1:ミオナの話を聞いたユウカの口が開いた
「『まるいさんの家』は地元じゃ有名だよー。
必ず幽霊見るとか、台所の床下収納から赤ちゃんの鳴き声が聞こえるとか、仏壇の前でお婆ちゃんがお経読んでるとか」
「私が行った時、家の中は何も無かったんだ。でも、庭にある神社みたいなの?そこに黒い影みたいなの見た」
「ミーちゃん。それを言うなら祠(ほこら)な」
この時ユウジは確信した
ミオナは天然入っている
しかし、ミオナの容姿ならそれを許容していまう気持ちがユウジに芽生えた
『今度は持たない者の悪癖だね…。自分達が感じないから危険な場所に平気で足を踏み入れる。でも、廃墟になった空き家のお約束展開だなぁ…それ。ユウジ、検索』
「はいよー」
タルパに言われ、ユウジは自分のスマートフォンを取り出し、検索を始めた
「ヒットした。なるほどー、ユウカさんが言う様に地元じゃ有名みたいだね。廊下歩いてると後ろから足音が聞こえる、天井を何かが走る音が聞こえる。ちなみになんで『まるいさんの家』って言われてるかは不明らしい。表札があったとかは無いみたいだね。ブラザーの言う様に空き家スポットのお約束だわ。でもさ、祠に関する話しは一切無いなぁ」
「えー。庭にあったよ」
「庭に稲荷の祠なら、こっちでも見かけるよねー。その類かぁ?」
『日本は怨霊を神として祀って祟りを防ぐ様な国だからね。家系を怨む怨霊を封じるパターンもあるし、良いものとは限らないさ』
「話だけでは判断難しいよね。タルパが見れば分かる?」
『現物見れば型式で分かると思うよー。ユウカ、その場所って近いか?』
「ここから5駅だから、近いっちゃ近いよ」
『よし、頼んだもん片付けて行くぞ』
時間にして丁度、20時を回った時であった
2:ミオナに起きている怪現象の原因は時期的に『まるいさんの家』にある祠だと推測出来た
そこにミオナを連れて行くのは危険とタルパは言う
道案内であれば、ユウカも可能
問題はユウジがどう行動するかだ
タルパの見立てでは、ユウジの能力であれば、祠に潜むモノに対抗出来る
ミオナの怪現象は自宅でも起きている
ミオナの安全を確保するのは、ユウジが側にいる事だろう
結果、最寄り駅まで4人で行き、現地へタルパとユウカで行く
最寄り駅付近で、ユウジとミオナが待機
ユウジの能力は携帯などの電波が繋がっていれば、発揮出来る事は、北野(きたの)ハヅキを助けた際に証明されている
タルパはいざとなればユウジに連絡を入れる事で全て収まると考え、実行に移す事にした
3:駅近くの駐車場にベンチがあり、ユウジとミオナが並んで座っている
ユウカが買ってくれたホットドリンクで手を温めながら、2人はしばしアイドル話しで盛り上がっていた
そして、ミオナが何かを思い出し、口を開いた
「ユー君、視て欲しい物あるのよ」
ミオナがポケットから取り出したのは狐の形をしたフィギュアだ
「これは何?」
「何年か前の大晦日に友達と東京へ遊びに行った時にねー。ガチャガチャがあって出たやつだよ。丸狐って言うの。最近さぁ、なんか怖い感じするの。何かヤバい?」
ユウジが受け取り、視る
名前の通り狐を丸くした物で、よく見るPVC製
頭部、額に火の紋章、胴体に彼岸花が描かれている
ユウジは驚いた
凄まじい力を感じる
しかし、悪いモノとは感じなかった
「いや、悪いモノでは無いよ。むしろ、俺が欲しい位だ。でも、ミーちゃんが持ってた方が良い」
そう言って丸狐をミオナに返した
すっかり話し込んだ2人は飲み物を空にしていた
新しい飲み物を買いに行こうと立ち上がった時だった
タルパ達が向かった方向から何かが来る気配をユウジが感じた
強さを感じるユウジ
すると、ガムランボールに宿る水霊(みづち)の美月が姿を現し言った
(ユウジ、残念な報せが2つ)
「美月よ。それを言うなら、悪い報せと良い報せがあるだろ?」
(悪い報せしか無いから仕方ないじゃない)
「一応聞こうか」
(まず、一つ目。今こちらに向かって来てるモノは怨霊ね。ユウジの剣では斬れないよ)
「マジか?一体どうして?」
(あの怨霊、別の人が使った神の剣で一度斬られてる。ユウジの剣って一度斬ったモノは斬れないでしょ)
「そんなんありかよー」
(そして2つ目。私とは相性最悪。私は水属性あいつ木属性)
「それって『効果はいまひとつのようだ』って事?」
ミオナが口を開いた
(それより酷いかな。私が攻撃しても相手を強めると思う)
「え?ミーちゃん美月の声聞こえるの?」
「うん。聞こえるし、姿も視えるよ」
「一体なんで?」
