中編4
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ひっぱる

私は二十歳の男子大学生です。

私の同級生で高木君という男がいます。

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彼は深夜のファミレスでバイトしているのですが、その店が結構暇らしくて特に深夜になると客がいなくてガランとしているということでした。

それである日の深夜、眠れなかった私は気分転換にぶらりとそのファミレスに行ってみたんです。

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その店は私の住んでいる大学近くのアパートから歩いて5分ほどのところの、あまり人気のない県道沿いにポツンとありました。

深夜零時ちょっと前くらいだったんですけど、駐車場には数台しか車が停まってなくて店に入ったら案の定店内はガランとしておりました。

すぐに制服を着た高木が笑顔で対応してくれて、真ん中辺りにある通路沿いの四人席に案内してくれたんです。

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ドリンクサービスをオーダーした後、ドリンクサーバーでコーヒーを入れて席に戻ると、最近買った読みかけの文庫本を読んでいました。

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しばらく没頭して読んでると、突然誰かがジャケットの裾を引っ張るんです。

え?と驚いて見ると、傍らに五歳くらいの男の子が立っています。

赤のトレーナーにジーパン姿をしていて、私の服の裾を掴んだまま今にも泣きそうな顔をして「お兄ちゃん」て言うものだから「どうしたの?」って尋ねたのですが、ただじっと悲しげな顔をしながら上目遣いで見ているだけです。

すると、

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「ほら、そのお兄さん、困ってるじゃないの。

いい加減にこっちにきなさい」

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いきなり女の人の声がします。

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ふと見ると、私の座る二つ後ろのテーブルに夫婦らしい中年の男女が並び座っていました。

男の人は背広姿で女の人はベージュ色のブラウスを着てて、女の人の方が苦笑いしながら、

「早く来なさい。お兄さんに迷惑でしょ」と言ってます。 

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そしたら男の子はいかにも名残惜しげに私の顔を見ていたのですが、最後は諦めたように夫婦の方に走っていきました。

その後夫婦は私の方を見ながら申し訳なさそうに頭を下げるものですから、私も軽く会釈だけしました。

それから小一時間ほどで私は席を立ち、会計の時に少し高木君と会話した後、店を後にしたんです。

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翌日、午前の講義のあった私は朝イチから出席し、昼は学食で昼御飯を食べていました。

その日はそんなに混んでなくて比較的楽に席が見つかったものですから真ん中辺りの席に座り、ゆっくりとランチを楽しんでいたんです。

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そしてあらかた食べ終えて、さあ行こうかな?と立ち上がろうとした時、いきなり誰かがTシャツの裾を引っ張るんです。

え?と驚いて振り返った時、昨晩見た男の子が立っています。

赤のトレーナーにジーパン。

間違いありません。

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彼はその時私に向かって確かに「お兄ちゃん」と呟いたかと思うと、そのまま後方に向かって走り、その先のテーブルに座りました。

男の子の風体は昨日と同じだったんですけど、ただ顔や手足は何故か真っ黒でぼやけた感じでした。

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そのテーブルには夫婦らしき男女が座っていて、私の方を見ながら微笑み会釈してます。

その2人も昨晩ファミレスで見掛けた人たちだったと思います。

ただ彼らも男の子と同じように顔と手足が真っ黒でぼやけていて私は何だか無性に恐ろしくて、その場に呆然と立ち尽くしていたんです。

しばらくすると私はトレイを持って食器返却台へと歩いて行きました。

その時に親子の座っていたテーブルの方を振り返って見たのですが、もう誰も座っていませんでした。

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午後からは講義もなかったので何とはなしにブラブラとキャンバスを歩いていると、正面から高木君が歩いてきます。

バイト明けだからでしょうか、その顔はかなり憔悴しきってました。

すれ違いざまに「元気?」と声をかけると、ちょっと驚いたように私の顔を見て「ごめん、ちょっと今から少し時間ある?」と言うので、2人並んで近くのベンチに座りました。

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しばらくして目の前を行き交う学生たちを眺めながら、高木君は訥々と喋り始めました。

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「実は昨晩きみが帰った後、朝方まで仕事してアパートに帰ったんだ。大学は午後から行くつもりだったから少し仮眠をとろうと横になっていたんだけど、しばらくして携帯が鳴ったんだ。

でると僕と入れ替わって入った朝勤務の人からで、何か切羽詰まった感じだったからどうしたんですか?て聞くと、深夜から駐車場に停まっていた車から親子の遺体が発見されたということだった。警察の話によると、車を閉めきり練炭を炊いて無理心中していたみたいで、3人は互いの片腕をロープで繋いでたというんだよ。

逃げ出さないように、、、」

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私の背筋に冷たい何かが走りました。

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高木は怯えた顔で話し続けます。

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「僕さあ、最後に会計したから、その親子のこと、はっきり覚えてるんだよ。

お父さんは背広着てて真面目そうな感じで、お母さんはベージュのブラウスで優しそうな感じだったんだけど、男の子は本当に悲しそうな顔でじっと上目遣いでこっちを見てたんだ。

僕、その時の顔がどうしても忘れられなくて、、、」

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高木君は一通り話すと、がっくりと項垂れました。

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いつの間にか私の心臓は激しく脈打ちだしてました。

そしてガタガタと震える両膝を止めることが出来ませんでした。

何故なら、

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さっきからまた誰かが服の裾を引っ張っているから。

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fin

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Presented by Nekojiro

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