、どんどん赤く染めていく、
その赤い血を、受け止められなかったのかも知れない。
正直、冗談でやった遊びが、
まさかこんな事になるとは思わなかった。
それからも、3人で飲む機会は度々あったけれど、都市伝説的な話はしない。
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1年程経って、彼氏とは別れた。
友達としてたまに連絡していたが、
だんだん疎遠になって行った。
今回、この話を書くにあたり、
彼の了承を得なければならないと思い、
久しぶりに電話をした。
懐かしい声だった。
彼の近況は、敢えて聞かなかった。
向こうからも聞いて来なかった。
この話を持ち出すのも憚られたが、
思い切って、聞いてみた。
「うん、良いよ。」
案外、あっさりOKしてくれた。
「え、でも本当に大丈夫?」
「うん。
それってさ、色んな人が読むんだろ?
だったら、サキって言う人間がいたって事、
多くの人に知ってもらえるじゃん?
サキは小さい時に死んだから、
もしかして、これから出逢う人だった人にも出逢う事が出来なかったからさ。
だから、サキって言う存在を、
1人でも多くの人が知ってくれたら、オレは嬉しく思うから。
だから、良いよ。
あ、でも、オレの事を変に書くなよ?
オレの悪事をバラすな。」
「あー、あんたが浮気した事ね、
あとは、、、」
「あーっ!!
もう思い出さなくていいよ!!」
私は、笑った。
「、、、まぁ、書いて良いからな。」
「うん、ありがと。じゃ、またね。」
「おぅ。」
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サキちゃんの事は、
サキちゃんと言う人間が存在したって事は、
きちんと書いたつもりだ。
『宇宙の声』を聞こうと、電話をしなかったら、
私は今でも、
サキちゃんの存在を知らないままだった。
サキちゃんが、今も、穏やかにいてくれたら嬉しい。
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ただ、
それとは別に、
彼の浮気の事も暴露しといてやった。
何十年か越しの、しつこい仕返しだぁ!
ざまぁみろ 笑。
( 当時も、かなりブチ切れてやったけど。
ヤツは泣いていた… )
私の仕返しを、これを見て、
サキちゃんが笑ってくれていたら、
かなり嬉しい。
作者退会会員
この場をお借りして、お話しする内容かは分かりませんが、私なりに精一杯、書かせて頂きました。