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中編3
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いぬの妖怪

時計台の前で寝そべっている犬がいる。

でもその姿は誰にも見えていない。どうしてかというと、答えは簡単。アレは犬の妖怪だからだ。

この妖怪はいつも僕の邪魔をしてくる。

この元犬は、僕が飼っていたパグ犬のマモルで、死んだ後も成仏する事なく、僕の近くにいる。

おそらく、僕の事が心配なんだと解釈しているが、直接マモルに聞いたわけではないので、なぜ妖怪にまでなって僕のそばに居続けているのかはわからない。

マモルは僕の姿を見つけると、シワシワの顔でウッシッシと笑う。

僕はムッとした顔でマモルをにらみつける。

笑われた理由は当然、僕が女の子に約束をすっぽかされたからだろう。

初めてデートの約束にまでこぎつけたアリスちゃん。もう約束の時間を30分もすぎている。

放置されている僕はといえば、薔薇の花束を片手に、自分なりに考えた中途半端なオシャレをしてたっている。事情を知っている人間がみたら、たぶん皆んな笑うかもしれない。

もう来ないのはわかっている。LINEを打っても既読にもならない。

スマホとにらめっこしている僕を見て、マモルがまたウッシッシと笑った。僕を心配しているとは到底思えない。

次の朝、友人と海に行くための用意をしていると、マモルが「ボクもついていく」と言わんばかりの顔で僕を見ていた。

迎えにきた友人の車に乗り込むと、マモルがブヘン!とくしゃみをした。

車の中は煙草の匂いが充満していて、僕は友人に海に着くまではもう車の中で煙草を吸わないでくれと頼んだ。マモルは妖怪のくせに煙草と味噌汁の匂いが苦手なのだ。

友人はなんで?と言ったが、まさか後ろの席に煙草嫌いの犬の妖怪が座っているなんて言えないから、僕は禁煙中だと嘘をついた。

海まであと30分というところで、休憩しようという事になった。

友人がコンビニに入ったのを確認すると、僕は後部座席のマモルに問いかけた。

「やっぱり、行かない方がいい?」

マモルは話せない変わりに鼻を一回鳴らした。

ここまでの道中、マモルが何回も何回も鼻を鳴らすので、全く友人の話が入ってこなかった。

マモルがこんなに鼻を何度も鳴らして警告するのは、それなりの理由がある。

今までもそうだったから、無視はできない。この車が事故に巻き込まれるか、行った先の海で水難事故に遭うか。

僕はずっとこの車を自然にUターンさせる方法はないかと考えていた。

友人が「お待たせ!」と、頭にシュノーケルをつけて帰ってきた。目にはゴーグル。

おそらく、僕を笑わせて場を盛り上げようとしての事だろうけど、僕は引き攣った笑顔しか返せなかった。

後ろでは、ブヒブヒブヒブヒとマモルがやっている。

バイトまで休んで海を楽しみにしている友人を前に、僕は何も言う事ができない。今更行き先を変える訳にもいかないし、腹が痛いから引き返してくれとも言えない。考えている間に車はまた海に向かって走り出してしまった。

運転席でゴーグルをつけながらサザンを熱唱する友人。後ろではブヒブヒブヒブヒとやかましい妖怪。

このままでは必ず何かしらの危険が待っているのは間違いないのに、チキンな僕は何も言いだす事が出来ない。

ああ、僕はどうしたらいいのだろう?

いくつもの峠道を越えたところで、ついにフロントガラス一杯に青い地平線が姿を現した。

※ 続くかもしれません…

Concrete
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