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鱗の少年シリーズ 四話目 『モテ男の典型例』

長編8
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鱗の少年シリーズ 四話目 『モテ男の典型例』

彼と休み時間に話すのが日課になっていた頃の事だ。

その日、私と彼は、クラス内で時間をずらした調理実習の授業があり、事前に休み時間に調理実習で作ったものを交換して食べようと言うことになっていた。

彼とは短期間に結構距離が縮まり、何となく親密な関係にこの頃からなり出した気がする。

調理実習では、卵焼きを作ることになったが、不慣れな男子達は大抵スクランブルエッグか、ふざけ過ぎて黒い塊が出来るなど、割と散々なことになっていたようだ。

私は別段料理が下手な方という訳ではなかったので、適当に出汁と卵を混ぜて、だし巻き玉子を作った。

一応、人に渡すものなので、衛生面と美味しさには気を使ったつもりだ。

ウロコくんはどんなものを渡してくるかと、少し楽しみにしていた。

お互い午前の部で終了だった為、お昼時に彼と合流し、残しておいた卵焼きを彼に渡した。

「はい。残さず食べてね。」

「うん。」

彼は相変わらずの仏頂面で、卵焼きを受け取り、自らの作ったものも渡してくる。

「スクランブルエッグだ。」

やはりと言うか、彼は卵焼きは作れなかったのか、卵を炒めたスクランブルエッグを作って来たようだ。

「家から持ってきたチーズ入ってるからそれで許せ。」

彼にそう言われて見ると、確かに焼かれた卵の端々には、チーズと思わしき乳製品が入っている。

これはこれで美味しそうだとありがたく受け取った。

彼は後半の授業での調理実習だったので、まだ容器は温かい。

クラスに帰って食べようとも思ったが、どうせ一人なので、隠れてウロコくんと食べることにした。

ウロコくんを誘うと、怪訝な顔をされたが、粘るとそこまでこだわりもなかったのか、あっさりと了承された。

二人してあまり人の来ない屋上に続く階段で、コソコソしながら食べていると、不意に屋上の階段下の方で、女の子らしき声がした。

私達がいるのは、その女の子のちょうど死角となる位置で、女の子が居るのは階段の踊り場らしい。

少し立ち上がって覗き込んでいると、どうやらもう一人男の子がいるようだ。

「あ、アイツ知ってる。」

私が座り直すと、ウロコくんも少し覗いたあと座り直した。

「アイツ、ウチと同じクラスの男子だ。イケメンだって凄いモテるみたいだよ。」

「ふぅん。」

興味なさげにウロコくんが相槌を打つ。

調理実習だったからか、作ったものを渡す女子が結構居たようで、彼の机の上は卵焼き、またはスクランブルエッグまみれになっていた。

ウロコくんも、彼のおじいさん譲りなのか、そこそこ顔は整っている(目が三白眼なので怖いけど)ので以外にも彼の机の上には、それなりの量が置いてあったとだけ言っておこう。

「良いねぇ、モテる男は。」

人混みは苦手だが、ああしてチヤホヤして貰えるのは、羨ましいと、私は弁当のおにぎりに手をつける。

「でもアイツ、結構な遊び人だって噂立ってるぞ。」

「え、そうなの?」

おにぎりを食べる手が止まる。

「ウチのクラスで、アイツとキスしたって女が出て来てたけど、他の女もキスしたって言うもんだから、凄い遊び人なんだって、ウチのクラスじゃもっぱら有名なんだ。」

「へえ〜、そんなに軽々しくキスするんだ。いつかバチが当たりそうだね。」

「当たるぞ、今日絶対に。」

「え?」

私がウロコくんを見た瞬間、ぎゃあ!!とさっきの踊り場で、あのイケメンくんの悲鳴が聞こえた。

私とウロコくんがまた下を覗き込むと、彼は卵焼きを見て悲鳴をあげていたようだ。

何でだと思い、私とウロコくんが、イケメンくんが取り落とした卵焼きを見ると、ついつい私も、

「うわ」

と声を上げてしまった。

だって、その卵焼きには、明らかに海苔ではなく、髪の毛と思われるものが糸を引いており、オマケに何やら赤黒い液体まで垂れ出している。

「さっきの女、ウチのクラスで、アイツと恋人だと思ってた女なんだ。多分それが勘違いだって気付いて、ああなったんだと思う。」

「いや、なんでそんな平然としてられるの…ウロコくん。」

私は普通にびっくりしたんだが……。

「だって、さっきの女、日頃から黒魔術とか、黒魔法とか何とか言って、気味の悪い本読み漁ってるの何度か見たことあるんだ。なんか、心霊研究調査部っていう部活の部長やってるって聞いたことある。」

「それ部員いるの?」

「あの女含めて、三人くらいだったと思う。」

「ええ……。」

逆に二人も入部してる奴いるのかよ。

「でも、あの男には良いお灸になったんじゃないのか?」

う〜ん……。まあそれは確かに。

あのイケメンくん、一軍に属しているが、その分かなりのお調子者で、隣にはべらせる女の子が毎日変わってた気がする。

そう考えると、イケメンだなんだと、チヤホヤする気も失せる。

中身は結構クズめな男の子らしかった。

「見てたんなら助けろよっ!!」

「あ、ヤベ。」

イケメンくんが私達に気付き、そう叫ぶのを見て、私とウロコくんは反射的に顔を引っこめる。

だが、時すでに遅し。

階段をドタドタと上がってきたイケメンくんに、ギャーギャー文句を言われたが、私とウロコくんは素知らぬ顔をして、弁当を片付け、階段を降りた。

一人にするな!と逆ギレをかますイケメンくんを後に、私とウロコくんは手を振って自分達の教室に戻った。

結局の所、幽霊とかよりも人間の方が怖いのかもしれない、と私は他人事ながらそう思っていた。

■■

放課後、私は早々に帰る準備をして、教室を出た。

それと同時に、ウロコくんが教室から出て来て、偶然だと私は彼と帰ることにした。

やはり帰宅時間とあって、教室から近い階段には人が多く集まっていたので、私とウロコくんは多少遠回りながらも、別の階段を使って帰ることにした。

階段を降りて行き、一階に着く階段に差し掛かった時、不意にまたあのイケメンくんの頭が見えた。

私とウロコくんが今降りている階段を下った先には、奥まったスペースがあり、そのスペースの先には用務員さん達がよく出入りしているので、恐らくその人達が使う道具が入っているのだろう。

