姪の早苗は夏休みということで、田舎にある俺の家に泊まりにきた。
今日で3日目になるが、普段の都会暮らしでは想像もつかない発見の連続に、早苗は終始目を輝かせていた。
「ねえ、あれは何て数えるの?」
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早苗はどうやら算数が好きらしく、目新しいものを見つけるたびに、その数え方を俺に聞いてきた。
「あれは、"1羽"って数えるんだよ」
鳥にしては珍しく、トコトコと散歩道を歩いているハクセキレイを見て、そう教える。
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「じゃあ、これは?」
今度は路肩に生えるタンポポを指差して、そうきいてきた。
「これは"1輪"だな。花は、輪っかみたいな形をしてるだろ?」
「じゃあ、あれは?」
地面を指していたはずの早苗の人差し指は、いつのまにか頭上の空に上げられていた。
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「あれは"1機"だ。飛行"機"って言うじゃないか」
そう教えたが、早苗は不満そうに「違う」と言った。
「その後ろの、飛行機雲。あれは、どうやって数えるの?」
雲の数え方を知らなかった俺は、ごめんお手上げだ!とふざけて誤魔化そうとした。
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「なんで、大人なのにわからないの?」
俺の意も介さずに早苗が大真面目にそう言ったので、笑顔は崩さなかったものの、内心では相当イラッとした。
ただでさえこの3日間質問攻めにされてストレスが溜まっていたから、俺は早苗に意地悪をしたい気持ちになった。
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「そんなことばっかり言ってると、一人ぼっちにしちゃうぞ」
そう言って俺は、大人げない速さで散歩道を走って、早苗を置いてけぼりにした。
待ってよ、という早苗の声が聞こえて少しだけ気分が晴れたが、どうせならもっと懲らしめてやろうと思い、早苗の見えないところまで走って、そばにある木の後ろに身を隠した。
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そして俺は、早苗を驚かすのを心待ちにしていたが、いくら待っても彼女は歩いてこなかった。
心配になった俺は散歩道を引き返してみたが、その姿はどこにも見当たらない。
早苗も俺への仕返しとしてどこかに隠れているのかと思ったが、日が暮れるまで探しても、見つけることはできなかった。
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しかし3日後、早苗は俺のところに戻ってきた。
もう「1人」とは、呼べない姿だった。
作者退会会員