俺の古くから友人でね、仮にアイ君としておきましょうか。
彼は、T県に住んでいましてね。代行の仕事をしていた時に聞いた話です。
知らない人もいるでしょうから、説明しましょうか。代行ってのはね、代行運転の仕事なんですよ。
車で移動がメインな都市で、お酒を飲んで車の運転が出来なくなった人の為に、その人の代わりに代行運転する仕事なんですよ。そんな仕事をしていたアイ君が、常連客に聞いた話しです。その常連客。仮にイトウさんとしておきます。
そのイトウさんの体験談です。
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ある日、イトウさんは付き合いがある、タナカさん、エミさん、トモコさん(全て仮名)の男女4名で飲んで居ました。
その4人ってね。恋仲とかでは無いんですけど、心置けない付き合いありまして、こうしてたまに集まってるんです。
お酒も入り、オカルト好きなトモコさんが言い出しました。
トモコ「あの慰霊碑ある公園あるじゃん?あそこお化けでるらしいよ」
タナカ「そーなん?そら知らんかった」
トモコ「今から行ってみない?」
エミ「えー。本当に出たら怖いやん」
イトウ「平気、平気。俺、霊と話し出来るんぜ。
大抵の霊は説得すりゃ、成仏すっから、任せろや」
そう。イトウさんはお寺の息子なんですよ。今まで話す機会が無く、皆さん知らなかったんですね。
お酒の効果もあり、気持ちも大きくなったんで、お店を出て、そこへ行く事になりました。
この4人で集まる場合、車を運転するのは、エミさんの役目なんです。エミさん全くお酒飲めないんです。
エミさん。運転は好きだし、何より、この面子で集まるのは、気楽って事で、運転を快く受け入れてるんですね。
エミさんの運転で、程なくして、その場所に着きました。
時間は深夜1時。肝試しには良い時間ですよね。
はぐれるとかえって危ないって事でね。4人で歩く事にしました。
これといって何も無く歩いていたんですよ。
何も無いね。ただのガセネタだったんじゃないの。なんて話しながら、ある場所を過ぎた辺りで変わった。
その場所ね。防空壕跡って噂あるんですよ。
ぺたっ。
エミ「何か聞こえない?」
イトウ「いや、タナカ、トモコちゃんは?」
タナカ「俺も聞こえない」
トモコ「私も聞こえない」
ぺたっ、ぺたっ。
トモコ「あれ。今聞こえた様な…」
後ろから聞こえた様な気がしたので振り返っても何も無い。気のせいかな。と思ってまた歩き出す。
ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
今度は全員に聞こえた。
振り返ると居るんですよ。暗闇でぼぉっと光る様な膝から下しか無い足が。
イトウさん。早速声を掛けますが、返事が無いんです。
当然ですよね。膝から上が無いのですから。
イトウさん、皆さんに逃げる様に言います。
不幸中の幸いか、その足。歩みを進めるのが遅かった。
4人で必死に逃げます。
随分と走ってね。もうすぐ公園の出口が見えて来る。
でもね。
1人居ない事に気付くんですよ。
エミさんが付いて来て無い。
慌てて来た道戻るとエミさんが尻餅付いた状態でガタガタ震えてる。
腰が抜けちゃったんですね。
立てない。
ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
足はゆっくり近づいて来る。
ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
エミさんがその足に捕まりそう。
皆も怖くて中々動けないんですが、意を決したタナカさんがね。エミちゃんゴメン。って言ってエミさんを抱えて走り出した。
何とか公園を出て、駐車場の所まで逃げて来れたんですよ。
でも、まだ、追って来るかも知れない。
その場から早く立ち去りたい。
でも、唯一運転出来るエミさんが、もうショック状態で、とても運転なんか出来ない。
そこでイトウさんある事を思い出した。いつも代行を頼んでる人なら馴染みだし、助けてくれるかも知れない。
代行ってのはね。普通は、繁華街の所で待機してて、お店に迎えに来て貰って車とお客を自宅まで送るんですよ。だから、今回は異例中の異例。
藁にもすがる気持ちで、代行に電話をしました。
それがアイ君なんですね。
丁度、アイ君は、お客を自宅に送って近くに居たんですよ。10分程度で現場に到着して、皆さんを送って、最後にイトウさんの自宅に送っている最中にこの話聞いたんです。
後日、そのイトウさん。昼間にその場所へ行き、花束を持って手を合わせてお経あげながら、寝床荒らしてごめんなさい。どうか安らかにお眠り下さいって心の中で必死に祈ったそうです。
それが効いたのか、彼等にその後、何の影響も無く暮らしてるそうです。
いくら説得出来ると言っても出来ない霊もいるんですね。
防空壕跡とかに近づくと、そんな霊と遭遇するかもしれませんよ?
俺が聞いたのはそんな話しでしたね。
作者蘭ユウジ
今回は、俺の古くからの友人、T県在住のアイ君が話してくれた話です。