そんなスペースにイケメンくんの頭の他に、女の子の頭が見えた。

「懲りないな、アイツ。」

ウロコくんが不意にそう言った。

どうやら、また他の女の子をはべらせているようだ。

ご丁寧に壁ドンまでしちゃって、何ともまあ良い雰囲気だこと。

「もう帰ろうか。さっきみたいに逆ギレされたら困るし。」

私がそう言うと、ウロコくんはコクリと頷き、一緒に階段を降り始める。

だが、階段を降りて、廊下を歩き出した途端、うわぁああ!!とイケメンくんが叫びながら、またこちらに走ってきた。

今日だけで二回も叫んでいる情けない彼の姿に、私はなんでコイツがイケメンだなんて思ってたんだろう。とそう思った。

当然のようにこちらまで駆けてくると、さっと私の後ろに隠れて、私を盾にしようとするイケメンくん。

シンプルに最低じゃねえか。

引っ付くなと鬱陶しくなり、私はイケメンくんを振り払う。

そうして、彼が叫んだ地点を見てみると、女の子が居た。

女の子はじっとこちらを真顔で見ている。

だが、その手には刃が出た状態のカッターナイフが握られていた。

うわっ…流石にヤバくないか?と私とウロコくんは顔を見合わせる。

イケメンくんへの怨恨によりこうなったのだと分かるような情景に、これは絶対に関わらないが吉だと、ド素人の私でも分かった。

私とウロコくんは、アイコンタクトを取ったあと、イケメンくんを押し退け、靴箱まで全力疾走。

イケメンくんも慌てて、置いて行くなよぉ!!と走ってくる。

それと同時に、「待ちなさいよォ!!」と女の子の声が聞こえた。

やっべえ、やっべえ、と私の頭はとにかく靴箱まで走って、逃げ切ることしか頭になく、ようやく人集りのある靴箱まで来たと同時に、ウロコくんと爆速で靴を履き替え、外まで走る。

ようやく、グラウンドまで出た時、靴箱がある昇降口からきゃあああ!!!という女の子や男の子の悲鳴が聞こえ、それを聞いた職員室の先生が、慌てて出て来るのが見えた。

同時に、遅れてイケメンくんもゲッソリとしながら昇降口から出て来て、当たり前のようにこちらに寄ってくるものだから、

「いやこっち来ないでよ。」

とついそう言ってしまった。

だって、元はと言えば、このイケメンくんが起こした不祥事なのだ。

それに巻き込まれたって、私とウロコくんは何も出来ないし、第一、あの時、私を盾にしたことは許さないぞ。

「だ、だってアイツ、「私と貴方は結ばれるべきなの」とか言って、カッターナイフ出してくるからっ!!」

勝手にベラベラとイケメンくんが話し始めたことによれば、彼女は卵焼きに自分の血と髪の毛を混ぜ、それを食べさせることにより、自分の一部を食べさせようとしたようだ。

そして、放課後に彼の血を貰って、それを自分で食べることで、謎の儀式によりイケメンくんと結ばれると言ったおまじない?みたいなものに手を出そうとしたらしい。

因みに彼女の卵焼きに混ぜた血は経血。

汚ったないことこの上ない。

血液の病気になるぞ。

て言うか、どうやって混ぜたんだ。

いや、聞きたくもないけど。

「でも、それ起こさせたのお前じゃねえのか?」

ひと通り話し終えたイケメンくんに、ブスリとウロコくんが切り込みを入れる。

「お、俺じゃねえよ!!」

「でも、他の女子達とキスしたって噂いっぱいあるみたいだけど、あの子ともしたんじゃないの?」

「………。」

図星じゃねえか。

キスした相手の顔すら覚えてませんって、どんだけこの年で遊んでんだ。

「これに懲りたらもう止めろよ。またああ言う女出て来るかも知れないし。」

幽霊と違って対処出来ないんだからな。とウロコくんは何気なく首を掻きながら、相変わらずの仏頂面でそう言った。

それは確かに。

幽霊とかは大抵気付かないふりをするのが一番良いと言うけれど、人間はそうじゃない。

いつどこで、何が原因で害を成してくるか分からない。それが人間と言うものである。

「コラ、君!!暴れるな!これで何をしようとしていたんだ!!」

不意に昇降口の方からそんな叫び声が聞こえ、見ると、カッターナイフを取り上げられたさっきの女の子が、

「違う!!違うの!!」

とバタバタ暴れている。

「帰ろっか。」

シンプルにこの場に居たくない。

そう思い、私はウロコくんの腕を掴む。

ウロコくんも真顔で頷き、二人して校門に向かって歩き出した。

イケメンくんも慌てて着いてくる。

情けない彼の姿に、私はもう一度、なんでコイツのことカッコイイとか思ってたんだろうか…?とため息を着いた。

ウロコくんも少々鬱陶しそうにしていたが、やはり何も言わず、私の隣を歩いていた。

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