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血に誘われし【狐の嫁入り体験談②】

中編5
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血に誘われし【狐の嫁入り体験談②】

これは、私こと狐が高校生の頃に体験したお話。

私は訳あって両親と離れて、学生の頃から一人暮らしをしていた。

そんな私には、昔から嫌いな習慣が一つあった。

それは……生理。

量は多いけれど人より痛みは軽い方だが、それ以前に嫌な事がもう一つある。それを今から話したい。

その日、私は生理になってしまい、軽い貧血気味で学校を早退してしまった。

普段はこんな事ないのだが、慣れない一人暮らしの心労が重なったのか、その日は体調も思わしくなかった。

いつもなら商店街を抜けて線路沿いを歩くのだが、何とか早く帰って休みたいのもあり、その日は普段は通らない道を選んだ。

夕方だと薄暗く人気も少ないのであまり通らないが、何分こちらの方が近道だからだ。

それにこの時間ならまだ明るいし大丈夫だろうとも思った。

歩き慣れない道を二十分程進んだ時、ふと、肌に生ぬるい風を感じた。季節は冬。

気温は決して暖かくもなく、むしろ何時もより寒いくらい。

気になって辺りを見渡すと、そこはボロボロになった建て壊し間近のアパートがあった。

「ここってもしかして……」

実はそこ、前から学校でも噂になっていた幽霊アパートで、肝試しに来る人がいる程の有名な場所。

入口はトラロープや板で閉鎖されており、部屋の窓は割られた痕跡が残っているなど、何処と無く不気味でアングラな光景。

しかもさっきから誰かに見られているような気配まで……。

「何だろ、気持ち悪い……」

いても立っても居られず、私は急いでその場を走り去った。

家に着いてからはそんな事も忘れ、ナプキンを取り替え、私はベットに倒れ込んだ。

「だめえ、もう死にそおお、ていうか死ぬう……」

枕に顔を埋め、めいいっぱい呻きつつも、着替えなきゃ、何か食べて薬飲まなきゃ等考えたが、食事が喉を通るとも思えず、着の身着のまま薄まる意識に身を委ね、深い眠りにつく事に……。

どれくらい経ったのか酷く喉が乾き、私はベッドから起き上がりフラフラと冷蔵庫へ向かった。

ペットボトルの水を取り出し、それを喉に流し込む。

「生き返る……」

ふうと軽く溜息をつきながら辺りを見渡した。

外は真っ暗、一体何時間寝たんだろう、そう思った時。

──ぴちゃぴちゃ

不意に音がした、トイレの方角から。

最初は蛇口の閉め忘れ、もしくは隣人の生活音とも思ったが、どうもそれらとはまた違った様子。

正直体もフラフラしていて余り動きたくなかったが、どうしても気になりトイレに近付くと、不意に足元に何かヌルッとした感触があった。

何事かと思い急いで部屋の電気をつけると……血だ。

「わあっ!」

びっくりして思わず声を挙げた時。

──ぴちゃぴちゃ

またあの音が聞こえた。

まるで動物が水を飲む時のような音。

首を傾げつつも、とりあえず足を拭こうと適当なタオルを手に取り拭いていると再び。

──ぴちゃぴちゃ

まただ。次第に言い知れぬ不安を感じる中周囲を見渡すと。

「あっ!?」

思わず目を見開いた。

廊下に点々と広がる血。

もしやと思い下着を見ると、少し血が滲んでいるのが分かる。

「やっちゃった……」

恐らくフラフラの状況の中、適当にナプキンを替えたのがいけなかったのだろう。

量が多いせいなのかもしれない。

ガックリと肩を落とし、血の跡をタオルで拭き取ろうとその場にしゃがみ込む。

「シーツも汚れてるよね……」

そう考えると、どっと疲れを感じ思わず溜息を零した次の瞬間。

──ぴちゃぴちゃ

ドキリとし肩を竦ませた。

またあの音。しかも今度は直ぐ近くで聞こえた。

トイレのドアを開き中を確認する。

水も出ていないし何も異変はない。

洗濯機も、洗面所も、台所も。

水場関係は全て確認したが異常は見つけられなかった。

一体何の音だろう……。

気になって仕方がなかったが、取り敢えず先に床を掃除しようとまたしゃがんだ時だ。

ふと、変な違和感を覚えた。

本当に小首を傾げるくらいの違和感を……。

暫くそれをぼおっと考えていると、ようやく違和感の正体に気がついた。

血だ、血の跡だ。

さっき確認した時よりも血の跡が少なくなっている気がする。

気のせいだよね……そう思い掃除に取りかかった時。

──ぴちゃぴちゃ

慌てて振り向く。

それと同時に私の背中に寒気が走った、目の前の光景を見て。

まただ。

さっきまであった血の跡が消えていた。

意味が分からず頭が混乱しそうだった。

途端に血の気が引きフラフラと辺りを見渡す。

血の跡は私の足元、そしてキッチンとベッドのシーツ。

心臓が締め付けられるような恐怖を感じ、私は急いで拭き作業に取り掛かろうとした、だが。

──ぴちゃぴちゃ

全身に悪寒を感じ涙ぐみながら足元に視線を戻す。

血の跡が……ない。

思わず尻餅をつき愕然としてしまった。

膝は震え、タオルを手にした腕は小刻みに震えている。

だが私はその場を這いずるようにしてキッチンへ向かった。

そして焦点の合わない目で血の跡を一心不乱に拭き続けた。

全部血の跡を舐められたらどうなるの!?次は!?次は何!?

私……?

無我夢中だった。

キッチンの血の跡を拭き取りつまずきながらもベッドに駆け寄る。

すると背後から。

──ドタドタドタッ

何かの足音が迫る音がした。

振り向かなかった。

それどころかもう訳が分からず私は泣き喚いていた。

そして半狂乱になりながらベッドのシーツを捲りあげ、それをベランダの窓を開けて勢いよく外に放り投げた。

それと同時に。

──バタン

と、玄関から音が聴こえた。

「もう大丈夫……だよね?」

私はその場で蹲り、膝を抱え泣き崩れてしまった。

すると。

──ぴちゃぴちゃ

アパートの下からまたあの音が聴こえてくる。

私はすぐさまベランダを閉じ玄関に鍵を掛けた。

そして剥き出しのベッドに潜り込み、ただただ震えながら朝を待った……。

以上が、私が高校生の頃に体験した話。

アレが何だったのか何て未だに分からないし知りたいとも思わない。

あの日以来、私はナプキンではなくタンポンに替えた。

血の匂いは何かを引きつけるのだろうか……そんな気がしてならず、未だに生理が来ると、見えない何かに怯えて暮らす毎日を過ごしている……。

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