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中編6
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俺たちの百物語

学園祭の終わった晩秋の頃、俺たちは集まった。

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午後11時。

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F大学敷地内奥にある第4号棟。

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蔦の絡まる年季の入ったコンクリート造りの建物2階には文系サークルの部室が廊下沿いにズラリと並んでいるのだが、昼の喧騒とは裏腹に薄暗くてシンと静まりかえっていた。

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その一角にあるのが、俺たちが所属する「超自然現象研究会」の部室。

このサークルは、心霊、UFO、UMAなど世の中にある不思議な現象をテーマに語り合う集まりだ。

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鰻の寝床のような縦長の室内中央に並べられた長机。

電気は消されていて、最奥の窓から差し込む淡い月明かりが室内をぼんやりと浮かび上がらせていた。

窓を背にした末席には、俺が座っている。

左右に並ぶ席には、思い思いに部員たちが向かい合って席についていた。

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男子が7人。女子は3人。

皆目の前には太めの蝋燭を10本置いている。

俺は皆の顔をサッと見渡した後、口を開いた。

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「さあ、そろそろ始めようか」

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俺の言葉と同時に部員たちは各々、ライターで蝋燭に灯を灯し出した。

室内にいるのは俺を合わせて10人。

夫々が手にしている蝋燭は10本。

つまり100本の蝋燭に今まさに火が灯されようとしていた。

そして全ての蝋燭に火が灯された時、室内は一種冥界を思わせるような怪しげな雰囲気に包まれた。

再び俺は喋りだす。

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「当サークルの発起人である田崎先輩があちらの世界に旅立たれて、今日でちょうど49日が経った。

そう残念なことに49日前先輩は、自宅近くの歩道を歩いている時、暴走しながら突っ込んできた大型トラックに跳ねられ、突然にその人生を断絶させられた。

恐らく先輩は何故自分が死んだのか分からぬまま、冥界に旅立ったのだと思う。

それは一瞬のことで痛みや苦しみを感じる間もなかったはずだから、それだけがせめてもの救いだっただろう」

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「先輩はどちらかというといつも俯いていて寡黙であり、また悩み多き人だった。

ただ怪談話が何より大好きだった。

そしてかねてから部員皆で集まり、百物語をやりたいということを言われていた。

だから今晩は先輩の魂を弔うという意味をこめて、これからこの10人のメンバーで百物語を行いたいと思うが、何か異論のある人?」

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俺の問いかけに皆は無言で首を振る。

蝋燭の灯火で浮き上がった皆の顔は、どことなく不気味だった。

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「じゃあ早速、俺から」

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そう言ってすぐ傍らに置いた記録用のマイクロレコーダーの録音スイッチを押す。

そこから秋の夜更けの百物語はスタートした。

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百物語と言っても、がっつりとした長話は無しとして長くとも3分以内に収めるということをこの集まりのルールとしていたから、始めに10人が話し終えた時はおよそ30分が経過していた。

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それからも話はドンドン進み、7巡目になった辺りからだろうか疲れからか、皆のテンションは下がりだしていた。

当然各々が話す内容も、始めの頃に比べると陳腐で単純で短いものになっていた。

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時刻はそろそろ深夜1時になろうとしている。

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俺は一旦しばらく休憩にし、再び1時10分から会を再開した。

そして8巡め途中、男子部員が口を開いた時だったと思う。

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shake

─コン、、、

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背後から窓を軽く一回叩く音がした。

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驚いた俺は思わず振り向く。

皆の視線もそこに集中した。

だが視界に入るのは白いカーテンのぶら下がった窓だけだ。

立ち上がりカーテンを片側に寄せてみたが、窓から見えるのは漆黒の闇だけだった。

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再び男子部員は話を始める。

そして話が終わりかけた時だ。

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shake

─カチッ

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shake

─カチッ

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今度は消しているはずの天井の蛍光灯がパッパッと2回、消と灯を繰り返した。

