長編10
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火葬技師Mの悪夢

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すんませ~ん、すんませ~ん

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彼方から間の抜けたようなじい様の声が聞こえる。

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咄嗟に半身を起こし壁の時計に視線を移した。

午後1時過ぎ、、、

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─もうこんな時間か。

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俺は頭を掻きながら軋むパイプベッドから降り、上下ジャージ姿のまま四畳半の仮眠室の扉を開け、ふらふらと炉前ホールを歩き正面玄関まで歩いていく。

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昨日は朝からパチンコで大負けし昼からここに来たんだが、機械の調整や炉の掃除をしているとあっという間に夜になってしまい、面倒くさいから酒を飲みながら仮眠室で一夜を明かしたというわけだ。

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玄関前には木製の大八車が停められており、その上には、

棺が荒縄で縛り付けられている。

車の傍らには近くに住む岡田のじい様が落ち込んだ様子で立っており、その隣には報徳寺の住職が神妙な顔で並んでいる。

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俺がこの九州の片田舎にある小さな斉場に赴任して、ようやく3年が経とうとしていた。

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恐らく半世紀以上前に建てられたであろうこの古い斉場には炉が一つしかなく、ご遺体の受け入れ、火葬、骨上げ、その全てをこの俺が一人で切り盛りしている。

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そう言うと何かすごく仕事をしているように聞こえるかもしれないが、近辺の集落は過疎化が進んでいて実際にご遺体が運ばれてくるのは、だいたい2週間に1回くらいのペースだ。

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だから普段は火葬場内の掃除とか機械の調整などをやっており、その他は自由な時間なわけで今年還暦でバツイチ独身の俺は自宅のアパートでぼーっとしたりパチンコで時間を潰したりしているというわけだ。

ただ2年ほど前くらいからパチンコ屋に行く頻度が増え、安月給の俺はとうとう消費者金融から借り入れまでするようになっていて情けないことに今はその返済に苦しめられている。

東京に嫁いだ一人娘が今の俺のこんな姿を見たら、果たしてどう思うだろうか?

恐らくはさぞかし軽蔑するだろうな。

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岡田のじい様のとこはここから一番近い集落で百姓をしている。子供はいない。

棺に収まっているのは多分病で長らく床に臥していた奥さんのキヨさんだろう。

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「キヨがとうとう逝ってしもうたけんが、報徳寺さんと一緒にここに連れてきたんじゃわ、、、すんませんがの、よろしくたのんますわ」

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そう言うと作業着姿のじい様は深々と頭を下げた。

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型通りの手続きを済ませ、俺はじい様と一緒に棺を担架に乗せると、火葬炉の金属扉の前まで移動する。

豪華な袈裟を纏った住職が厳かにお経を唱え始めた。

じい様も隣で慣れないお経を唱える。

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俺は火葬炉の扉を開くと、

「じゃあ、じい様、いよいよお別れじゃ」と言って、

棺を乗せた担架をゆっくり押しながら炉内に収めていく。

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「おお、おお、キヨ、お前には本当にいろいろ迷惑かけたけどな、あっちではどうか、どうか、ゆっくり休んでくんしゃい」

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じい様はそう言うとまた慣れぬお経を懸命にあげだした。

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ご遺体は個人差もあるが、おおよそ一時間ほどできれいにお骨になってしまう。

その間俺は炉の裏で小窓から中の様子を見ながら、バナーの調整をしたりする。

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火葬が終了すると遺族に声掛けし、別室で「お骨あげ」の儀式を執り行う。

これが終わると遺族は骨壺を持って菩提寺に行くことになるわけだ。

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全てを終えた岡田のじい様は住職を伴い、骨壺を持って報徳寺に向かった。

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梅雨時の天候は女心のように移り変わりが激しい。

その日も午前中は晴天だったのだが午後から急に雲行きが怪しくなり、じい様が帰った後くらいからボツボツと雨が降りだした。

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炉内とホールの掃除、機械の調整を粗方終えた俺は、仮眠室内にある事務机の前に座り、缶ビールを飲みながらまったりと時間を潰していた。

ふと壁の時計を見ると時刻はもう午後7時。

この斉場は山肌を削り建てられているから普段はベッド脇の窓から木立がみえるのだが、今は闇のベールに包まれようとしている。

そろそろ帰るかな、、、

と立ち上がろうとした時だった。

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shake

ぱ~~~~ん、、、

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突然車のクラクションの音がする。

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─こんな時間に誰だろう?

