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ハラルド&フランク・アレクサンダー

中編4
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ハラルド&フランク・アレクサンダー

ハンブルグ在住のアレクサンダー一家は「ローバー・ソサエティ」の狂信的な信者だった。19世紀初頭にヤコブ・ローバーにより設立された新興宗教である。信者以外は全て悪魔の手先と説くその教義はどこぞのカルトによく似ている。百年以上の歴史にも拘らず、信者は数百人程度だった。当時の指導者ゲオルグ・リールが死んだ時、最期を看取ったハラルド・アレクサンダーはそのマントとポータブル・オルガンを受け継いだ。

 間もなく長男のフランクが生まれると、ハラルドは彼こそが「神の預言者」だと断言した。妻のダグマルもこれに従った。一家においてはフランクの言葉は絶対だった。故に彼は大いに甘やかされて育った。姉のマリナも双子の妹サビーネとペトラも献身的に傅いた。やがてフランクが精通を迎えると、母が、そして姉までもがその捌け口となった。信者以外の女、つまり悪魔の手先と交わることで彼を汚さないための措置であり、この狂信的な一家ではごく自然の成り行きだったのだ。

 近親相姦は日常となり、フランクまでもが息子と共に長女と交わる始末である。こうなるともう信仰もへったくれもありゃしない。ほとほと呆れた変態家族に成り果てる。ところが、妹たちはそれがノーマルだと思っていたから、学校でそのことをしゃべる。やがてゴシップは町中に広まり、警察も児童虐待の容疑で動き始めた。

 幾度かの取調べを経た後、一家は新天地を求めてスペイン領カナリア諸島に移住する。テネリフェ島にある自治州の州都サンタ・クルスである。

 小さなアパートで暮らす一家を隣人たちは奇異に思っていた。近所づきあいはまるでなく、大声で祈りを捧げ、オルガンを弾き、そして賛美歌を歌う。変なのが越して来ちゃったなあ。しかし、特に揉め事もなく10ケ月が過ぎた。その間、ハラルドは波止場で働き、娘たちも女中奉公することで家計を支えていた。

 1970年12月22日、ハラルドはフランク(当時16歳)と連れ立ってウォルター・トレンクラー医師の邸宅を訪ねた。そこでは娘のサビーネ(当時15歳)が女中として働いていた。彼女はキッチンで食事の準備をしているところだった。トレンクラー氏は彼女に声をかけた。

「おい、サビーネ。君のお父さんとお兄さんが会いに見えたぞ。テラスにおいでだ」

 はい、かしこまりましたと馳せ参じるサビーネに父親はこのように語った。

「サビーネ。愛しい我が子よ。たった今、お前の母親と姉妹を殺してきたことを伝えなければならない」

 これにはトレンクラー氏はギョッとした。ところが娘は至って冷静で、父親の手を取ると頬に当てて云った。

「必要なことをなさったのですわ」

 トレンクラー氏はショックのあまりにその場に立ち尽くした。すると、ハラルドが彼に向かって云った。

「ああ、聞かれていたのですね。私たちは妻と娘を殺しました。その時が来たのです」

 それまでは泥だと思っていた衣服や顔の汚れが血であることにトレンクラー氏は気づいた。乾いて茶色になっていたのだ。彼は親子にそこで待つように云うと、警察に通報した。

 警察は既に騒ぎを聞きつけた隣人からの通報を受けていた。犯行現場に急行した警官がまず見たものは、しっちゃかめっちゃかの室内だった。あらゆる物が壊され、切り裂かれて辺りに散らばっていた。天井から壁から床に至るまでが血みどろだ。居間の中央には2人の少女の遺体があった。マリナ(当時18歳)とペトラである。2人の心臓と性器は切り取られて、壁に釘で打ち付けられていた。寝室にはダグマルの遺体があった。壁にはやはり心臓と性器がおええええっ。あまりの惨状にベテランの警官でさえも吐き出す始末である。

 ハラルドとフランクの親子は素直に逮捕された。フランクが語ったところによれば、

「母が寝室に入って来た時、いつもとは違う眼で私を見たんだ。それは許されるものではなかった。だからハンガーを手にすると母の頭を殴った。意識を失うまで打ち据えた。父は居間でオルガンを弾き始めた。私はマリアとペトラも同様にハンガーで打ち据えた。その間、父はオルガンを弾き続け、イエスを讃えていたが、不浄な部分を切り取り始めると手伝ってくれた」

 父親が補足したところによれば、

「妻と娘の性器は汚れており、取り除かなければならなかった。我が家の女たちは皆この時に備えていた。この聖なる時について日頃から話し合い、女たちは預言者たるフランク・アレクサンダーのために我が身を犠牲にすることを受け入れていたんだ」

 彼らには罪の意識のかけらもなかった。一家が独自に編み出した教義によれば、女は生来的に汚れており、殺すことによって天国に解放されるのだ。だからこそ虐殺の現場で賛美歌を奏でていたのである。

 精神異常と診断されたハラルドとフランクの親子は、裁かれることなくその筋の施設に収容された。生き残りのサビーネも同じ施設に入ることを希望したが、受け入れられずに修道院に保護された。歪んだ信心の恐ろしさを痛感させられる事件である。

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