これは私が独り暮らしをはじめたばかりの頃の話。
新築のアパートに引っ越して
半年くらい過ぎた頃。
その夜、突然、金縛りに遭いました。
手足や指先どころか、呼吸すらしていない
という事実に、
目覚めて程なく気が付いたのです。
金縛りというのは初めての体験だったので
戸惑っていたのですが、
その視界の隅っこに
人影があるのに気づきました。
それは首を吊られて宙吊りにされている
スーツ姿の男でした。
彼は後ろ姿でしばらくそのままゆらゆらしていて、
そしてやがて消えました。
彼が消えると
呼吸が戻り、指先や手足の感覚も戻り、
躰を起こすこともできるようになったのです。
彼についての心当たりはありません。
その後5年間住んで実家に戻りましたが、
その部屋の借り手は今もいないとのことです
作者塵