ある母親と息子の奇妙な体験だ。親子で雨の日の夕方、近くの大型スーパーへ向かっていた時。既に日が落ち始めていた。遠くからスーパーの灯りが煌々と見えた。
雨だからか、珍しく人通りが少ない。親子はたわいもない話を交えながらスーパーへ向かっていた。
歩いていると前から赤い傘をさした女性が歩いてきた。顔は見えないが何となく雰囲気で女性と分かる。
そんなことは気にせず親子は歩き続けた。
気づくと、赤い傘の女性は顔が見える程の距離まで近づいていた。
息子が女性とすれ違う瞬間少しを目向けた。
しかし傘が邪魔をして顔は見えない。
柄もないただ赤い傘。今時珍しいなと思い、
親子はすれ違い、何となく後ろを振り向いた。
その瞬間、2人は呆然と立ちすくむ。
何故ならたった今すれ違った女性が煙のように消えたのだ。
あたりは一本道、周囲にスーパー以外の建物はない。車にでも乗り込んだかと思ったが、車どころか自転車なども走ってない。
親子はほんの数秒、周りを見回した。
すると周囲から強烈な香水の匂いがし始めた。
周りに母親と息子以外人影はない。
2人は青ざめた顔でスーパーへ駆け込んだ。買い物を済ませ、帰り道も同じ場所を通らなければならなかった。別の買い物の人達に紛れながら足早に家に向かう事にした。先程の場所を通るが、既に香水の匂いは消えていた。
しばらく無言だったが家に近づき、2人は先程の女性の話をし始めた。
幽霊だったのか、それとも2人して幻覚を見ていたのか。結局幽霊だったのかもと二人で話した。家に着き、念のため玄関に入る前、塩をまくことにした。
家に着き、呼び鈴を押し、家にいた父親に塩を持ってきてもらう。塩を身体に振りまき、家に入ろうとしたその時、父親が思わぬ言葉を口にする。
「お前たちなんでそんなに香水くさいんだ?」
どうやら赤い傘の彼女を連れて帰ってきてしまったようだ。
作者夕暮怪雨