私には怪談めいた話やグッズを集めているような、特殊な趣味を持つ友人Aがいる。
最近は専ら心霊スポットに突撃して、そこで撮った写真や拾った物を自慢気に披露している。
ある日、「とっておきの呪物を手に入れたよ〜!」との連絡が入った。あろうことか、それを見せたいから家まで見に来てくれとの事。怪談話を聴いたり恐怖映像を観るのは好きな方であるが、怪談スポットに突撃取材とかには一切興味がない私にとっては、甚だ迷惑な誘いだった。
それでも長い付き合いである友人。おかしな収集癖を除けば陽気で友達思いなやつには間違いないので、「じゃあ、ちょっとだけ」と返信して、Aの家まで足を運んだ。
A宅に到着し、まずは事のあらましを一通り聴く。話を聴く限り、今回の場所は廃寺で、そこで手に入れた物らしい。
ハンカチで包まれたその呪物とやらを見ると、それは古びた位牌だった。
私は、「さすがにこれはやばいからすぐ元の場所に戻した方が良い」と説得したが、Aは絶対に手放さないと聞かない。怪談や心霊関係の事となると途端に強いこだわりや頑固さを見せるAに、私は説得は無駄だと結論付けてA宅をあとにした。
それから数日して、Aから電話があった。
「この前の事で話があるんだ。」
声のトーンは変わらないが、なんだか様子がおかしい。言葉の後に変な音が混じっているような気がする。しかし、Aは普段と変わらない陽気な口調である。一抹の不安を抱きながらも、そこまで重く考えずAの家まで向かった。
家で待っていたAの身なりは普段と変わらない。ただ、口元が何か爬虫類を連想させるような、舌を出したり引っ込めたりを繰り返すような動作をしきりにしており、その時点で不安は的中したのかもしれないと感じた。
さっそくAに、「何かあったのか?」と質問をすると、Aは、「最近変な夢を見るんだ。どこかの古びた木造の家の前に俺が立ってて、何かを叫んでるんだ。そしたら縁側の窓から、何人かがこっちを見に来るんだけど、目の焦点が合ってないというか、とにかくキョロキョロしながらこっちを見てるんだよ。」
夢はそこで終わるらしいのだが、何日も続いて気味が悪いんだよね、とAは話した。
「それって、この前拾ったって言ってた位牌が関係してるんじゃないか?」と私はすかさず言った。
「いや、違うよ。だってあれは、(チュパチュパ)だから。」
「は?今なんて?」
「だから、あれは(チュパチュパ)だから大丈夫なんだよ。」
「それ絶対この前の位牌が関係してるって、捨てたが良いって!てかさっきから舌出したり引っ込めたり、チュパチュパさせたりして話が聞き取りにくいんだけど、お前本当に大丈...」
「お前だってこの前3番に皿があるって言ったじゃないか!お前まさか興信所のやつか!それならとっとと出ていけ!」
とうとう本当に頭がイカれてしまったのか。突然態度が豹変して意味不明な発言をするAにたじろぎつつも、位牌の話にはもう触れないように会話を続けると、段々と普段のAに戻ってきた。しかし、私はAを心配する気持ちよりも恐怖心の方が勝ってしまい、落ち着きを取り戻したAに対してろくな挨拶もせずに逃げ帰ってしまった。
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....
「と、こういう事があったんだけど、Bはどう思う?こんな事って本当にあるんだろうか?当事者の一人ではあるけど、なかなか信じられないような豹変ぶりだったから。」
数日後、私は先日あったAの話を別の友人Bに話していた。大体の事は話したが、口元の動きに関してはなかなか気味が悪かったので、ちょっと様子が変だったとしか伝えていない。
すると、Bはこう言った。
「まあ、肝試しとか心霊スポットに突撃とかは、やっぱり良いことではないよ。俺はそういう話信じないけど、一人の人間として、越えちゃいけないラインみたいのはあると思う。なあ、それよりも....」
「ん?」
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「お前、さっきからずっと舌出したり引っ込めたりチュパチュパしたりして、大丈夫か?」
作者青沼静馬