これは会計事務所で働いていた方の体験したお話で、その方を仮に内田さんとしておきます。
内田さんは大学卒業後、都内の会計事務所に就職が決まり、春からその事務所の社員となりました。
内田さんも会計士の仕事がやりたかったので、毎日楽しく仕事をしていました。
そんな日々を過ごして1年が過ぎたある日、朝起きた時から身体が重く頭も痛かったそうです。
「まさか…風邪ひいたのか…」と思いましたがそのまま重い身体を無理矢理引きずるようにして会社に向かいました。
会社に着いていつものように仕事してたのですが、みるみるうちに容態が悪くなり、デスクに座ってるのも辛いほどになってしまったのです。
その様子に気がついた社長の片桐さんが内田さんのところに来て『内田君、顔色が悪いよ?体調悪いの?』と聞いてくれたんです。
真っ青の顔の内田さんが社長の方を向いて「すいません…なんか朝から身体が重くて頭も痛いんです…」と言うと、内田さんをじっと見て『こっちか……うん、今日はもう上がろう。辛いだろうから、私と治せるところに行こう』と言ってくれたんです。
片桐社長はすぐに総務の女性社員に今から内田さんを直せる場所に連れていく事を伝え、自分の車を会社の前にまわしてくれました。
内田さんは片桐社長ともう一人の男性社員に抱えられて車に乗りました。
車はすぐに発車し『内田君、辛いときはすぐに言ってくれていいよ、無理だけはしないでほしい』と言って心配してくれました。
十数分ほどして車はある場所にたどり着きましたが、そこは病院ではなくお寺でした。
片桐社長が前もって連絡していたようで、境内の前では神主さんらしき人が待っていました。
私は社長と神主さんに抱えられて境内に入りましたが、朦朧とする意識が薄れていき、目が覚めた時には会社近くの病院でした。
目が覚めた時には身体の重さも頭の痛みもなくなっていたので、そのまま社長の車で家に送ってもらいました。
それから1年ほど過ぎた後、総務の女性社員さんと倉庫の整理をしていた時に『そういや内田さん、1年くらい前に体調不良で社長とどっか行った事あったけど…あれ、病院じゃなくてお寺でしょ?』と言われました。
「え?社長から聞いたんですか?」と聞くと『違うわ、実はここのオフィスって霊の通り道らしくて体調崩す人多いのよ。
で、社長はそういうのが見えるらしくて、霊障で体調悪い人がわかるらしいの。
だからそういう人が出たら、病院の連れていくじゃなくて"治せる場所に連れていく"って私に伝えてくるのよ』と教えてくれました。
その時思い出したんです。社長が内田さんの顔を見てすぐに『こっちか…』って言ったのを…
作者死堂 鄭和(しどう ていわ)