1:秋も深まるある日の事
いつも通りの日常、蘭(あららぎ)ユウジは業務をこなしていた
平日の深夜だというのに客数が多い、その為作業に遅れが出ていた
少し苛つきながらも作業を進めた
落ち着いた朝方、来店を告げるチャイムが鳴った
一瞬苛ついたが、その苛つきを忘れさせる人物が来店した
来店したのはユウジの顔見知り別天津神(ことあまつかみ)タルパだった
『ブラザぁ、おはよぉ』
「おはようブラザー。この時間に珍しいね、どしたん?」
『少し前に起きちゃった。実はブラザーに頼みがあるんよー』
「んー・・・俺に頼みって事はまたキヨマロ君が呪物でも買ったん?」
『いや、流石にキヨマロも懲りたみたい。俺の女の友達が怪奇現象に悩まされているとかなんとか、とりあえず飲みながら話すよ、仕事上がったら連絡して』
「うん、分かった」
タルパは買い物をして帰った
仕事を終わらせたタルパに連絡して、タルパの部屋を訪れたユウジ
早速何時も通りに飲み始め、雑談をしつつ本題に入る
タルパと付き合っている栃木県在住、25歳の櫛名(くしな)ユウカ
FXで生計を立てていて稼ぎが良い
ユウカの友人である有村(ありむら)ミオナは23歳
彼女が怪現象に悩まされているらしい
ユウカからタルパに何とかならないかと相談があった
ユウカはタルパがそれらの心霊現象の知識が豊富な事を知っていた為である
話を聞いたユウジは気が進まなかった
まず、ギリギリの生活をしているユウジには栃木県まで行く交通費は痛手だ
その上、ユウジは特に修行を積んだ霊媒師では無い
天賦の才があるとは言われているいるが素人よりもマシな程度なのだ
素直にそれをタルパに告げた
『ユウカはかなり稼いでるから交通費と向こうでの食費位は出させるよ』
「それは有難い。でもさ、そこまで出して貰うんならプロに頼んだ方が良くない?」
『それがさぁ、栃木県で本物の噂聞かないんよ、居るんだろうけどさ、自称霊媒師に頼む位ならブラザーに視てもらった方がマシ』
「うーん・・・俺で何とかなるかなぁ?」
『まさかブラザー。ユウカに金出させる事に抵抗あるなんて今更言わないよな?』
「あ、バレた?」
『ブラザーはお人好しだなぁ。金はある奴に出させようぜ』
「それは分かるんだけどねぇ…」
タルパは何とかユウジにやる気を出させるか
それを考えた
すると、ある事を思い出し、口にした
『あーそーいやなんだっけ?ブラザーが好きなアイドルグループ』
「それがどうかした?」
『確か、ユウカの友達ってそのグループのファンだよ』
「マジか?」
『んで、昔オーディション受けたらしいよ。書類審査パスししたけど2次審査で落ちたらしい』
「ブラザー栃木行き手配してくれ。書類審査パスしたならその娘確実に可愛い。可愛い女の子が困ってるなら力を貸すよ」
やはり、ユウジは美人に弱い
タルパはそれを実感した瞬間だった
2:後日、ユウジとタルパの休日を合わせて、栃木県へ来た
ユウジは米軍の空挺ジャケット、タルパは白いレオパードコートを着込んでいた
見方を変えれば、刑事ドラマシリーズの初期コンビに見えそうだ
事前にタルパは、ユウカの写真をユウジに見せていた
タルパは見た目がギャルっぽい女性と付き合う傾向がある
ユウカも見た目はギャルっぽい
写真をみたユウジの感想
「美人だけど目が怖い」
だった
タルパは、精神を病んでいるいわゆるメンヘラが好みだ
ユウジは元より目を見ると相手の事を感じ取れる時がある
ユウジから見て目が怖いと感じた場合、精神を病んでいる事が多い
それを聞いたタルパは、笑いながら
『だろうね』
と言った
待ち合わせ駅で待つユウジとタルパに二人組の女性がタルパに声を掛けて来た
