これは神奈川県在住の日暮(ひぐらし)さんのお友達の妹の彼氏の親戚から聞いたお話だったような気がします。
彼の名前をそうですね。仮に荒辰(あらたつ)君といたしましょうか。
その日、荒龍少年はいつものように友人の八兵衛(はちべい)君と新之助(しんのすけ)君を連れて近所の河原で石投げをして遊んでいたそうです。
「おいみんな!!あれを見るナリよ!!」
荒辰君の指差した方向を見ると、川下の方からゆるりゆるりと水面を何か、黒い物がせり上がってくるのが見えたそうです。
が、よく見るとそれは仰向けになった人間と思しき水死体のようだったと言います。
「お、お主何者!?成敗してくれる!」
水の流れを無視して近づいてくるそれに恐怖を感じた新之助君は、あろう事かそれに向かっていくつも石を投げつけたそうです。子供というのは後先を考えないものです。
ぼちょん ぼちょん
ぼちょん ぼちょん
しかし石は中々的に当たりません。
「新ちゃん何やってんだ?!僕に任したまえ!」
業を煮やした八兵衛少年がひときわ大きく平べったい石を手に取ると、水切りの要領でそれに向かって投げつけました。
しゃ、しゃ、しゃ、しゃ、しゃ、ごん!!
「ぐええええー!!」
その声を聞いた三人は、一目散にその場から逃げ出したそうです。
八兵衛「今あの人ぐええってー!って言いましたよね?」
荒辰「言った言った!生きてたナリね!紛らわしいナリ!」
新之助「アイツに顔見られたかな?父ちゃんにバレたらやばいで御座るよ!」
しかし三人の心配をよそに、数日が経っても川で土左衛門があがっただの、不審者がうろついているなどという噂は立ちませんでした。
それからというものポケモンゲームにはまった三人は、もうあの川へは寄り付かなくなったといいます。無論、あの一件は彼らの頭からもすっぽりと忘れさられてしまいました。
それから年月は流れ、彼らは成人し、結婚をし、子供をもうけ、仕事に励む毎日を過ごします。
そんなある夜、荒辰青年、いや荒辰係長はこんな夢を見たそうです。
あの懐かしい川べりで、あの懐かしい二人と一緒になぜか正座をさせられている夢でした。
半ズボンなので生足に石が食い込み、その激痛に顔が歪みます。
それは両サイドにいる新之助君も八兵衛君も同じようです。
しかし、そんな痛みも目の前にいる人物をみて消し飛んだといいます。
目の前には頭に握りこぶしほどの大きなタンコブを作った落武者がいました。顔は怒りに満ち溢れているかのように真っ赤です。
「だれが石を投げたんだ?うぬか?」
にらまれた新之助君が頭をぶるぶると横にふります。
「ぼ、僕じゃないで御座る!!」
荒辰係長は一瞬で事態を把握しました。
こいつはあの時の…
あの浮かんでたやつだ…
ずっと記憶の隅にあったしこりのような出来事…
これがそうなんだ…
「ふむ、嘘じゃないな?もし嘘をつけばお主はもちろん、八代先まで祟ってやるぞ?良いんじゃな?」
落武者はそう言うと、今度はゆっくりと荒辰係長の方へ視線を向け、言ったそうです。
「では、うぬが投げたのか?ワシに向かってあの平べったい石を?」
投げたのは八兵衛君です。
それははっきりとおぼえています。
しかし、荒辰係長の横でぶるぶると震えながら口元から泡をだして怯えている八兵衛君のせいにはできません。
この時、荒辰係長は自分の命よりも友情をとる選択をしたそうです。
荒辰「そ、そうナリ…ぼ、僕があの平べっちょい石を投げたんだナリよ…」
その瞬間、落武者の目は吊り上がり、声のドスが三段回も低くなったそうです。
「それはまことか?うぬがあの時、川底のヤマメの交尾を観察していたワシの頭に石をぶつけて逃げた戯け者か?嘘ではないな?嘘をつけば八代祟るぞ?」
