怪奇ショートその二 「あの家には幽霊が出る」

中編3
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怪奇ショートその二 「あの家には幽霊が出る」

あの家には幽霊が出る。

家というのは私の実家だ。もっとも正確にいえば父方の祖父母の家である。私は三歳の時に交通事故に遭った。運転手は父親。自分と同乗していたのは母親と生後一か月の妹だった。追突事故に巻き込まれてしまったらしい。

母親と妹は死亡。奇跡的に私と父親は生き残った。それから色々あって私たち親子は祖父母の家に居候することになった。

 その家で霊が出るのだ。もちろん自分には霊感がないので目撃したことはない。ただ、目撃証言が多い。身内だけではなく、家を訪れた人間までもが見たと言っている。

目撃されているのは、白い着物を着た長い黒髪の女だという。身内はそれを私の母の霊だと信じ込んでいるのだ。母の葬式の日から目撃するようになったからだという。

 だが、果たしてそうなのだろうか?

父親の話によると母親は和服を着る人ではなかったという。それに事故があった当時も白い服は着ていなかったそうだ。

 確かに古典で幽霊といえばだいたい白い死装束を身につけている。だが、現代において実話怪談や創作ホラー小説などでは死んだ時の姿で現れている。自分もその方が理にかなっていると思う。何故ならば人間は死んだ瞬間に死霊になるわけだし、死後に着せられた服で出てくるのはちょっと無理がある。それにもう一つ、その女が母親ではないと思う理由がある。

 それは祖母が語っていた体験談を耳にしたからだ。祖母はその家に住み始めた頃、恐ろしい体験をした。私の父と母がまだ知り合っていない時代のことである。

 ある日。祖母は二階の部屋で昼寝をしていた。気持ちよく寝ていたのだが突然の息苦しさに目を覚ました。目を開けると見知らぬ女が体の上に馬乗りになって自分の首を絞めていた。女の服装は白い着物。黒くて長い髪を振り乱し、青白い顔に憎悪に満ちた表情を浮かべながら祖母を睨んでいた。とっさに祖母が心の中で般若心経を唱えると女は消えたらしい。祖母はそれ以降は目撃していないと言っていた。

だが、私は自分の母親だとされている霊の正体こそ、祖母を殺そうとしたこの死霊だと考えている。霊の出没する場所は玄関、廊下、階段下、風呂場なのだが昼間でも薄暗い雰囲気が漂っていた。

霊感は無いと言っていたが一度だけ気配を感じたことがある。それは中学生の時。一人で留守番をした夜のことだ。私は廊下の一角に面した部屋で寝ていた。深夜、物音で目を覚ました。廊下を歩き回っている足音が聴こえたのである。自分以外には誰もいない。気になって懐中電灯を手にとって家の中を見回ったがなにもいなかった。闇に何かが蠢いているような気がして怖くなり、急いで部屋に戻って布団にもぐり込んだのを覚えている。

 長い月日が経った後、祖父母の家は誰もいなくなった。私が十八歳の時に祖父は他界し、祖母は老人ホームに入所。そして、同じ年に私は上京して一人暮らしを始めた。父は祖父母の家を相続したが一人で一軒家に住んでも税金がかかるだけなので不動産屋に売りに出し、他の地域に引っ越してアパートを借りた。

 私が上京してからすぐにあの家はすぐに買い手が見つかったらしい。父の話によれば、その買い手は都内から移住してきた若い夫妻だったという。幸せそうに暮らしていた様だが二年後、夫妻は首を吊って自殺してしまったそうだ。そのせいで事故物件になり、いまだに買い手は見つかっていないらしい。

 売却された家の現状を父から電話で教えられた日の夜に妙な夢を見た。

 夢の中で私はあの家のキッチンに佇んでいた。目の前に流し台があり、そこに白装束の女がいてこちらに背を向けて何かやっている。顔はわからないが体つきや長い髪から相手が女だということは容易に想像できた。

 女はこちらの気配に気づいたらしく、振り返りもせずに声をかけてきた。

 「なんであんたたちを生かしていたと思う?」

 突拍子しもない質問に驚いて聞き返そうとしたがそこで夢は終わってしまった。

 一体、あの女は何者だったのだろうか?

 家で目撃された霊と同じ存在なのか?

 そして、何を伝えたかったのか?

 全く分からないことだらけだ。

 

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