中編6
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その口をふさぐ

「"その口、ふさいでやる"って言葉、あるじゃない?」

私は、会社の同僚に話しかけていた。

オカルト好きがきっかけで仲良くなり、時々プライベートで会っては、怖話を語ったりしている。

もっとも、話すのは私が主で、彼女は聞き役だが、興味深く聞いてくれ私も話し甲斐がある。

以前は女同士で、心霊スポット巡りをした事もあった。

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「もう!話の先が分かったみたいな目しないでよ!

昔見たマンガであったの。子供を亡くした母親が、同じ年頃の子供をさらってくるんだけど、言うことを訊かないと

"そんなお口は縫ってしまいましょうね"

って、針と糸で縫っちゃうの!

プツッ…プツッ…て書いてあるのが、ゾゾッてしたなぁ。」

私は、育てているペットにエサをやりながら話し続けた。

「後は、こう、ホッチキスみたいなのでガシャン!ってやるのもあるよね。洗濯ばさみのデカいので挟んだり。そっちは外した後、口周りが伸びちゃって、上手く話せないらしいよ。」

ペットは元気に動き回っている。数も大分増えたものだ。

「怖い話ってか、違う方面になっちゃったね。ごめんごめん。こういう系の話は、あんまり好きじゃなかったよね。」

元気に動き回る子達を、布の袋に入れる。

活発すぎてなかなか収まってくれないが、ある程度の数がどうにか入ってくれた。

すかさず蓋を閉める。

「話は違うけど、蟲毒(こどく)ってあるよね。たくさんの虫を閉じ込めて、残った一匹を呪いに使うっていう。

怖い話では結構有名なんだけど…知らない?」

彼女は小さく首を振る。

「あれって、種類が多い方が強い呪いになるんだったかな。でも、私は一種類でもいいと思うんだ。

相手が一番嫌いなものなら、そっちの方が効果的な気がしない?」

彼女は涙を流して、すがるような目をする。

私は、手を縛られている彼女の変わりに、涙を拭いてあげた。

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彼女をバスタブに入れるのには苦労したが、飲み物に入れた睡眠薬が効いてくれた為に何とかなった。

「そう、その蟲毒の話なんだけど。たまたま似通っちゃったけど、これは別なの。

呪いに使う訳じゃないから、最後の一匹にならなくてもいいんだ。」

ふさいだ口の下から"うーっ!うーっ!"と彼女がわめく。

バスタブの中の彼女に近づき、口のガムテープをはがす。

まだ薬が抜けきらないのだろう。

思うように抵抗出来ないようだ。

"ガサガサッ、ガサッ…"

袋の口をあてがう。

中身は、彼女の大嫌いな黒いアレだ。

"ガサガサッ、ガサッ…"

袋の底を押し込み、それでも抗う彼女の口に押し込む。

ある程度入っただろう。

袋を外し、すかさずガムテープで、今度は口から頭の後ろを伝わらせ、何度もぐるぐる巻きにする。入念に口をふさぐ。

「卵持ってる子もいてさ、孵化したらどうなるんだろう。繋がってる鼻とか耳に巣を持つのかな。

大家族ができるよ。良かったね。」

…ああ。何て良い顔だろう。この顔が見たかった。これを想像して今日まで計画してきたのだ。

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私は元々人付き合いが苦手で、会社にさほど仲の良い人はいなかった。

でも、当たらず障らず、それなりに上手くやっていた。

コミュニケーションは苦手でも、真面目に仕事をしていれば、評価してくれる人は少なくてもいたし、悪くない環境だった。

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中途入社で彼女がやって来たのは一年半前。

人当たりが良く、中でも私に良く話しかけてくれた。

明るく屈託の無い彼女の性格に、最初は打ち解けられなかったが、彼女がオカルト好きだという事がわかり、その内一緒に出掛ける位の仲になった。

嬉しかった。私は浮かれて、プライベートな事も、何でも話した。

入社以来、想いを寄せている同期がいる事も。

でも彼女は、影で私の事を悪く言い、他の人に取り入っていた。

私の趣味を誇張して「キモイ・暗い」とキャーキャー盛り上がっているのを偶然聞いてしまった。

最初から、扱いやすそうな私を、会社で上手くやって行くためのダシに使えると思っていたのだろう。

私が聞いていないと思っている所で、よく私の悪口を言っていた。事実で無い事も聞いた。

無理に誘われて、断れないとも。

私は、女子社員の中で孤立していった。

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彼女のやり口が上手かったのは、男性職員に陰口を言わなかった事だ。

