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私が中学生のころ、
世間はオカルトブームだったようで、
その影響を受けた友人が多くいました。
その子たちはどこからか
怖い話を仕入れてきては、
休み時間などに怪談話に興じていました。
とりわけ「学園七不思議」は
興味のネタになりやすいようでした。
そのうちのひとつに
「美術室の鬼の手」
というのがありました。
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美術室の壁の一角に手形があるのです。
ただしこれは人間のものとしてはやや大きく、
しかも形も少し歪に見えるのです。
しかも人間の伸長としてもやや高い。
推定2m50cmの人間がそこにつけた手形である、という。
しかもそれはシミのように見えるもので、
たとえば「工事の際に壁に手を突いて出来た凹凸」
のような類のものではなく見えます。
そしてなにより
「自然にできたシミ」とは思われない、
奇妙な存在感があるのでした。
そう、不気味に青黒いのです。
これに興味を持ち、
先輩や教師など
事情を知っていそうな人たちに
話を聞いて回ったのが、
仲間内でも特にそういう話が好きで、
霊感が強いと自称しているAでした。
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結論から言うと、
Aからこの詳細を訊くことはありませんでした。
精神を病んで、特別学級に移ったのです。
首に包帯をグルグル巻きにして。
Aが精神を病んだ理由も憶測が飛び交いました。
ただ、そのことには触れずに寄り添って過ごした私には、
卒業式の日に「見せて」くれました。
包帯をほどいたその細首に
「刻印」でもされたかのような
あの忌まわしい手形があるのを。
作者塵