俺ね。昔なんですが、日雇い派遣の仕事をしてた時がありました。その時に割と俺と歳が近い職人さんが居ましてね。その方、仮にシミズさんとしておきましょうか。
彼が、とある工事現場で体験したお話です。
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シミズさんがその会社に入社して、大分経った時。大手ゼネコンの現場に入ってたんですよ。固定で入って、主に後輩を指導する立場でした。
夜勤なので、ベテランの職人さんは入りたがらない。
主に若い子を指導しながらも仕事、特に管理業務を覚えていた時期でした。
ただね。
その現場、変な噂があるんですよ。
地下4階には、女性の幽霊が出るって噂でして、職人さんか女の声が聞こえたとか、白い服を着た女の姿を見たとかね。
シミズさんはと言うと、そんな事全く信じて無かったんですね。ある日大分仕事を覚えた若い子、仮にタカハシ君としましょうか。彼とその地下4階で作業してた時の事。少し離れた所で作業してたタカハシ君が言いました。
タカハシ「シミズさん。何か言いました?」
シミズ「いや、何も言って無いよ」
タカハシ「なんか呼ばれた様な…」
シミズ「なんだ。お前まで、女の声がするとか言う気か?何度も言ってるだろ?パイプとかに、風が入ったり、誰かの悪戯だろ。昔地下の現場で似たような事あったぞ」
タカハシ「分ってますよ。でも、その現場ってお祓いしたらぱったり止んだんですよね。怖く無いっすか?」
シミズ「あのなー、タカハシ。例えば、その声がお前の悪戯だとして、お祓いするなんて大事になったらどうなるよ」
タカハシ「わかんないっす」
シミズ「まず、お前の仕業がバレなかったのが、問題な。お祓いだってタダじゃ無いんだ。お前の悪戯だとバレたらどうなる?下手すりゃ、お祓いの代金払わされるぞ。そんな状況で悪戯続けるか?」
タカハシ「無理っすね」
シミズ「だろ?だから、誰かの悪戯だって」
そんな理由から、シミズさんは信じなかったんですね。
作業を続けていると、
トントン。
タカハシ君が誰かに肩を叩かれました。
振り返ってみても誰もいない。
気のせいかな?って思って作業を続けていると、
トントン。
また、肩を叩かれました。
もちろん、振り返ってみても誰もいないんですよ。
おかしいなぁ。って思っても作業進めないと帰れないわけですからね。
タカハシ君、肩を叩かれても作業を進める決意をしました。
時間が来ましてね。本日の作業終了ってなったら、タカハシ君も安心しました。
シミズさんに食事して帰る様に誘う位にね。
24時間営業の牛丼屋さんでご飯食べて、また今夜って分かれました。
でもね。その日の夕方。タカハシ君から連絡があって、急に高熱出ちゃったんですよ。
これでは仕事が出来ないから休ませて欲しいと。
でもね。職人のヨシダさんが、別の現場に行く予定だったのですが、その現場が中止になったんですね。
シミズさんの現場。実は後日ヨシダさんが行く予定あったんです。
その日はタカハシ君を休ませて、ヨシダさんと、若いヤマシタ君をシミズさんの現場に送って地下2階の作業を予定繰上げで行い事になりました。
シミズさんは例の地下4階で1人作業してたんですよ。
現場監督からはね。幽霊が出るって言われてるもんで、1人作業は避けて欲しいって言われたのですよ。
でも、シミズさんは聞かなかったんですね。
広いフロアにたった1人の作業。
壁に図面通り、計測して金具を入れる作業をしているのです。
カーン、カーンって金具を叩く金槌の音が響いている。
誰も居ないもんですからね。
響く音も不気味に聞こえるんですよ。
カーン、カーン。
作業しているシミズさん。
トン、トンって肩を叩かれたんですよ。
振り向いても誰も居ないんです。
しばらくすると、また肩を叩かれる。
振り向いても誰も居ない。
そんな事が何回か続いたのですが、シミズさん。次第にイライラして来たんですよ。
どんなに肩を叩かれても無視する事にしました。
それでも、何者かは、シミズさんの肩を叩きます。
何度か続く内に遂にシミズさんの堪忍袋の尾が切れた。
「いい加減にしろや、何なんだよ!」
シミズさんが振り向くと、そこに居たんですよ。
血塗れでケタケタ笑ってる女の姿が。
流石に、シミズさんも悲鳴をあげてそのまま気絶してしまいました。
3時のお茶時間に、シミズさんが詰所に来ない事を心配した同僚が気絶したシミズさんを発見したのです。
事の次第を聞いた現場監督がお祓いをしましてね。
それ以後幽霊は現れなくなりました。
シミズさんが言ってましたね。
「いやぁ、俺は、幽霊なんて信じて無かったけど、それから信じる様になったんだよ」
昔、工事現場で聞いたのは、こんな話しでした。
作者蘭ユウジ
その昔、工事現場で働く職人さんに聞いたお話です。