私があなたを選んだ理由を知りたい?
そうね、話せば長くなるから簡単に話すね。
私には、好きな人がいたの。
その人とは中学生の時に出会い、ずっと片思いして、高校まで追いかけたわ。
彼は私より、ひとつ年上で、卒業式の日、このまま会えなくなるなんて嫌って思って、思い切って告白したの。
そうしたら、彼も実は私のことが気になっていたみたいで、告白を受け入れてくれて、私達はお付き合いをすることになった。もちろん、高校も彼の受験した高校を受け、見事合格。
そのまま私達は、高校を卒業した後も、同じ大学に進学し、行く行くは結婚を誓い合った仲だったの。
でも、大学で彼と同じサークルだったあなたは、私の彼を奪ったの。そう、私の好きな人は、今のあなたの夫である彼よ。そこは私の居場所だったのに、あなたは当然のように彼の傍に居る。
ずるいと思わない?私はあなたよりずっと前から彼だけを好きだったのに、あなたはいとも簡単に私から彼を奪った。まぁ、奪ったって言っても、彼があなたを選んだんだから仕方ないわよね。私は、絶望して自殺してしまった。
でも、神様っているものなのね。私は生まれ変わって、晴れてあなた達のもとに迎え入れられることになったの。不思議な縁ね。あなた達は、私を一目で気に入って購入を決めたよね。
私は、きっとあなた達に復讐する。見ていなさいよ。あなた達は、彼の部屋をそのまま新居にしたのは、まさに本当に命取りだったわね。
彼の部屋には、電気ストーブがあるはずよ。私には、それを使って、あなた達を不幸のどん底に陥れることができるわ。あなた達が私にしたことは、万死を持って償うべきことなの。
「これ、すごく便利だわぁ。買って良かった」
「自走式掃除機って結構、いい仕事するなあ」
夜になるとこの部屋は心底冷える。
だから、彼は必ず寝る前にこの電気ストーブをつけるの。私が危ないって言っても、彼は寒がりだから聞かなかった。
二人が寝入った頃に、このコードを引っかけて、ストーブを布団まで持って行って、倒す。これであなた達は焼死するのよ。いい気味。
私は、まんまとこの家に入り込むことができた。
二人が寝入ったのを見計らって私は走った。
そして、この這いまわるこいつにスイッチを入れて乗り込んだ。
「にゃあ」
嬉しさについ声を上げてしまった。
思惑通り、この這い回るしか能がない家電は、ストーブのコードを引っかけて、彼らの眠るベッドまでストーブを運んでタイミングを見て私は、それから飛び降りると見事に布団の上にストーブは倒れた。
ほら、業火に焼かれて死になさい。
布団が炎を上げるのを今か今かと待ち続けていた。
あなた達が私を購入してくれるように、私は、目いっぱいペットショップでアピールして可愛さを演出したわ。
「きゃあ、可愛い~。この猫ちゃん」
あなたの熱意に負け、彼は私を飼うことにしたのよね。
猫の身体能力を使ってどうにか、あなた達に復讐できないか、考えたわ。
ようやく夢が叶うのよ。
あれ、おかしいわね。
布団からなかなか火が上がらないわ。
コンセントはちゃんと繋がってるし。
何故なの?私は悔しくてにゃあにゃあ鳴いた。
その声に、気付いて二人は目を覚まし、自走式掃除機がコードを引っかけてストーブを倒してしまったことに気付いて、ストーブを起こして元の位置に戻した。ああ、作戦は失敗してしまった。でも、彼女は私を抱き上げて頬ずりをした。
「私達を助けるために鳴いてたのね?なんてお利巧なの!でも、大丈夫よ。ストーブは転倒したら火が消える仕組みになってるから」
ストーブも買い替えてたのか。私は、盛大な舌打ちをしたが、その声はにゃあとしかならなかった。
作者よもつひらさか