これはバカな友達が経験した話だ。そいつは最近とんでもなくバカなことをした。
幽霊に会いに行ったのだ。去年の夏休みに一緒に家でホラー映画を見ていた時のこと。
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「おれさ、いつも思うんだけど。幽霊って物理攻撃できるのおかしくね?」
と映画を見ながらその友達が話した。仮にTとしておく。
「なんでそう思うの?」と僕が尋ねると
「さっきの幽霊が首締めて殺すシーンのとこ、他のやつが助けようと石とか投げてたのにすり抜けてたじゃん?おかしくね?理不尽じゃね?ずりーよな!」
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とTはバカなやつだから畳み掛けてくる。しかも「おれ凄いところに気づくだろ?」的な顔しながら。
「まぁ、そう言われてみたらそうなんかも知れんな」
と同意して見せるとさらに勢いづいて。
「な!そうよな!いや、そうだと思ったんだよー。あーでもあれか、あの幽霊はカムイ使ったんだな。だから物理攻撃しながらでもすり抜けができたんだ!」
とまた何か発見した。
どうやらナ◯トに出てきたすり抜けるあいつのことを話しているようだ。
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Tはさらに続けてとんでもないことを言い出した。
「おれ幽霊に確認してくるわ」
「は?なにを?」僕は驚いて訊くと
「幽霊に物理攻撃できんのかってこと」
またバカなことを言い出したと思った。友達であるため、「やめとけよ」と一応止めたがTは行った。
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昔から言い出したら止まらないやつだったので、いつものことかと思いつつも
どんな風にして会いに行く気なのかは聞いておいた。
Tの作戦は単純で車で〇〇トンネルやら〇〇峠やら〇〇病院跡地やらを巡回して、幽霊らしきものを見たら車の中から塩をかけてみよう
というものだった。
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そこまで遠くないところだったので、僕は「いってらっしゃい」と軽く挨拶して見送った。
まず幽霊がいるかも分からないし、もし本当に会ったとしても車の中なら大丈夫だろうと思った。
しかし、ホラー映画を見た後ということもあり、Tの親には連絡しておいた。
Tの親は「幽霊なんているわけないのにアホな子ね」と言っていた。
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「ほんなら行ってくるわ」とTが夕方ごろ僕にメールしてきた。
僕はその時、暇だったのでほぼ送られた瞬間にメールを見た。
僕は自分の部屋で1人ゲームをしていると、電話が鳴った。
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知らない番号からだった。僕はビビリなので知らない番号は出ないことにしている。
その代わり番号は検索するようにしている。検索をかけたが所在地不明だった。
相手の電話番号を着信拒否に登録してスマホを閉じようとすると
上にSMSメッセージが届いた。
たった一言「Tくん、連れていくよ」と書いてあった。
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僕は急いでTに電話をかけた。プルルプルルと呼び出し音が鳴り、3回目ほどで電話に出た。
「T、今どこにいる?大丈夫?」と声をかけると
「あ、もしもし〇〇か?今なー〇〇トンネル通過するところー」とのんびりした口調で返事が来た。
僕は一安心して、今自分のスマホに来た電話とメッセージのことを話した。
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「お前。ビビらすつもりだろ?(笑)そうはいかんで」と笑いながら返された。
「何かあるかも知れんから一応電話は繋いでおいて」とTに言った。
「分かった分かった。実は今トンネルに入って少し怖いなーって思ってたからちょうど良いわ」
僕は家にある固定電話の方でTの家に連絡した。
事情を話すと前とは違い、Tの母は震えた声でこう言った。
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「実はさっき、ピンポンが鳴ったから出てみたんだけど、誰もいなくて足元見たら紙が落ちててそれに『Tくん連れていくよ』って書いていたの」
「分かりました。Tくんは今〇〇トンネルに入っているそうなので、これから僕は車で迎えに行きます。」とTの母に伝えた。
「私も向かいます」と言ってくれたので、正直僕は一人で向かうのが怖かったからTの両親も乗せて行くことにした。