ユウカとミオナである
2人はお揃いのナポレオンコートをきこんでいる
お互いに自己紹介を終え、ユウジはミオナを見る
茶色に染めた長めの髪に澄んだ瞳をしている
一目で美人といえる
ユウジの感想
書類審査通過は伊達じゃない
であった
ユウジがそれを告げると
「でも、2次審査で落ちたから…」
と、少し照れた表情を見せた後、悲しそうに言った
その表情の豊かさにユウジは好感を覚えた
その事により、思った事を口にした
「あのプロデューサーはグループごとのコンセプトを重要視してるように感じる。それが理由かもよ。現にあるグループのオーディションでは、どんなに可愛くてもコスプレ写真を送って来た娘は落選だったらしい」
タルパとユウカはユウジがみせた、ドルヲタ知識に少し引いた。しかし、ミオナは食い付いて来た
4人は安くて美味しい居酒屋に場所を移して話し始めた
アルコールも入ったせいかだろうか
ユウジとミオナはすっかり意気投合した
敬語が消え、ユー君、ミーちゃんと呼び合える間柄となった
女性にやや奥手のユウジをタルパは多少心配はしていたが、ここで安心した
「そういや、ユー君。私最近ライブ配信始めたんだよー」
ミオナが告げた動画アプリはそれこそ、『あるふれっど』というユーザー名で使っているアプリであった。
その事をミオナに伝えて言った
「みんなのアイドル、みーたんだよ!とか言い出した瞬間画面閉じるからな」
ミオナとユウカが分からず困惑していると、タルパの口が開いた
『みーたんはな、みんなのアイドルなんだよ。か?』
「そそっ、心火(しんか)を燃やしてぶっ潰すってやつね」
『ドルヲタライダーだねぇ』
「推しに看取られるなんて幸せ者だなぁ」
『ブラザー。それ、死亡フラグな』
女性陣が唖然となったので、閑話休題
ミオナに起きている怪現象について話を聞く事にした
ミオナはリモートワークが可能な職種である
昼間のリモートワークでは、特に問題は起きない
しかし、夜。配信やら、友人との通話になる際、雑音が入る
通信が途切れ、相手から見ると画面が暗くなり、元に戻るなど、不具合が起きる
何か姿が写る事は無い
不審な物音が鳴ったり、妙な気配を感じる事などは日常茶飯事
それは、当時交際してた男性にも怪現象がおき、別れた
「話聞く限りでは、ガチっぽいね。電化製品の異常にラップ音、夜の電波障害。お約束過ぎる」
『いや、それは持つ者の悪癖だよ。朝はともかく、昼間は仕事で使う利用者も多いから、サーバーも強くしてるんでない?
夜はサーバー良いところに多くの利用者が集まれば回線重くなるよ。俺もだけど、夜勤者は逆だからね。持つ者は、自分感じる事出来るから霊現象に結びつける。そこは物理的な問題の可能性あるよ』
それを聞いたユウジは同意した
そしてタルパは、気配やら、ラップ音は判断しかねるが、電化製品の異常や、交際相手への怪現象は霊現象の可能性があると指摘した
そこでタルパがある事に気付いた
そう、その現象が一体何時から起こるようになったのか
そこに原因があるはず
そこでタルパが尋ねたのが、その現象が起きた辺りで何かしなかったか
ミオナは暫く考え口を開いた
「あっ、『まるいさんの家』行ってからかも』
まるいさんの家とは、ミオナ達の地元で有名な心霊スポットだ
季節外れの肝試し
ユウジ達はそれがどの様な結果をもたらしたか
この時は知る由も無かった
作者蘭ユウジ
あるアイドルグループの2期生オーディションを受け、書類審査をパス。でも、2次審査で不合格だった美女を見て、作者の脳内に溢れ出した存在しない記憶、第4弾です。今回から、チャット風な書き方に変えてみました。