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中編4
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髪が……髪が………

ある日、風呂場の掃除をしていたときに一本の長い黒髪が落ちていることに気付いた。アパートで一人暮らし、彼女は居ない、女友達は居るが泊まりに来たことはない。ストーカーされるほど顔も良いわけではない。それではこの黒髪は外から風にまって入ってきたのかと一応そうしておくことにした。

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次の日、大学から戻りシャワーを浴びようと浴室を開けるとまた長い髪の毛が落ちている。それも何本も。今日は風呂の窓を開けていないため流石に気味が悪くっていた。素手で触りたくないためゴム手袋をして髪の毛をつまむ。ゴム手袋越しでもなんなく分かる凄くベトベトした髪だった。妙な臭いもした。

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それから次の日もそのまた次の日も風呂場に髪の毛が落ちている日が続く。最初は、気味が悪くイヤイヤ処理をしていたのだがそんなのも気にならなくなっていた。ある日、大学が休みの日に風呂の掃除をしていたとき、風呂の換気扇のフィルターを変えるときに何かがひらっと落ちてきた。何だ?と思いそれを拾い上げてみるとそれはボロボロになった長方形の紙だった。お札?かと思ったが気にせず掃除を続けると、排水溝から《ゴポ…グポ…ゴポ》って音がしたんだ。振り替えるとまた、そこに髪の毛が落ちていた。「なんだぁ、排水溝から出てきたのか?前の住人のやつかぁ」と呟きながらふと手が止まる。

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排水溝の詰まりなら水は流れにくいはず、でも水は普通に流れていってる。それに、逆流にしては頻度がおかしい。毎日逆流する訳がない。大家に相談してみるか。

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すぐさま大家に電話をして、排水溝から髪の毛が毎日のように逆流してくることを伝えると、「はいはい、分かりましたよ。業者さんに連絡しておくからね。」と言ってくれた。もし、逆流が頻繁に起こるなら別の部屋を宛がって貰おうかなと考えていた。逆流とはいえ気味が悪くてもうこの部屋には住めないと判断したからだ。そんな日の夜のことだった。

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深夜に目が覚めて水を飲みに流し台に行くと例の《ゴポ…グポ…ゴポ》っていう音が聞こえてきた。そういえば、どう逆流するのか見たことがなかった。そのため、気になって風呂の戸を開けるとそこには、黒い棒状の物体が排水溝から《ゴポ…ゴポ…ゴポ…》という音をならして出てきていた。よく見るとそれは絡まった髪の毛の束だと分かった。急いで戸を閉めベッドに潜り込んだ。さっき見たあれは何だ?幽霊か?それにしては気味が悪すぎる。例のゴポゴポはあれが出てきていたのか。というより、換気扇のフィルターの時の……。

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色々考えて布団の中で震えているとあの《ゴポグポゴポ》が止んだ。辺りに静寂が訪れる。止まったのかと思いそっと掛け布団を取る。先程の音が聞こえてこない。と、下の方から悲鳴と何かが落ちる音が聞こえてきてビクッとしてしまった。慌ててサンダルを履き自分の部屋の下の階の部屋に向かいドアを叩いた。

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「すみません、大丈夫ですか?すみません」

そう言い終わる前にドアが開き女性が倒れかかってきた。

「大丈夫ですか?救急車呼びます?」

「だ、大丈夫です。ふ、風呂場に」

俺は嫌な予感がして女性の家に上がらせてもらい風呂場の戸を開ける。そこには、何もなかった。何もなく俺のところの風呂場のように髪の毛一本も落ちてなかった。

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「大丈夫です。何もありません。何を見たんですか?」

「か、髪の毛。無数の髪の毛が……排水溝から…髪の…」

「落ち着いてください。不安なら今日はここに泊まらずにまんが喫茶に泊まってみては?」

「そ、そうね。そうします」

女性をまんが喫茶に送り帰路に着く。そういえば、俺も泊まればよかったかなと考えながら部屋に入り、音が全く聞こえなかったため何となくだが風呂場の戸を開けた。そこには、

shake

排水溝から、換気扇から、シャワーヘッドから、蛇口から、天井から無数の髪の毛が。排水溝から音はなく髪の毛が上に上に伸びていて……天井から換気扇から蛇口からシャワーヘッドから髪の毛が下に下に伸びていて、風呂場の中を埋め尽くす勢いのおびただしい量の髪…髪…髪。排水溝から上に上に伸びる髪の毛の中から此方を見る女の顔が見えた気がして……

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気が付くと浴室に倒れていました。朝、下の階の女性が引っ越していった。実家に帰ったらしい。俺も荷物を纏めている。少し高いアパートではあるが、ここに居るよりずっといい。纏め終わり忘れ物がないか色々見て回り、風呂場も一応見てみるとそこには一本の髪の毛が落ちていた。

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知り合った人はそう言って話を締めくくる。俺は、「天井から垂れる髪の話ならよく聞くけど、上に延びる髪の束は初めて聞いた。いやぁ、怖いな」と言うと「あれから、長い髪がトラウマで床屋にも行きづらくなってな」と苦笑してた。

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