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「ひ!」

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女子部員の誰かが小さな悲鳴をあげた。

皆キョロキョロと辺りを不安げに見回している。

すると突然、

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「多分田崎先輩、今ここに来てるよ、、、」

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話していた男子部員の正面に座る1年生の女子部員M代がボソリと呟く。

部内一の霊感体質で通っている彼女の言葉により、一瞬で座が凍りついた。

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「ど、、どこに?」

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隣に座る2年生女子部員が不安げな顔で、M代の顔を覗きこみながら尋ねる。

彼女は怯えた顔をしながら震えた指先でゆっくり、ある箇所を指差した。

そこは一団から少し離れた、入口に一番近いところにある薄暗い席。

もちろん、そこには誰も座っていない。

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膠着した状態を打破するため、俺は「とにかく話を続けようよ」と皆に言った。

そしていよいよ9巡めになった頃、皆の疲れは極限に達していたようで部員の何人かはうとうととしだしていたし、女子部員の一人は机に顔を突っ伏していた。

既に時刻は深夜2時を過ぎている。

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それでも何とか話は進んでいき、とうとう最後の10巡めになった。

俺も眠気と疲れと戦いながら頑張っていたが、やはり頭は少々朦朧としてきていた。

一つ話が終わる度に蝋燭の灯火は吹き消されるから、既に室内はかなり暗くなっており、メンバー同士の顔がお互いに確認出来ない程になっている。

それか益々、皆の眠気に拍車をかけた。

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そして3人目だったか4人目だったか、はっきりとは覚えていないが、突然奇妙な呻き声が聞こえた。

後は誰がしゃべっているのかいないのか分からないくらいのボソボソという呟きがした後は沈黙が続き、それから次の者が語りだし百物語は全て終わった。

最後の者が目の前の蝋燭の灯火を吹き消した途端、室内はスッポリ漆黒の闇に包まれた。

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翌日夕刻に再び俺たちは、部室で一堂に会する。

昨晩俺が録音した百物語の音声を聴きながら、皆でリラックスしてコーヒーを飲みつつ雑談していた。

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前半の辺りはまだ皆心身ともにしっかりしていたから互いの語りに対して、ああだこうだと批評し合っていた。

だが中盤から後半になると眠気と疲れが積み重なり、記憶も曖昧になっていき皆の言葉数は減っていく。

そしていよいよ最後の辺りにさしかかると、とうとう座は沈黙に支配されるようになってしまった。

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「ごめん、この辺は悪いけど全く記憶にないわ」

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男子部員がボソリと言うと、女子部員の数人も「ごめん、私も」と続ける。

再び沈黙が続いた。

その時だった。

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「ウウウ、、、アアアア、、、ウウウ、、」

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突然レコーダーから聞こえてくる奇妙な男の呻き声。

皆は顔を見合わせると同時に、室内を緊張が走る。

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─あの時の声だ!

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それは地の底から響いてくるような、悲しげな呻き声。

昨晩から気になっていた俺は、ここでレコーダーのボリュームを目一杯あげる。

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それから曖昧だった音声の全てが明らかになるとともに、全身が凍りついた。

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「ヤ…ヤ…オ……シ…カ………ヤ…オ…オ…カ…カ……」

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「ヤ……オオレ……シ……カ…ヤ…ヤ…オオレ……シ……カ……」

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「ヤッパ…オレ…シ………カ…ヤッパ…オレ…シ………ヤッパリ……リ」

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「ヤッパリ…オレ…シ………?」

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「ヤッパリオレシンタ…ノカ?」

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「ヤッパリオレシンダノカ?」

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「やっぱり俺死んだのか?」

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その場で皆に尋ねたが、こんなことを喋ったという者は誰もいなかった。

それから女子部員の全員が気分が悪くなったと言い、帰って行った。

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部室を出る頃にはもうすっかり外は暗くなっていたが、俺は隣町の寺にある田崎の墓を訪れ、住職に供養のお願いをした。

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fin

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Presented by Nekojiro

Concrete
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