これは大学時代に私が体験したお話です。
その当時1Kのアパートで一人暮らしをしていました。
大学までは徒歩15分程度。
また、1匹の黒猫を🐈⬛飼っていました。
その黒猫は私が家のドアの鍵をガチャっとやると、いつも「おかえりー」と玄関までお出迎えしてくれていました。
その日は大学の講義が午前中だけで、12時くらいには終わりました。
同じ学部の子で同じアパートはいないので、一人で帰路につきました。
大学から家までの間に一箇所、恐らくは戦時中の方を祀る慰霊碑がありました。
その日はすごく暑かったのを覚えています。
帰り道、炎天下の中、石碑の前に明らかにかなり古い時代の着物をきた、おそらく50代くらいの女性が日傘などもささずに、立っていました。
「この暑いのに何してんだろ?着物暑そうだなぁ」と思いつつ、横目に見ながら通りすぎました。
暑くて早く帰りたいと、早足で前のめりに歩きだしました。
すると、前に先程の女性だろう足元が。見上げると女性が目の前にいました。
「あのう。すいません。〇〇駅はどこですか?主人と待ち合わせをしているんです。」
すごく、か細い声で尋ねてきました。
しかし、〇〇駅はそもそもここの場所からは遥かに遠い所。正直場所を案内するといっても無理がある。
めんどいなと感じつつ、「いやあすいません。〇〇駅はわからないです。」とだけ答えました。すると、急に女性の顔色が変わり、少し怒った様子で、
「わからないって、あなたじゃなきゃダメなんです。教えてください。主人が待ってるんです。」
かなりの圧力で言われ、私もなんか怖くなりました。
「私じゃなきゃと言われても。すいません、急いでるんで。」
そう言い残し足早にその場をさりました。
少し歩き、後ろを振り返ると、その女性はもういませんでした。
良かった。なんか変な人に絡まれたな。あなたじゃなきゃって、意味わからないし。しかも、あの人なんであんなに手が青白いんだろ?
気持ち悪いなと感じながら、アパートに到着しました。
バッグから鍵をとりだしました。
鍵をガチャっとやるのに、猫の声がしません。
よく耳を凝らして聴くと、部屋の奥の方から微かに「にゃー。にゃー」と聞こえます。
どうしたんだろ?なんで来ないんだろ?大丈夫かな?
鍵を開けて、扉を開けました。
すると、先程の女性が正座をし、玄関先にいるではないですか。女性は顔を床につけた状態で家の中にいました。
そして、床につけた顔を少しずつあげながら、
「おかえりなさい。あなたを待ってたの。さっきは、何で無視したの?」
思わず、ぎゃーっと叫び、扉を閉めました。
鍵を閉めなきゃと咄嗟に思い閉めようとすると、家側からドアノブをこじ開けようと凄い力でガチャガチャ。その力はとても女性の力とは思えません。
「何で無視するの。何で無視するの。何で無視するの。」
女は同じ言葉を繰り返しながら、扉を開けようとしてきます。
ふと、知り合いの言葉を思いだし、幽霊にたちさってもらうには、自分の居場所じゃないとわからせればいい。そうだ、そう言ってた。私は無我夢中で、
「ここはあなたの居るべき場所じゃない、立ち去りなさい」と呪文のように繰り返し唱えました。すると、凄い力で開けようとしていたのがなくなり、女性の声もしなくなりました。
恐る恐る扉を開けると、女性の姿はなく、猫🐈⬛が、「おかえりー」と泣きながらすり寄ってきました。
あの女は一体なんだったのか、何故自分の家にいたのか。
後日知り合いの住職の所へ相談にいきました。
すると、顔をみるなり一言、
「お前危なかったな。あの女はお前を連れてくつもりだったぞ。」
何も話さないうちからまるで全てを見ていたかのように、そう言われました。
住職曰く、あの女は私が女の姿が見え、しかも会話ができたので、引き込めるとずっとついてきたのだそうです。つまり、家の中にいたのではなく、私についていたと。
それから私は霊に話かけられても絶対に話はしません。
作者蒼波