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短編2
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「壁紙」

はじめて入った克也の部屋は、拍子抜けするくらいに平凡だった。

彼は自他ともに認める、かの有名なアイドルグループ"RBN44"のセンター、多々利沙友梨(たたりさゆり、通称さゆりん)の大ファンであった。

だから彼の部屋の壁は、よくあるオタク部屋のように彼女のポスターだらけだと思っていたのだが、僕の予想は見事に裏切られた。

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四方の壁の色はベージュを主としているが、よく見ると赤みがかっていたり、グラデーションのように暗くなっている箇所がある。

別段おしゃれな壁紙でもないので、ポスターとか貼らないの?と聞いてみると、「これ以上は間近に感じられないくらいそばにいるから、必要ないよ」といつも通りに気持ち悪い返答が返ってきた。

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それからは彼の独壇場で、ひたすらに"さゆりん"の魅力について聞かされた。

定期テストの勉強をしようと誘われたはずなのに、そもそも彼を信じたのが間違いだった。

僕は半ば単位を諦めて、差し出されたさゆりんの顔写真を見てみた。写真の中の彼女は、たしかにセンターを飾るにふさわしい整った顔立ちをしていた。

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「特にほっぺたのほくろがキュートで可愛い」

キュートと可愛いで被ってるし、あと単純に気持ち悪いしでもう帰りたくなって部屋のドアを見たら、その近くの壁にまるで焼けたあとのような染みを見つけた。

入ってきた時にはドアの死角になって気づかなかったみたいだ。僕はどうしようもなく気になって、彼の話そっちのけで訊いてみた。

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「なあ、この染みみたいなの、何?」

彼は待ってましたと言わんばかりに、今日一番の笑顔で、こう答えた。

「それが、さゆりんの、ほ・く・ろ」

そして僕はようやく、克也がポスターを貼らない理由を理解することができた。

同時に、なぜ僕は今までこいつの友人をしていたのか、自分のことなのにさっぱり理解できなかった。

Concrete
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