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どんな人の心の中にも潜んでいる闇というもの

中編6
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どんな人の心の中にも潜んでいる闇というもの

私は今年26になる独身女性です。

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とても言い辛いんですが私は右足が少し不自由なんです。

膝がきちんと曲がらなくて、歩いたり走ったりすると、ぎこちなくなります。

たまに無神経な友人とかが、何でそんな風になったの?と聞いてきたりします。

そんな時、私はだいたい笑ってごまかすのですが、本当に仲の良い友人にはこの話をします。

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それは私が小学校3年生の時のことでした。

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私は、両親そして1つ上の兄と一緒に、郊外の古い住宅街にある二階建ての家に住んでおりました。

その住宅街は、同じような造りの家が垣根を境にして並んでました。

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それは夏休みの時のある日。

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当時ヤンチャだった私は、庭の柿木によじ登って遊んでいて誤って地面に落下してしまい、足を挫いてしまったのです。

初めは軽い打ち身かと思っていたのですが、いつまで経っても痛みが消えなくて母に連れられて病院に行って診てもらうと、なんと小指にヒビが入っていたのです。

それで私の右足にはぐるぐる包帯が巻かれて、しばらく家でじっとしとかないといけなくなりました。

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うちは両親が共働きで、朝から夕方まで家には私と兄がいるだけでした。

兄はだいたい午後から外に遊びに出てましたから、それからは広い家に私は1人でいました。

病院で治療を受けてから10日ほど経ったくらいに、足も大分良くなってきて、午前中は和室で兄と一緒に夏休みの宿題をして、午後からは庭を歩いたりしてました。その日は特に日射しが強くて、ちょっと歩くだけでジワリと汗が出てきたので、縁側に座りジュースを飲んで涼んでいると、突然どこからか女の人の声がします。

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「あらまあ○○ちゃん、もう大分歩けるようになったのね。本当に良かったわあ」

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驚いて見ると、庭の垣根の上に満面の笑みを浮かべた女の人の白い顔があります。

隣で1人暮らしをしている小阪のおばちゃんです。

ショートの茶髪にふっくらした顔。

いつも笑顔を絶やさない明るい人で、たまにお裾分けと言って鍋に入れたシチューとかを持ってうちに訪ねてきたりします。

私が足をケガしたということを知った時も、お花とお菓子を持ってきてくれました。

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人当たりの良いとても良い人だったのですが、何故か私は素直に好きになれませんでした。

別に意地悪されたとかそんなことではないのですが、いつも浮かべている笑顔が何だかお面を付けているみたいで、凄くわざとらしく感じていたのだと思います。

そのことを母に言うと、「そんなこと言わないの。

あの人はあの年齢までずっと独身でご主人も子供もいないから、いつも誰にでも優しくするようにしてるのよ」と母は言いました。

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それは足ももう治りかけた、ある日のこと。

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和室のタンスの上に置いてあった、私のお気に入りの人形がなくなってました。

仕事から帰ってきた母に聞くと、

「あれはもう汚れてぼろぼろだったから、昨晩ゴミステーションに置いてきたよ」とあっさり言い放ちます。

その人形は、要らなくなった洋服とかで母が作ってくれたお粗末なものだったのですが、何故か私は気に入っていて、小さい頃から肌身離さず持っていたのでした。

悔しくてその時母には文句を言ったのですが、もう後の祭りでした。

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その数日後ようやく右足が治った私は、朝から兄と一緒に近くの林に虫取りに出掛けました。

私の住んでいた家は、山を削って作られた住宅街の一角にあったから、少し歩くと林とかがあちこちありました。

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林の中である程度虫を捕獲し、さあ戻ろうかと林道を2人で歩いていると、突然右側の山肌から数個の石が転がってきて、その1個が運悪く私の膝に当たってしまったのです。

