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ラジオ付カセットテープレコーダー

中編5
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ラジオ付カセットテープレコーダー

アパートの集合ポストにフリマ開催のチラシが入っていたので、散歩がてら朝から出掛けてみた。

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去年、俺は還暦を期にして熟年離婚をした。

きっかけは俺の浮気だった。

元嫁は元々鬱気味だったのだが、浮気以来本格的に精神を病み出し何度か自殺未遂まで起こし、終いには一緒に死のうとまで言うようになって耐えきれず離婚を決意したのだ

慰謝料代わりに築30年の二階建て一軒家を元嫁に譲り、自身は駅そばの安アパートを借り、そこを生活の拠点にしていた。

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透き通った青空が広がって、気持ちの良い天気だ。

近所の小学校のグランドにはブルーシートが整然と並べられていてその各々にみんな思い思いの品を持ち寄って、まったり商売している。

棚とか机とかを置いてきちんとディスプレイしてるところもあれば、シートの上にただ雑然と並べているところもある。

目的もなくただ歩いていくと、ふと目に留まる品があった

シートの上に広げられた脈絡のない生活雑貨たちに混ざり黒い箱形の珍しいものがある。

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─ラジオ付カセットテープレコーダーじゃないか?

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懐かしさのあまり俺は弁当サイズほどのそれを手に取り、しげしげと眺めていると、

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「それ、今でもちゃんと動くんですよ」

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どこから現れたのか、白髪の初老の女が声をかけてきた

火傷か何かの跡だろうか顔の右半分に赤黒いアザがあり、あちこちケロイド状に皮膚が突っ張り右目は潰れているのか白目だけだ

既にカセットテープも収納されていて覗き窓から見ると、「昭和歌謡大全」というタイトルが見える。

値段も200円と安かったので俺は軽い気持ちで、購入した

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日が落ちてアパートに帰った俺はコンビニ弁当の夕食をたいらげると、缶ビールを片手にソファーで寛いでいた。

ほろ酔い加減でいい気分でいると目の前のガラステーブル上に置かれた昼間買ったラジオ付カセットテープレコーダーが視界に入る。

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起き上がりソファーに座り直すと、テープの再生ボタンを押してみた。

しばらくすると昔懐かしい懐メロが流れ始める。

確かに今時のCDとかに比べると音が籠っており、アナログ感は半端ない。

だがそれがまた良かった。

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若かりしころの郷愁に浸りながら、ソファーでうつらうつらしていた時だ。

突然ブツリと音楽が途切れた。

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─ん、どうしたんだ?

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不審に思い半身を起こすと、いきなり若い女の声が聞こえ始めた。

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「いぇ~いアミでーす、『マサシだよ』

本日昭和5○年3月1日午前零時よりわたしアミ24歳とマサシ33歳の楽しい思い出を、この最新式ラジカセで録音していきまーす!」

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─何なんだ、これは?

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ここで一旦音は途切れたが、またすぐ同じ女の声が聞こえてくる。

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「昭和5○年3月6日は素敵な小春日和です。

今日は朝からマサシの車で一泊旅行に出掛けま~す!

(男の声)『いぇ~い!今日は雲一つない最高の日だぜえ!』」

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しばらくは大方このような感じで、若い二人の思い出が続いていった。

だがある時点から、アミという女の今までとは違うトーンダウンした暗い声が聞こえてきた。

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「昭和5○年6月3日は梅雨の合間の曇り空でした。

今日はわたしの25回めの誕生日です。

でも時刻はもう深夜零時になろうとしているのにマサシはまだ帰ってきません。

頑張って美味しい料理も準備しているのに……

もしかしてマサシ、忘れたの?

年に一回だけのことなんだけどなあ……

とにかく早く帰ってきてマサシ……」

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ここで一旦、音は途切れ、しばらく無音状態が続いた後、再び女の暗い声が聞こえてきた。

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「昭和5○年6月10日 今日は朝から大雨です。

私の心もこの窓から見える空のよう」

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「……………………(泣き声)…………うう…………マサシ………マサシ、あんたがいけないんだよ

あんたが、あんたがあんなことするから………わたし

マサシ………ああ………こんなに冷たくなっちゃって

ねぇ、起きてよ、起きて!…………」

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「ごめんね………ごめんなさい、マサシ……

わたしも今から、マサシのいるところに……」

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ここでブツリと音は途切れた。

そしてここからまた無音状態がしばらく続いた後、先ほどの懐メロが再び能天気に流れだした。

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布団の中に入った後も、さっきのテープの内容が頭から離れなかった。

何度となく寝返りをうち、ようやく意識が微睡みの泉に浸かり出したときだ。

俺の耳にまた、あのテープの最後に聞こえた女の泣き声が響きだす。

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─………うう………ううぅぅぅ………

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殺風景な狭い畳部屋の片隅に若い男が仰向けになっている

黒いティーシャツに、ジーパン。

本来ならば肌色である横顔が、紫色に変色していた。

白いワンピースの女が男の傍らに正座し、いとおしげな瞳でその変わり果てた姿を眺めていた。

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彼女の横には1リットルのペットボトルが置かれている。

女は両手でそれを持つと蓋を取り、ゆっくりと頭上に持ち上げ逆さまにした。

透明の液体がドボドボと彼女の頭から顔、上半身と一気にずぶ濡れにしていった。

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彼女は空になったペットボトルを傍らに置くと、今度は100円ライターを右手に握り火を点け、恐々とその身体に近付けていく。

次の瞬間、女の身体は一気に青白く燃え上がった。

その勢いは強くて火柱は天井にも届くようだ。

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ここで、俺の意識は覚醒した。

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激しい心音が耳奥で響いている。

顎先から汗が滴り落ちていくのが分かる。

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静寂の中、薄暗い天井をじっと眺めていると不意に俺はかつてこのアパートに引っ越した日に、隣の部屋に挨拶に行ったとき、その住人が言っていたことを思い出した。

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「実はこのアパートなんだけど、かなり前に一回建て替えられたらしくてね。

当時若いカップルが住んでいたそうなんだけど、痴話喧嘩の果てに女が男を殺した後、焼身自殺したらしいんだよ。

まああれから大分時間も経っているから、もう気にする必要はないだろうがね」

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俺の脳内には、その初老の住人のどこか浅薄な表情が映し出されていた。

それと同時にフリマでラジカセを売ってくれた初老の女も、、、

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@むぅ 様
コメント、怖いポチ ありがとうございます
過去作にまでさかのぼって作品を読んで、評価までいただき、感謝、感謝です
テレビショッピングですか、、、懐かしいですね
この作品、元々は軽いシャレのつもりで書いたんですが、勢いに任せて、どんどん悪のりして連投しまいました(笑)
機会があれば、また再始動しようと思います

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@アンソニー 様
いつもコメントありがとうございます
しばらくこのサイト、おかしかったみたいですね
霊障かもしれないですね(笑)

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