(一時的なものね。ユウジの気は元々、辺りに与える影響大きいのよ。あなたの気を吸ってる私が出れば、効果は倍。その娘はものすごく綺麗な気をしてるから強く影響を受けてしまってる)
「美月さんっていうんですね。初めまして。有村ミオナと言います」
(ごめんね。自己紹介してる暇は無いの)
怨霊到着までさほど時間が無いのだ
「くっ、打つ手無しか。こんなにザワつくのは元カノがリボ払いしまくってた時以来だ」
「ユー君、それ払ったの?」
(あんたら、余裕かましてるけど、平気?それからミオナ。ユウジは元カノなんて居ないよ。彼女居たこと無いもん)
ユウジの眷属となった美月は彼と記憶を共有できる
「しゃーないだろ。この物語始まって以来の大ピンチだぞ。軽口でも叩いて無いと精神的にもたん。それから美月。ミーちゃんにしれっと俺の恥ずかしい過去をバラすな」
すると、ユウジ達の目の前に黒い影が現れる
「おい、おい、待て、待て。半分に切られてこの強さかよ。反則だろーそれ」
(ユウジ。試したい事がある。印は要らないから、自分が炎を纏うイメージを持って不動明王真言唱えてみて)
「こんな時に何のおまじないだよ」
文句を言いながらも真言を唱えるユウジ
「凄い。炎が出た」
(やっぱりね。いい、ユウジ。貴方の気は霊を退けるタイプ。そこに不動明王の少しの加護乗せれば気休め程度だけど、相手の攻撃を防げる)
現に怨霊は襲って来ない
「これって炎を剣に宿せれば攻撃出来るんじゃね?」
(可能だとは思うけど、やめておいた方が良いね。攻撃力が低いから刺激するだけよ)
「盾になるしか無いのか…」
ミオナは恐怖に震えている
今までは視れず感じず
こんなものが自分の近くに居たなど、恐怖でしか無い
後ずさる。
するとポケットから先程ユウジに見せた丸狐が落ちた
(ユウジ、それよ。ミオナが落とした物を握って気を込めて)
「こんな時にまたおまじないかよ」
ユウジはそんな事を言いながらも、丸狐に気を込めた
すると、丸狐が凄まじい霊気が溢れ出し、白い身体に青い目の6尾を持つ美しい狐が現れた
「なっ、なんだこれ」
すると、美月が頭を下げて言った
(6尾を持つ白狐殿とお見受けします。どうか、私達をお助け願えませんか)
白狐が答える
(面を上げて。そう言う貴女は水霊(みづち)ね。霊格は下手すれば私の方が下。かしこまる必要は無いわ)
(今は、この男の眷属をしています。あの怨霊を撃退して欲しいのです)
(この人形から出してくれた恩は返すわ。その願い聞き入れましょう。それからお互いに敬語はやめましょ)
白狐の姿が大きくなり、ユウジの前に立つ
(人の子よ。貴方の気良いわね。御礼に働いてあげましょう)
白狐は爪で怨霊に攻撃する
怨霊は白狐の一撃でたじろぎ、逃げた。
(白狐さん、逃しちゃ駄目)
(ゴメン、水霊さん。寝起きの上、今の私はその人が近くに居ないと出て来れない)
「仕方ないね。これに懲りてみーちゃんの所に来なくなれば良いけど…」
(五分五分ね)
(でも、かなり深く入ったからかなりのダメージ与えたと思う)
力が完全には戻って無いとはいえ、白狐は6本の尾を持つ妖狐である
強さは凄まじいだろう
ユウジは軽い眩暈を感じた
再びベンチに座った
気を利かせたミオナが冷たい缶コーヒーを買い、ユウジに渡した
気温は低いが、能力を使い過ぎたユウジには有り難い事だ
「あれ?美月さんも白狐さんも視えなくなった」
一時的なユウジによる干渉が無くなったのだ
それと同時にユウジ達を襲った怨霊の気配が完全に消えた
4:『まるいさんの家に向かったタルパ達
ユウジ達の目が無いせいか手を繋いで歩いている
ユウカから促し、タルパが従う
「なんで、さっきは手も繋いじゃ駄目だったの?」
『ユウカよ。少しはブラザーに気を遣えよ。ユウジは独り身だぞ』
「でも、ミオナと良い感じだったじゃん」
『確かに話しは盛り上がってたけど、ブラザーはああ見えて奥手だからなぁ』
「えへへ。なら今は良いよねー」
そう言ってタルパの腕に自分の腕を絡めるユウカ
タルパは素直にそれに従った
暫く歩くと『まるいさんの家』に着いた
タルパ達は庭に回り件の祠を探した
あまり広い庭では無く、あっさり見付ける事が出来た
祠は扉が壊れていて、見るからに経年劣化による損傷が見てとれた
祠の前に2本の柱があり、切れた注連縄があった
『ユウカ、ライト』
「携帯しか無いよ」
『それで良い』
ユウカにライトを照らす位置を指示して見る
『なるほどな。注連縄の向きが逆だ』
「逆だと何かあるの?」
