超短編小説「猫角家の人々」その15

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超短編小説「猫角家の人々」その15

猫角姉妹と名古屋のホース・エージ修理工場の中華麺社長(仮名)が組んで起こした「自作自演詐欺」も、自動車保険を悪用した成功例だった。中華麺社長が用意した偽装事故の相手方、名古屋中区のチョン某と猫角克子が乗用車同士で交通事故を起こしたことを偽装する。克子は、事故でむち打ち症になったことにする。克子は、HA社の中華麺社長が指定してきた海千病院にて整形外科の医師、山千鷺夫の診察を受ける。「山千先生じゃないとだめですよ。話し通してありますから。」と中華麺社長は、念を押したのだ。

克子は、痛くもなんともない首筋をさすり、「先生、事故以来、首が回らないんですよ」と真っ赤な嘘の申告をする。「借金で首が回らない」なら、あながち嘘ではないが。

事情を分かっている山千医師は、診察などしようともせず、克子にニヤリと目配せをして、「重度の頸椎ねん挫を患った。30日の休養安静を必要とする。」との診断書を、たったの30秒で作成してくれる。いつも使っている診断書のフォーマットの日付と患者氏名を変えただけなのだ。あとは三文判を押すだけだ。診察が始まってから、正確に、3分15秒後には、克子は、欲しかった通りの診断書を手に診察室を後にしていたのである。

毎日のように偽診断書を発行して、小金を手に入れている山千ドクターである。毎晩のように、キャバクラでお気に入りのペストちゃんかマラリアちゃんを指名して豪遊できるのも、偽診断書の需要のおかげなのだ。

休業補償だけではない。自動車の損傷についても、ホース・エージ修理工場が「大破した」旨の報告書を書いてくれれば、実際の損害よりも高額の保険金を受け取ることができる。こうして、世の中が自動車保険詐欺に寛容であった時代には、猫角姉妹も中華麺社長も、そこそこ儲けることができたのだ。

だが、時代の趨勢は、保険金詐欺業界に暗雲をもたらした。あまりに頻発する不審な請求に、損保会社が対策を取り出したのだ。損保会社は事故の当事者だけでなく、同乗者や修理工場、医療機関まで調査をするようになったのだ。結果、不正に加担した疑いのある修理屋と病院を割り出すことができるようになった。ブラックリストに載った修理屋、病院を使った不正請求を不可能にしたのだ。

かくして、猫角姉妹、中華麺社長の自動車保険錬金術は、ついに暗礁に乗り上げたのである。(続く)

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