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仮眠室を出て炉前ホールに立ち正面玄関から外に視線を移すと、雨の中黒のライトバンが一台停車しているのが見える。

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─おいおい、こんな時間から仕事なんて勘弁してくれよ

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舌打ちしながら見ていると車から黒いスーツ姿の男が一人降り立ち、ホール内に入ってきた。

男は長身の細身で、世界的ハッカー組織アノニマスの連中がしているような不気味なマスク(ガイ・フォークス・マスク)を被っている。

男の奇妙な風体に思わず俺が身構えていると、

「ここは火葬場で間違いないかな?」と当たり前のことを質問してきた。

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俺は頷くと、

「そうだけど、もう今日の業務は終了したんだ。

悪いけど、また明日来てくれるかな」と答えた。

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すると男は「だが、ここは人を焼く装備は整っているんだろう?」とまた当たり前のことを質問してくるので、

「それはそうなんだけど、今日はもう終わりなんだよ。

悪いが帰ってくれないかな?」

と今度は少々きつめに言った。

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男は何かを思案しているように、しばらく無言を通していたがやがて再びしゃべりだした。

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「あんたにはあんたの事情があるように、私にも私の事情があるのだ。

あんたの事情と私の事情を天秤にかけると間違いなく私の事情の方が重要なんだ」

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男の偉そうな口の聞き方にさっきからイラついていた俺は、

「とにかくダメなものはダメなんだ。

どういう事情があるか知らないが早く帰ってくれ!」

と言った。

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すると男は数歩前に進み俺の目前で止まると、スーツの内ポケットに右手を突っ込む。

驚いた俺は反射的に後ろに下がった。

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男は「安心しろ。あんたに危害を加えるつもりはない」

と言って左手を上にあげると、右手でポケットから紙の束らしきものを出し俺に手渡した。

それを見た瞬間俺はたじろいだ。

それは帯付きの一万円札の束。

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「あんたはこれから、いつも通りの段取りで仕事をする。そしたら自動的にあんたの懐にはその100万円が入ってくる。どうだ悪くない話だろう?」

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100万円、、、これだけあれば俺の借金はほとんど帳消しになる。

俺はしばらく手に持った札束とにらめっこしていたが、情けないことだが最終的には男の要請を飲むことにした。

ふと見るといつの間にか男の背後には、二人の男たちが棺を抱えて立っている。

その男たちもガイ・フォークス・マスクを被り黒いスーツ姿だ。

腹を決めた俺は男に言った。

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「分かった。

じゃあ、まず火葬許可書を頼む」

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「フフフ、正に地獄の沙汰も、、、という奴だな。

許可書?そんなものはあるはずがない」

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俺の手続き的な要請を男は軽くいなす。

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「冗談じゃない!行政の許可書なしで火葬したら捕まっちまう。

早く許可書を出してくれ、」

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声を荒げて訴える俺に男はこう言った。

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「これからあんたが棺とその中のものを後片もなく焼き付くてしまうと、それらは全て最初から此の世に存在してなかったということになる。

私たちさえ他に口外しなければな、、、」

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─そうか、こいつらがこんな片田舎の火葬場まで足を運んだのも、違法な火葬をしたいからだったのか。

それなら100万円という高額な報酬も納得出来る。

それではということで俺は男に言った。

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「そうか、だったら棺の中だけでも確認させて欲しい」

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「ダメだ。とにかくあんたは四の五の言わず私の用意した棺を火葬してくれたら、それで良いんだ。

良いな?」

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男は既に命令口調だった。

結局俺は金の誘惑に負け、男の言う通り棺の中身さえも確認せずに火葬の段取りを始めることにした。

担架に棺を乗せる時には、ずっしりとした重みがあったから恐らくはご遺体が収められているのだろう。

無理やりそう思って俺は自分を信じさせた。

それから担架を押しゆっくり炉前に移動していく。

そして金属の扉を開きいよいよ中に入れようとした、正にその時だった。

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「うう、、、」

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ドキリとして息を飲んだ。

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棺の中から微かに人の呻き声が聞こえる!

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俺は担架を押す手を止めると振り返り、背後に立つ男を睨む。

男は少し首を傾げるようにしながら、

「どうした?早く進めろ」とせかす。

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俺は再び前を向きどうしたものかと暗いトンネルのような炉内を睨む。

するとまた、

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「ううう!、、、うう!、、、うう!」

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今度ははっきりと何かを懸命に訴えるような男の声がし、モゾモゾ動く音まで聞こえる。

この時点ではっきりと分かった。

この棺の中に入っているのは遺体なんかではない!

生きている人間なんだ。

猿轡をされ手足を縛られている男の姿が、脳内にパッと浮かんだ。

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「おい早くしないか!」

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また背後から男の声がする。

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相変わらず棺の中からは、命乞いするかのような男の呻き声が続いている。

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俺は再び振り向くと、

「ひ、棺の中は遺体ではないのか!?」

と震える声で尋ねた。

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すると男は、

「棺の中が遺体だと誰が言った?