『注連縄は神社とかで、ここから神様の居る場所って表す物なんさ。逆に結ぶ場合もあるけど、大抵は逆向きにするのは、そこへ閉じ込める為に使う。こりゃ出て欲しく無いモノをここに封じ込めてたな』
すると、タルパは鞄からある物を取り出した。
警備員が使う誘導灯だ
『やっぱ、これが必要か』
誘導灯を手にもちスイッチを押す
『斬撃皇帝』
「凄い光った」
『そりゃ、新しい電池入れたばかりだからな』
鼻歌交じりに誘導灯を自在に回すタルパ
闇夜に赤く光る誘導灯は、まるでタルパの手と誘導灯がくっついているかの様に美しく円を描き、舞の様に見える
ユウジが見たら有名なSF映画の様と言うだろう
そばで見るユウカもその美しさに目を奪われている
タルパがユウジに秘密にしている能力
それは片手で扱う刃物との相性が良い
片手剣もそれにあたる
それらを模した物を手にすると、霊感が覚醒するのだ
それは誘導灯も例外では無い
以前、現場でキヨマロの像が暴走した際も、実はタルパには視えていたのである
だからこそ、ユウジのサポートが出来たのだ
タルパの警備員としてのスキルの高さはこれが理由だ
『別天津神、一の太刀』
タルパが振った誘導灯がまるで斬撃を放ったかの様に祠を破壊した
「あ、壊れた」
すると、タルパ達の背後から何者かが現れた
先程ユウジ達を襲い白狐の攻撃により、手負いとなった怨霊である
自らの棲家を破壊された事に激昂する
その瞬間
シャリーン
タルパが持つ銀河系モチーフのガムランボールが鳴った
タルパの持つガムランボールから現れたのは上半身は胎児
下半身はガムランボールから伸びる姿が蛭子(ひる)の様な姿
これこそタルパが怨念を集め、創り出した水蛭子(ひるこ)である
カナコから贈られたラピスラズリのブレスレットにちなみ『ラピス』と名付けてある
『ゴチソウ、オイシソウ。イタダキマス』
いきなり出てきた水蛭子に驚くタルパ
『こら、ラピス、勝手に出てくんな』
タルパの言葉を無視して怨霊を喰らい尽くす水蛭子
『ゴチソウサマ』
そう言うと水蛭子はタルパのガムランボールに戻っていった
『あぶねー。ユウジ居なくて良かった。バレたら祓われる』
何が起きたか分からないユウカは呆然としている
『ユウカ。問題解決だ。ブラザー達と合流するぞ』
その後、タルパ達は合流し、ユウジ達に祠を破壊したら怨霊は消えたと説明した
そして、家族と住んでいると言う理由からミオナは帰宅
もう1日残ると言ったタルパを残し、ユウジも帰路に着いた
5:後日、ユウジとタルパはいつもの宅飲み
『へぇ。そんな事あったんだ』
「いや、マジ焦った。まさか神の剣で一度斬られてるわ、美月が通じないわで打つ手無かったよ」
『何でそのカプセルトイに白狐なんて宿ってたんだろ』
「それな、みーちゃんが大晦日に遊びに来てたのってこの辺だったんよ」
ユウジ達が住む近所には大きな稲荷神社がある
その為か言い伝えが残っていた
その神社に狐が大晦日に爵位を求め行列を作る
正装で松明を持っていた事から、『大晦日の狐火』と呼ばれていた
かつて、田畑ばかりであったこの地域では、狐火の多さで次の年の実りを占っていた
「みーちゃんが、ガチャガチャしたのが、その狐が集まった榎木の跡地の近くでね。力が弱った白狐が綺麗な気を持つ彼女が炎の印を持つ物持ったから吸い寄せられたらしい」
『レアケースだね』
「んで、怨霊も彼女の綺麗な気を狙って来てたみたい。昼間は白狐の力が強くて祠に帰る。夜は怨霊の力が強くて追い返せなかったみたいよ」
『白狐はどうしたん』
「『サファイア』って名前を付けて眷属にした。俺さ、ガキの頃あの稲荷神社に良く行ってたんよ。初午祭もやってたし。だからなのか、白狐も俺の中は居心地良いみたい」
『2体も眷属持つって凄く無いか?』
「いや。実は美月が喋ったんだけど、彼女らにとって俺の気って効率良いみたいで、2体位なら生活に支障出ないらしい。美月が強かったのはそれが理由」
『ユウジはやっぱ持ってるなぁ』
「実感無いんだけどね。美月はガムランボールに宿ってるし、俺が一体身体に入れても負担は無いな」
『何より無事に解決出来て良かった』
「そうね。でも、流石に懲りたなぁ。素人がこういった事に首突っ込んじゃいかんな。今までが幸運だった。後はタルパが居てくれなきゃ解決出来なかった」
タルパは水蛭子を作っている事や、片手で使える刃物などを持つと霊感が覚醒する事実
それらを、ユウジに知られずにユウジから感謝された事が何より嬉しく思ったのだった
作者蘭ユウジ
存在しない記憶vol.4の後編です。
前編https://kowabana.jp/stories/35530