短編2
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幸せのスープ

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 放課後の料理部は、いつも優しい香りに溢れている。

「アリス」

先輩が湯気を立てるお皿を私の前に置いた。

「スープはいかが?」

今日のスープはじゃがいもをとろとろになるまで溶かし込んだクリームスープだ。微塵切りパセリの緑色が食欲をそそる。

「他の部員は?」

「もう帰ったわ。それよりアリス、早く召し上がれ」

一口スプーンですくって口に運ぶ。甘い香りと、ほんのり酸味がかった味付け。申し分ない出来だ。

「おいしいわ」

「そう、良かった」

向かいに座った先輩は嬉しそうににっこりと笑顔を浮かべ、ピースサインを見せた。

それを見て、一瞬遅れてアリスの顔が強張る。

「ハサミは怖いの」

「え? あ…………ごめん、そんなつもりじゃ…………」

「先輩だけは、私を傷つけないって思ってたのに」

アリスの顔が青ざめたまま、声のトーンに冷たいものが混ざる。

「ごめん、アリス。お願い、やめて。私がいなくなったら、あなた…………」

「だめ。絶対許さない」

shake

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いつの間にか手にしたハサミを、何度も先輩に振り下ろす。鮮血に塗れながら、アリスは恍惚とした表情を浮かべた。

§

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「発見が早かったため、すぐに処置できましたので一命は取り留めました。しかし今後は二十四時間拘束衣を着せる必要があります」

白衣姿の医師たちが、カルテに目を通しながら話し合っている。

「西園寺有栖、麗桜女学園高校二年。性暴力から逃れるために父親をハサミで殺害。その後事件の記憶を失うとともに極度のハサミ恐怖症となる、か」

「空想上の先輩を罰するために、自ら腹部を刺したようです」

「ハサミはどこから?」

「看護師のポケットから抜き取ったようです。以前はハサミを見るだけで失神するほどだったのに、一体何を考えているのか……」

「あの子にとって、ハサミは忌まわしき記憶の鍵であると同時に、自らを救ってくれた守り刀のようなものなのだろう。これからはもっと注意しなくてはな」

§

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「スープが飲みたい」

全身を拘束され、虚脱したまま独り言を呟く。料理部の先輩のスープは幼い頃病没した母の味を思い出させるのだ。どんなに嫌なことがあっても、彼女のスープがあれば生きていける。だから先輩、早くスープを、私のためのスープを作って…………。

「アリス」

母の面影を宿す先輩の優しい声が聞こえた。よかった。来てくれた。

「スープはいかが?」

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