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あまりの痛さに私はその場にうずくまりました。

見ると膝小僧の表面がぱっくり割れ、血が出ています。

兄に連れられて何とか病院に行き、すぐに外科治療を受けたのですが、膝の皿を痛めていたみたいで全治一月と言われました。

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なんということでしょう。

やっと右足の小指が完治したかと思ったら、今度は右膝のケガでまた安静となってしまったのです。

私は自分の運の無さに愕然としました。

これは下手をすると、夏休み中、ケガの養生のために家にいないといけなくなりそうです。

さすがにこれには、父も母も呆れ返っていました。

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そして、ケガをしてから2日後の夕刻のこと。

小阪のおばちゃんが心配をして訪ねてきました。

玄関口で母が応対していたのですが、10分ほどいろいろしゃべって帰っていきました。

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後から母が2階の私の部屋に、おばちゃんがお見舞いに持ってきたという、お花とケーキを持ってきてくれました。

ベッドの端に座ってショートケーキを食べていると、横に座った母が、

「これもね、小阪のおばちゃんがあなたにって持ってきたものよ」と言って、小さな御守りを私の横にそっと置きました。

この時ばかりは、私もおばちゃんの優しさに泣きそうになったことを憶えてます。

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それから数日後のこと。

私は朝からずっと、トイレ以外はベッドに横になっていました。

食べ物は、ベッド脇にある丸テーブルの上に、母が調理パンやジュースを置いてくれてました。

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午前中はスマホを触ったり、パンを食べたりして過ごしていたのですが、昼過ぎくらいになるとうとうとしだして、それからしばらく眠っていたようで、近くの公民館から流れてくる3時を報せるBGMで目が覚まされました。

そしてそのままじっと天井を眺めていた時です。

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ゴン!、、、ゴン!、、ゴン!、、、

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どこからか何か石をぶつけるような音が聞こえてきます。

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ゴン!、、、ゴン!、、、ゴン!、、、

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それと一緒に、なにやらブツブツ人の声も聞こえてきます。

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─何だろう?

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私は音のする先を突き止めるように耳を澄ましました。

それはどうやら窓の外から聞こえてきます。

半身を起こし、カーテンの隙間から外を覗いてみました。

2階にある私の部屋の窓からは、家の庭と垣根を隔てた隣の庭まで見渡せます。

さらに目を凝らすと、隣の庭の片隅で人がしゃがんで何かしているのが見えました。

あれはどうやら、小阪のおばちゃんのようです。

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─あんなところで何をしてるんだろう?

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好奇心に駆られた私はベッドを降り、杖を付きながら部屋を出ると、慎重に階段を降りてから奥の和室に向かいました。

そしてカーテンを開け縁側に出ると、サンダルを履いてから垣根の方まで歩きます。

石をぶつけるような音は、すぐ近くから聞こえてきてます。

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shake

ゴン!、、、ゴン!、、、ゴン!、、、

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私は垣根の隙間からそっと覗きました。

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それはちょうど隣の庭の片隅辺り。

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小阪のおばちゃんが何故か白装束姿でしゃがみ、大きな石を右手に持って、左手に持った何かを叩いてます。

その間ずっと呪文のように同じ言葉を繰り返しながら。

そしてその言葉が何か分かった瞬間、私の背筋を一気に冷たいものが走りました。

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「死ね!、、死ね!、、死ね!、、死ね!」

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怖かったのですが、私は更に目を凝らします。

そして彼女が左手に持っているものが分かった途端、再び背筋が凍りつきました。

それは、

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私が大事にしていた人形。

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おばちゃんは左手で私の人形の右足を石の台に乗せ、そこ目掛けて、右手に持った石をひたすらぶつけているのです。

何かにとり憑かれたような顔で「死ね!死ね!」と繰り返しながら、、、

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「ひっ!」

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私は小さく悲鳴をあげると、思わず尻餅をついてしまいました。

そしてしばらくは恐怖で身体が固まり、その場を動くことが出来ませんでした。

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それ以来私は、小阪のおばちゃんに会っても、その顔をまともに見ることが出来なくなりました。

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その後一月ほどで一応私の右足は治りはしたのですが、膝には後遺症が残り、今のこの年齢まで完全に治ることはありません。

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