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中編5
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白いお面の人

俺は今年30になる独身男性だ。

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独身といっても息子が一人いる、いわゆるシングルファザーってやつ。

かいしょなしの俺に愛想つかした元嫁が去年、とっとと男作って出ていったってわけ。

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毎日残業でアパートに帰るのが遅いもんだから、

日曜日は午後から近くの公園に息子のアキラを連れて行くのが、最近の俺的トレンドになってるんだ。

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日の暮れる頃まで遊んでやって、その後は二人手を繋いで帰りながら、ああ、俺もいっぱしの父親してるよなという変な感動に浸ってるんだけど、その途中にちょっと奇妙なことがあるんだ。

それは、

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ある家の門の前になると、アキラが泣くんだ。

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泣くと言っても、しくしくなんて軽いもんじゃなくて、それこそ狂ったように泣きわめくんだ。

俺も心配だから毎回「おい、どうしたんだ?」って尋ねるんだけど、ただ意味不明なことをわめきながら泣くだけ。

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一度だけ晩飯のときに聞いたことがある。

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「なあ、日曜日、公園の帰り道、お前いつも門の前で泣くけど、あれって何なんだ?」

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正面に座るアキラの箸がピタリと止まった。

そしてしばらく呆けたように天井を仰ぐと、おもむろにこう言った。

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「怖いお面をした人が、頭の中に出てくるの」

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俺は尋ねる。

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「怖いお面って、どんなやつだ?」

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アキラはちょっとの間、左上に視線を動かした後、口を開いた。

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「真っ白で、目と鼻と口のところだけ穴が空いてるやつ」

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さらに俺は突っ込んでみた。

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「その変なお面した人は、お前に何か悪いことするのか?」

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アキラはこくりと頷き、両手で自分の首を絞める仕草をして苦しそうな顔をする。

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「そいつがお前の首を絞めるんだな」

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アキラはまたこくりと頷くと、さらに続ける。

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「白いお面をした人の後ろの方にね、大きな木があってね、そこに美味しそうな桃がいっぱいなってるのが見えるの。

でも段々それも霞んできて、、、」

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ここまで話してアキラの目には涙がたまってきているのが分かったから、俺は話を止めて茶碗を片付け始めた。

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翌日、俺は会社を早退すると、アキラの泣いていた門のところに行ってみたんだ。

そこは住宅街の一角にある古い一軒家なんだけど、

もう誰も住んでいないようで、雑草は生え放題で、家の窓という窓には雨戸がしてある。

白い壁には蔦が幾重にも重なっていた。

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俺は人目を気にしながら、門から敷地に入ってみた。

雑草を掻き分けながら家の周囲を歩いていき、裏庭まで行ってみると、大きな木が数本植わっている。

見ると、一本だけ桃の木があった。

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しばらく庭の真ん中に立ち家を眺めていると、背中に刺すような視線を感じた。

振り向くと、垣根の向こうにジャージ姿のお爺さんがいて、「どちらさんですか?」と声をかけてきた。

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俺は慌てて一礼してから、

「すみません、私近くに住む者なんですが、この家はもう誰も住んでませんよね?」と言うと、

お爺さんは「ええ、そうですよ」と頷き、こう続けた。

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「ここね、かなりお年を召された老夫婦と、息子でしょうかね、中年くらいの男が一緒に暮らされていたんです。

息子さんは仕事とかはしてなかったようでね、いつも家に閉じ籠っていたようです。

いい年をされていたんですけどね。

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それで三年前くらいからでしょうかね。

ご夫婦の姿を全くお見かけしなくなったんです。

あの頃私、朝は、散歩するご主人の姿をよくお見かけしてましたし、夕方スーパーとかでも、奥様をお見かけしてましたのにねえ、、、全くお見かけしなくなったんです

ただ息子さんには一度だけですけど、お姿をお見かけしました」

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「その息子さんももう、ここには住んでないのですか?」

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私の質問にお爺さんは頷くと、また話し始めた。

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「気が付いたら、いつの間にか雨戸が全部閉められていて、郵便受けにも郵便物がたまり放題になったものだから、私も、ああ、どこかに引っ越されたのかな?と思った次第です」

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「ご夫婦の姿を見かけなくなってから一度だけ息子さんを見たというのは?」

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俺の質問に、お爺さんは何故か険しい顔をしながら話し出した。

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「夜中でした。

家内が庭の方で何か物音がするって言うものですから、私布団から出ると、サッシ戸を開けて、庭に出てみたんです。

しばらく暗い庭を歩いていると、垣根の向こうからザクザクという土を掘るような音が聞こえてきました。

何だろう?と垣根越しにお隣の庭を覗くと、心臓が止まるくらいびっくりしました」

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お爺さんは怯えるような顔をすると、続けた。

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「息子さんでしょうかね、

月の明かりに照らされて真っ黒のジャージに真っ白のお面をした人が、桃の木の袂に立ち、スコップで穴を掘ってるんですよ。

その動きがまた人間離れしていて機械のような感じでね。カクカクとしてて、まるでからくり人形みたいで、私ゾッとしましたよ。

いったい、あの人は、あそこで何をしていたんでしょうかね?」

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その日の深夜、

俺はスコップと懐中電灯を片手に、あの家に行った。

そして裏庭に行き、月の明かりを頼りに桃の木の袂辺りを掘りかえしてみた。

額からの汗を幾度となく拭いながら半時間もした頃だろうか。

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やはりあった、、、

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半分腐りかけた着物を着た二つの遺体が、、、

抱き合うようにして。

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翌朝一番に、警察に電話した。

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それから一週間が経ち、三度目の聞き込みに警察の人がアパートに訪れた際に警察の人が語った内容は、半分俺の予想を覆すものだった。

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「分析の結果、あのご遺体はあの家に住んでらしたご夫婦でした。

お二人とも頸椎を複雑骨折されていて、恐らくは誰かに首を絞められて殺害され、埋められたと思われます。

またご夫婦の埋められていた場所から少し離れたところでもう一体、埋められているのが見つかりました。

このご遺体もご夫婦と同じく、首を絞められて殺害されていたようです。

こちらの方の身元に関しましては只今調査中です」

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それ以来、息子のアキラが泣きわめくことはなくなった。

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Fin

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Presented by Nekojiro

Concrete
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