お前が棺の中のことまで考える必要はない。

とにかくお前のやることは、ただその棺を中のモノもろとも焼き尽くしてくれたら良いんだ。」と全く動じることなく言う。

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─このままこの棺を炉内に入れ込み、火葬したとしたら、俺のやったことは立派な殺人になるだろう。

そんなことを想像していると心臓の激しい鼓動が始まり、額からは生暖かい汗が流れ頬をつたっていくのが分かる。

そしてとうとう息苦しさに耐えきれなくなった俺は「やっぱりダメだ!」と言って堪らずその場にしゃがみこんで泣き出してしまった。

しばらくするとまた背後から悪魔の囁きが聞こえてきた。

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「今あんたが抱いている地獄のような葛藤。

確かに分からんでもない。

誰でも生きている生身の人間を炎で焼くなどという鬼畜の業はそう簡単には出来ないだろう。

ただそれはこの棺に入っているのが善良な市民だとしたらの話だ。

ところであんたには子供さんはいるのか?」

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男の質問に俺はこっくりと頷く。

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「それではある日突然なんの落ち度もないあんたの子供が無惨に殺されたとして、この棺に入っているのがその犯人だとしたらどうかな?

多分あんたは躊躇なく犯人を棺もろとも焼き殺すのではないか?

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男の言葉に俺は静かに頷いた。

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「そうだろう、そうだろう。それが子を持つ親の気持ちだろう。

では本当は秘密にしておきたかったのだが、あんたには特別に教えてやろう。

実は今この棺に入っている男はある著名な国会議員のどら息子なんだ。こいつは東京にある有名私立大学に通っていて毎日遊び呆けて何不自由のない生活を送っていた。

半年ほど前のこと。こいつは夜泥酔した状態でとある県道を車で走っていた時、2歳の娘の乗った乳母車を押しながら歩道を散歩していた30代の女性を乳母車もろとも跳ね飛ばしそのまま逃走した。

母子は即死。

こいつは後日警察に捕まるのだが、何故か検察は不起訴処分にした。つまり何ら罰せられることはなかった。

理由は飲酒運転などしてなかったし母子は当時歩道ではなく道路の危険なところを歩いていて、跳ねてしまったのも致し方ないということだった」

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「ひどい、、、どうして、そんなことが罷り通るんだ?」

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俺が呟くと男は続けた。

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「そう思うだろう。だが、これがこの国の現実だ。

『上級国民』、、、あんたもこの言葉聞いたことあるだろう。この一部の特権階級は自分たちの保身のためなら権力を乱用し法律さえもねじ曲げてしまい、黒も白としてしまう。

だから我々はこのような無法者たちに対して法律に代わり罰を与えるのだ。

分かったか。分かったならさっさと仕事を続けろ」

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男の言っていることが果たして全て本当のことかどうかは分からない。でもこの時の俺はまるで催眠をかけられた者のように立ち上がり、棺から聞こえ続ける命乞いの呻き声を無視しながら棺を炉内に収納すると扉を閉じた。

それから裏手に回ると制御盤のスイッチを入れ震える指で点火のスイッチを押す。

あっという間に棺は青い炎に包まれた。

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人間というのは本当に勝手なものだ。

さっきまではそんな大それたこと出来ないとしゃがみこんでいたのが、ひとたび正義という大義名分を与えられると簡単に地獄のスイッチさえも押してしまう。

その時何故か俺は未だに戦争というものが無くならない理由が、なんとなく分かるような気がした。

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棺から初め聞こえていた苦し気な呻き声がやがて電車の不快なブレーキ音のような悲痛な叫びに変わっていった。

叫びは少しずつ小さくなっていく。

既に棺は無慈悲な炎に焼き付くされており中にいた人らしきものが網の上で焼かれるスルメのように、今正に半身を起こそうとしていた。

俺はそいつと目が合いそうな気がして、思わず覗き窓に背を向ける。

そして目をしっかり瞑り両耳を塞ぐと、ひたすらお経を繰り返す。

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南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、、、

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ふと横を見ると、いつの間にか隣に男が立っていた。

そしてガイ・フォークス・マスクを被る顔を近づけて耳元に囁く。

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「骨だけは残してくれ」

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「約束が違うぞ!後片もなく焼き尽くすんじゃなかったのか?」

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俺の抗議に男は続ける。

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「安心しろ。全て持ち帰るから。

その理由は2つある。

1つは依頼者への手土産に。

もう1つはあの忌々しい議員へに送りつけるためだ。

なにせ突然息子が消えたものだから、今頃あいつ慌てふためいているだろうからな

フフフ、、、奴の怒り狂う顔が目に浮かぶ」

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火葬完了後男は言っていた通り、残った骨を全てかき集めてケースに収め、あとの2人を引き連れて建物を出ると、黒い車で暗闇の中に消えていった。

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雨はいつの間にか止んでいた。

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俺は玄関前のエントランスに立つとポケットに手を突っ込み、男のくれた札束の感触を確認する。

そしてさっきまでの悪夢のような出来事が間違いなく現実のことだったということを改めてしみじみ実感していた。

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fin

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@五右衛門 様
コメントに怖いポチありがとうございます。

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在ってもいいよな、闇の必殺仕置組織…

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