荒辰「う…は、はい」
と、その時、荒辰係長は耳を疑う事態に陥ったそうです。
八兵衛「そ、そうです!こいつ!荒辰が石を投げたんです!僕も新ちゃんも無実です!僕たちはただ見てただけなんです!」
荒辰係長はそれを聞いて、色々な感情が入り混じり、思わず目を閉じて奥歯を噛み締めたそうです。
そして、自分は今からこの落武者にどんな恐ろしいめにあわされるのだろうという恐怖と、一瞬で見失ってしまった友情とで、閉じた目からぼろぼろと涙が溢れてきたそうです。
荒辰「いいナリよ。あの事は全部僕が責任をとるナリ。歳は同じだけど、僕の誕生日が一番早いから僕がお兄ちゃんナリ…」
この時、荒辰係長は自分でもちょっと何を言っているのかわからなかったそうです。
落武者「そうかお主らの言い分はよくわかった。じゃがの、ワシは嘘が嫌いじゃー言うたはずなんやがの?お主らちーとワシを舐めすぎとりゃせんかの?おっ?」
落武者は、日本統一の三代目俠和会会長みたいな凄みのある声でそう言ったそうです。
八兵衛「わ、ワシらは嘘なんかついてませんぜ会長!ワシらは会長を日本一の親分にするのが夢なんです!やったのはこの荒辰です!こいつのエンコですむんなら今すぐにでもワシが飛ばしたります!」
落武者会長「ほうか…荒辰。お前はワシになんか言うことはないんか?八兵衛のいう事で間違いないんか?ワレも男やったら泣いとらんではっきりせい!」
荒辰「う…うう…会長…ワシ…ワシ…」
落武者会長「ほんま煮えきらん男やでまったく…よーし、ようわかった。ほな、お前がワシの頭をいてもたんで間違いないっちゅー事やな?枝の人間が親(会長)の頭割ったらどないなるか、覚悟は出来とんのやろな?」
荒辰係長はもうすでにこの時、これは夢なんだと薄々気付いていたそうです。しかし、この緊迫した場面で、逃げ出す事もどうする事も出来なかったといいます。
落武者会長「ほな死ねや」
荒辰係長「……!!」
ぎゃあああああああ!!
次の瞬間、荒辰係長のすぐ左隣りから鼓膜を破るほどの絶叫が上がりました。
荒辰係長はその声に驚き、前につんのめって転び、丸石に頭をぶつけて記憶が飛んだそうです。
プルルルル
プルルルル
電話の音に気づき目を覚ますと、全身汗まみれだったそうです。荒辰係長は見た事もない番号に嫌な予感がしましたが、無視するわけにもいかずでる事にしました。
電話の内容は訃報でした。
子供の頃に仲の良かった衣笠八兵衛氏が事故で亡くなったという報せだったのです。
なんでも、八兵衛氏が子供と公園で遊んでいた際、子供がふざけて投げた平べったい石が運悪く頭に当たり、意識を失ったまま病院に運ばれたものの、そのまま目を覚ます事はなかったそうです。
八兵衛氏の葬儀に参列した荒辰係長は、木魚を叩きながらお経をよむ、坊さんの後ろ姿をながめながら思ったそうです。
「これからは嘘はつかず、正直に生きるナリ」
すると、お経をよんでいる坊さんの頭がグググと九十度回転して荒辰係長の方を向いたそうです。
坊さんはニンマリと笑っていましたが、その頭には握りこぶしほどのタンコブがあったといいます。
坊さん「お前にもワシに嘘をついた落とし前はつけてもらわんとあかんなー」
それ以来、荒辰係長の姿を見たものはいないそうです。
えっ?ではこの話は誰から聞いたんだって?だから言ってるじゃないですか。
日暮新之助さんのお友達の妹の彼氏の親戚の人からだって。
了
作者ロビンⓂ︎
皆さま、文中にでてきます落武者を、Vシネマの帝王、小沢仁志さんのお声で脳内再生していただけますとより一層、物語を楽しめるかと思います…ひひ…