アイコは首から腰を痛めていた。
日々の激務に体が堪えたせいだ。
骨折をしている訳でもないため、仕方なくアイコは知り合いに教えてもらった、個人経営のマッサージ店でお世話になることにした。
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ユミという店主は、大層マッサージの上手な人だった。
アイコとも話が合い、体の節々の痛みが和らいでも、二人はプライベートで電話をする仲まで発展した。
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ある時、ユミの店の経営方針が変わったため、
10分につき2000円だったマッサージが4000円に値上がりすると言われた。
週1で通うアイコは二つ返事で了解し、
お店の売り上げ貢献のために変わらず通い続けた。
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少し出費が多くなってきたアイコは、
自分が大切にしていた服や宝石を売って生活を凌いだ。
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ある時、ユミはマッサージで使うオイルを新調したため、
4000円から8000円に値上がりすることをアイコに伝えた。
アイコは了解したが、マッサージで使うオイルの量はかなり減らされたと感じた。
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ある時、マッサージ終了後に二人で談笑していると、ユミの知り合いに整体を行う男性がいると聞く。
調べると料金は一人につき3000円だった。
ユミからの評価も高いため、アイコは試しにそこへ予約して行ってみた。
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ジロウと名乗る体格の良い男性は、奥さんと共同経営を行っていた。
店内に飾られている石は、全て本物の宝石の原石だそうで、幻想的な空間だ。
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マッサージに時間制は無く、オイルマッサージも行う。
男性ということでマッサージをする時の力はユミより強かったが、
アイコにとっては疲れが吹っ飛ぶ心地だった。
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そんな訳で、
アイコはユミの店に顔を覗かせることは無くなり、ジロウの店に通い続けるようになった。
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ジロウと奥さんは明るい性格で、苦労話も笑って話せる強い人たちだった。
また、奥さんは霊が見える体質らしく、入店したアイコをじっと見つめるやいなや、
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「もしかして、娘ちゃん…かな、その子、足を怪我しているでしょう」
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彼女の言う通り、アイコには娘のエリがいた。
エリは先週、体育の授業で足首を捻挫したばかりだったので、走る事ができないでいた。
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更に、奥さんはタロットカードを取り出して
「娘ちゃんはすぐ治るけど…次の仕事、目上の人とか…上司とトラブルがあるかもしれないから気を付けてね」と占った。
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翌日、アイコは仕事場で上司から濡れ衣を着せられて口論になったが、
仲間たちのおかげでアイコの無罪が認められ、
上司が更に上の人から咎められる結果となった。
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娘のエリはというと、
あれほど足を動かすのを痛がっていたのに、
その日の夜にはトランポリンができるほどに回復していた。
体の痛みを治すだけでなく、未来が見える人だと改めて感じたアイコは、彼らに心酔した。
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占ってもらう場合は、
マッサージ代とは別に1000円支払わなければならなかったが、アイコは毎週のように奥さんから未来を見てもらった。
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ある時、ジロウは常連客であるアイコに回数券を渡した。
「回数券には、占いの代金も含まれているよ。施術をした分判子を押すんだけど…
1セット50000円なんだよね…どうかな?」
アイコはわざわざ此処に来る度お金を払うよりも、
一度にドンと出して通う方がいいだろうと考え、
1セット買った。
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ある時、奥さんがパステルカラーの美しいブレスレットを持ってきた。
「アイコさんが家でも休められるように、邪気を払う効果をもつブレスを用意したの。
勿論腕に付けられるわ、1個1000円でどうかしら?」
アイコは自分のためにわざわざ用意してくれたことを嬉しく思い、
またそのブレスレットの見た目が可愛らしかったため、
それを購入した。
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ある時、回数券が判子でいっぱいになった。
「結構早く終わったね!
もしかしたら2セットの方が、アイコちゃんは合っているのかもしんないな…」
その言葉通り、アイコは回数券を2セット買ったのだ。
価格は勿論、前回の2倍の額だ。
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アイコは節約を心がけた。
夏でもクーラーをかけず、
冬でも暖房はつけずに毛布を多く着込み、
冷蔵庫の中身を減らしていった。
売れる家具があるなら高く売り、
副業をするようになった。
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それから1年、アイコの家の玄関には様々な色、形の石が飾られてあり、
ブレスレットやネックレスの数も10を越えていた。
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当時、大学受験を不安に思う娘のエリに対して、
気が紛れる程度に、奥さんに占ってもらおうかと
アイコは提案した。
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初めてジロウと奥さんに対面したエリは、半信半疑でタロットカードを受けた。
華やかなカードが出た。
「エリちゃん大丈夫、満開の桜よ!」
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その日から、アイコは仕事に忙殺されてジロウの下へ通うことが少なくなった。
何度も来ないかと誘われたが、
アイコは娘のサポートをすること、
仕事の都合で休みはどうしてもとれないことを伝え続けた。
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3月、エリは全ての大学に落ちていた。
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アイコは奥さんに
占いが外れたのは何故かと電話で尋ねると、
無言で電話を切られてしまった。
翌日ジロウの店へ向かえば、そこは既に藻抜けの空だった。
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アイコは今まで自分が払ってきた額を改めて確認すると
それは軽く5000000を越えていた。
作者ⓃⒺⓀⓄ
8割実話です。
まだ地獄のような続きがあったりしますが…それはほとぼり冷めた頃に。