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僕のスマホはTの母に持ってもらい、スピーカーをオンにして声を通すようにしながら向かった。
助手席にTの父が乗り後部座席に母が乗った。
Tの母が「あんた今どこにいるの!何しとるんで!」と叱るように電話に話しかけた。
「か、母さん?も、もう無理。めちゃくちゃ怖い」
とTがひどく怯えた声で話した。
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「今、どこにいるん!って聞いてんの!早く答えなさい!」とTの母も取り乱した様子で答えた。
これはダメだと思ったのか
「電話貸せ!」とTの父が電話を取って代わりに話しかけた。
「落ち着いて深呼吸せぇ。ゆっくりで良いからどこにおるんか教えてくれ」と言うと。
「今〇〇トンネル通り越して〇〇峠走ってる」
とゆっくり答えた。
「安全なところに車止めて待っとき。すぐ行くから」
Tの父が指示を出したがTは
「むり!むりむりむりむり!」と拒否した。
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「どうして?」と訊くと
「おるから!隣に今止まったらやられる!」とTが取り乱した様子で答えた。
「何がおるんな?誰がおるん?」とTの父も緊張した様子で訊く。
「分からん、何なんか知らんけど。トンネルのところからずっとおる!ついて来る!」
Tはとてつもなく怯えた様子で話す。
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「分かった。そっちに行けるようにするからできるだけ分かりやすいようにしとき」
「〇〇くん、進路変えてTに追いつくんじゃなくて向かえるように走ってくれ」
とTの父は僕に指示を出した。
「分かりました。そうします」と僕はTの進路を先読みしてTの車よりも先にある道に向かった。
バックミラーにチラッと目をやり、後部座席を見るとTの母は震えながら泣いていた。
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Tの父は電話に夢中で気づかない様子だったので
僕は一瞬車を止めて「奥さんの側にいてあげてください」とTの父に言った。
Tの父も承諾してくれて後部座席にTの両親が乗る形で再スタートした。
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「T、大丈夫か?」と助手席に置かれたスマホに向かって話すと
『ザッザザザッザザ』と変な音が聞こえてきた。
「T?T!大丈夫か?」とさらに訊くと
「もうすぐ、もうすぐ。」とTは呟いていた。
何がもうすぐなのかは知らないが、とりあえず異変が起きているかも知れないのでTのところに早く着けるように集中した。
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しばらくの間は誰も喋ることなくシーンと静まり返った。
沈黙を破ったのはTだった。
「アッハッハッハハハハッハハー!!」というような大きな笑い声を上げ出したのだ。
「どうした!?なんかあった?」と驚きながら僕が訊くと
「やっと!やっと!やっと!あの光のとこに行けばおれは助かる!ざまぁみろ!クソ幽霊が!」とTは狂ったように叫ぶ。
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ドーン!!!!
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電話の向こうで大きな音が鳴った。
「T!T!どうした!なにがあった!?」と聞いても返事はなかった。
Tの母は疲れとショックのせいか気絶してしまった。
Tの父と僕が電話に向かって呼びかけても返事はなかった。
そこから少し走ると正面衝突した車が2台あった。
1台はTの車だ。急いで救急車とパトカーを呼んだ。
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その間にもTを救出しようと車に近づいたが、車はペシャンコで中々ドアが開かず苦戦していた。
そうこうしている内に救急車やパトカーが来て、Tを救出した。
Tは病院に運ばれ集中治療室で何週間も治療された。
目を覚ましたのは3ヶ月経った頃だった。
目を覚ましたと聞いてお見舞いに行くとTは誰も聞いていないのにこう話した。
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「幽霊の殺人手段って物理攻撃じゃないんだな」
と。
それは僕もTの父も身を持って知ったことだった。
作者カボチャ🎃
作り話です。