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中編3
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クラゲ的な生き物

妻、美奈代が失踪してから、今日でちょうど1年が経つ。

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そう、それは去年の正に今日6月1日のことだった。

梅雨の合間の晴れた日の夕暮れ時だった。

美奈代は5歳の一人息子ハルキと一緒に、自宅近くの小さな公園にいたようだ。

ハルキが言うには「お空から大きなクラゲさんがフワフワ降りてて、ママを食べちゃったの」ということだった。

もちろん、私はそんなことを信じてはいない。

だがその日、美奈代が忽然と姿を消したのは、間違いのない事実なのだ。

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昨晩の深夜、私は、横に寝ていたハルキに肩を揺すられて、目を覚ました。

暗闇の中、一重のつぶらな瞳で真っ直ぐに私を見ながら、こう言った。

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「クラゲさんとママがね、明日の夕方、公園においでって、言ってるよ」

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この一年、私はかなりの労力を費やして、妻の捜索に奔走した。

もちろん警察にも協力をお願いした。

だが、何らの手がかりさえも得ることはなかった。

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そして今、私はハルキと二人、あの公園にいる。

時間もあの日と同じ、夕暮れ時だ。

もちろん、ここには数えきれないくらい訪れている。

だが結果は服の切れ端さえも見つけることが出来なかった。

だから一年目という節目の今日、いくらハルキが昨晩、暗示めいた夢を見たからといって、妻がひょっこり現れてくれるなどとは思ってなかったが、それでも何らかの奇跡が起こるのではないか、という一縷の期待があったのも事実だった。

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太陽は西の彼方にある山の狭間に、その姿を隠そうとしている。

辺りは印象派の絵画のように朱色に染まっていた。

公園にはもうベンチに座る私と、ブランコを漕ぐハルキしかいないようだ。

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─やはり、何も起こらなかったか、、、

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再び深い喪失感を味わいながら大きくため息をついた後、さあそろそろ帰るかとハルキに言いかけた、その時だった。

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shake

き!ぃぃぃぃーーーーーん、ん、ん、、、

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突然、ジェット機が空を横切る時のような不快な金属音が鳴り響くと、一瞬で辺りが暗闇に包まれた。同時に公園内にはあちらこちらにつむじ風が起ち上がりだした。

驚いた私は思わず空を見上げる。

すると信じがたい光景が、そこにはあった。

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地上から50メートルほどの辺りだろうか。

巨大な銀色に光る円盤状の物体が、空に静止しているのだ。

立ち上がろうとするのだが、私の体は一ミリも動かない。

ハルキを見ると、あり得ないことに、ブランコを漕いだ状態のまま、空中で静止している。

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しばらくすると円盤の底面が円形に開くと、ピーピーという電子音とともに、中から越前クラゲのような色鮮やかな生き物?が、ふわふわと漂いながら舞い降りてきた。

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体長は2メートルくらいだろうか。

透明な体躯の中身は透けていて、中心に巨大な脳味噌らしきもの、その周囲は神経繊維や臓器が複雑に配置されているようだ。

体躯の下には、無数の触手が蛇のようにうねうねと動いている。

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その奇妙な生き物は地上近くまで降りると、無数に蠢く触手の一本を、するすると水平方向に伸ばしだす。

やがてそれはブランコのところまで到達すると、器用にハルキの体を捕らえ、そのまま自分のところまで引き寄せていく。

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─ダメだ!止めてくれ!

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何度も心の中で叫び続けたが、無駄だった。

生き物はハルキを捕らえると、ゆっくりと一緒に上がりだし、終いには円盤の底面から内部へと消えていった。

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そして正にその後しばらくしてからだった。

私は確かに見た。

円形に開く円盤底面の暗闇の中に並び立つ、美奈代とハルキの姿を。

ゆっくりと閉じられていく底面のシャッターの隙間から二人は、感情を失った瞳でじっと私を見ていた。

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─美奈代!ハルキ!

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私は何度も何度も、必死に心の中で叫び続けた。

だが、そんな思いとは裏腹に、無情にもシャッターはピタリと閉じられた。

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そして再びあの不快な金属音がしたかと思うと、瞬時に円盤は消え、辺りはまた静寂を取り戻した。

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私はようやく立ち上がると、ただただ呆然と夕焼け色に染まった雲の彼方を眺めていた。

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Fin

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