22年02月怖話アワード受賞作品
中編4
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マネキン

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ここは都内にある、昔ながらのマネキン制作会社。令和の今になっても、やれテレビ局やら、デパートやらからのマネキンの発注は割とあるのだ。

その会社に、とある風変わりな注文が届いた。

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「はい、昭和マネキンです。あ、サンシャインデパートの新井優子様!いつもご贔屓ありがとうございます!」

「こちらこそいつもありがとうございます。今日もマネキンの注文をしたいんだけど、ちょっと今回特別な注文をしたくて…申し訳ないけど、近いうち、そちらにお伺いしてもいいでしょうか?」

「もちろんです!サンシャインデパート様あっての我々ですから!」

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「この人をモデルにしたマネキンを作って欲しいの。」

新井氏が差し出したのは、ある中年女性の写真。いかにもバリバリのキャリアウーマンといった女性だ。

「この方は?」

「私の先輩…というより、元先輩ね。名前は木村和江さん。もっとも、今はもうこの世にはいないけど…急な交通事故で亡くなってしまって。」

「お悔やみ申し上げます…」

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昭和マネキンの職員、二宮翔は沈黙ののち、この風変わりなオーダーについてさらに詳細を聞いた。

なんでも、新井氏には2人の部下がおり、男女で職場恋愛をしているのだとか。

しかし、前の上司である木村氏が急死してから、仕事そっちのけでイチャイチャしてばかりで、ロクに仕事をしないらしい。

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「うちの部署は少人数でやってるから、辞めさせるわけにもいかないし、まじめにやってもらうしかないの。

でも、あいつら私のこと舐めくさってるから、言うことなんか聞きやしない。

真面目に仕事してた時はとにかく和江さんが厳しく指導してたから、怖がってただけだったみたいで。

だから、ちょっとしたお仕置きをしてやろうと思ってね」

「どうするつもりなんです?」

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「今度、残業をしてもらうんだけど、エレベーターを適当な理由で使えなくして、代わりの帰り道になる階段にこのマネキンを置いておくわけ。

そうすればあの2人、和江さんの幽霊が出たと思い込んで、反省して真面目に仕事をしてくれるようになるに違いないわ」

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「それって、大丈夫なんですか?亡くなった方に対する冒涜になりません?」

「大丈夫大丈夫!和江さんもあの2人がちゃんと仕事をこなしてくれることを望んでいるはず。そのためならわかってくれるわよ」

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「は、はあ…」

「出来ないとは言って欲しくないんだけど?昭和マネキンさんのモットーは「冷静、丁寧、正確に。お客様第一!」でしょ?」

「わかりました、引き受けましょう。サンシャインデパート様あっての私たちですから」

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3日後。

昭和マネキンのトラックが、サンシャインデパートに到着した。

「昭和マネキンです。マネキンの納品に参りました」

「えー!納期は一週間後なのに、もう出来たの?すごい!」

完成したマネキンは、まるで生きているかのようなリアルな表情だった。

「すごい出来栄え!これをあんな短期間で!」

「冷静、丁寧、正確に、お客様第一が我々のモットーです」

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現れた昭和マネキンの担当は、顔を上げずうつむいたまま淡々と話した。

「さすが昭和マネキンさん!サインするわ」

「こちらにどうぞ」

「それにしてもあなた、見ない顔だけど、新人さん?」

「はい、私菊池と申します」

菊池と名乗る男性は、変わらず淡々と話し、一礼してトラックで去って行った。

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「たく、なんで今日に限って残業なんだよ!ムカつくなー」

「マジであの新井とかいう人、なんでウチらと対して歳変わらないのにいきなり上司になるわけ?きっとなんかのコネだよ」

「ほんとほんと。てか今日に限ってエレベーターメンテナンスとかどういう事だよ、だるいな…」

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新井氏の部下、番治と由美は愚痴をこぼしながら気だるそうに残業していた。

ようやく仕事が終わり、帰り道の階段を降りようとしたその時…

「ば、番治…あれ…」

「えっ、由美ちゃんどうしたの?あっ…あれって…」

2人の目に、和江氏をかたどったマネキンが目に入った。

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「か、和江さん…!」

「すみませんでしたあああ!!!もう仕事をサボりません!真面目に働きます!」

「逃げろー!!!」

2人は慌てて、その階段とは別にある非常階段から逃げるように帰って行った。

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その後、2人は人が変わったように真面目に仕事に取り組むようになった。

まさに、マネキンは効果覿面だったわけだ。

2人の業務効率が上がり、部署の売上も伸びてきた。

新井氏は売上アップを評価され、昇進の話も出てきた。

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「もしもし、二宮くん?マネキンの効果覿面だったよ!2人も真面目に仕事するようになって…お願いして良かった!」

「あの…その件なんですが…」

「ん?何?」

「まだそのマネキン、ここにあるんです」

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「はあ?何言ってるの?たしかにあんたのところの、菊池さんて担当が…」

「その菊池という担当、本当に私たちの会社の人間ですか?うちは家族4人でやってる零細企業ですよ。他に従業員はおりません」

徐々に新井氏の顔は青ざめていく。

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「新井さん、仰るマネキン、会社のどこにも見当たらないのですが、本当に発注されたんですか?」

別の従業員が声をかける。

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それじゃ…あのマネキンは…

私がマネキンだと思っていたものは…

一体、何だったの…?

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