人当たりの良い、明るいイメージのまま、好感を持たれていた。

…バカな私は、好意を持っていた相手が、いつの間にか彼女と付き合っていた事にも気づかなかった。

彼は、照れながら私に教えてくれた。

"聞いてるかもしれないけど付き合ってる" 

"彼女は一人っ子だから大家族に憧れてる" 

"本人には言ってないけど結婚を考えている"

…と。

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ある日私は、彼女を廃墟への日帰り旅行に誘った。

以前彼女と来た事がある廃旅館だ。

私が彼女の陰口に気づいている事は、薄々わかっているはずなのに、彼女は誘いに乗ってきた。

良い話のネタに出来ると思ったのか、それとも彼に、職場の人とまんべんなく仲良くしていると思われたいのか。

どちらにしろ、おかげで計画を進められた。

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この廃旅館は山の中にあって、もうじき取り壊される事が決まっている。

まもなく本格的に立ち入り禁止になるらしい。

彼女がそんな事を知る筈もないが、最後は教えてあげた方が絶望するだろう。

彼女とは、別の山の中で、はぐれた事にする。

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自宅でこの子達を育てるのは苦にならなかった。

大きめのクーラーボックスの中に、初めは十匹に満たなかったのが、あっと言う間に増えていったし、この子達は何でも食べた。

蓋を開けると、すぐ外に出ようとするのが大変だったが、箱の縁に毎日殺虫剤を塗る事で、ある程度這い上がって来なくなったし、

飛んで行かないように、本体と蓋の間に網を挟む事も覚えた。

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「後は、仕上げ」

クーラーボックスの蓋を開けて逆さにし、中身をバスタブに入れる。

何匹かは飛んでいったけど、大したことない。十分な数が彼女を含めたバスタブの底を埋めていく。

彼女は、こもった声を狂ったように出し、体をよじって逃げようとするが、首を含めた何カ所かを、ロープを渡して底に打ちつけ、体を固定しておいた為、動く事は出来ない。

ペットボトルに入っていた水を入れ、乾燥を防ぐ。

この子達に乾燥は大敵…とはいうけど、2億5千年前から生き続けているのだから、少々の事は何でも無いのかもしれない。

季節も、暖かい時期を選んだけど、そうでなくてもしぶとく生きるのかな。

…エサは豊富にあるし。

髪の毛や血液も、もちろん肉も、大好物の超雑食だしね。

"ガサッ、バサバサッ…"

ああ、もう。すぐに出ようとする。

私は、用意しておいた木の板をかぶせ、テープで目張りし、釘で打ちつけた。

彼女が必死の抵抗をしている音と同じに、ガサガサと這い回る音がする。

バールを打ち込み、空気穴を何ヶ所か開けて…。

少し大きく開いた穴から、彼女の目の辺りが見え、私は微笑む。

せいぜい長生きして、私を楽しませて欲しい。

その内、木の蓋も食い破られ、外に出てくるだろう。

でも、良いエサ場と住処になるはずだ。

他からも、団体が引っ越してくるかもしれない。

エサが無くなるのが先か、このまま取り壊されてグチャグチャになるのが先か。

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上から、枯れ枝やガレキをかぶせてカモフラージュし、私は廃墟を後にした。

Concrete
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@アンソニー 様、コメントありがとうございます。幽霊より、生きてる人間の方が怖い…って、言いますしね。恨みと執念は、時に、とんでもない残酷さを生み出してしまうかも。

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@むぅ さん、コメントありがとうございます。
日本で一番残酷だと云われていた刑罰で、壷の中に生きたまま入れられ、そこに生きた蛇を大量に入れて蓋をするというのがあったとか。
Gも嫌ですね(^-^;)

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